275.ブリヒース王国
「では、出発するぞ」
「お願いします」
朝食の後、私は装備を整えてからアヤネと共に庭へと出た。
どうしても逃げられたくないのか、騎士さんやメイドさんがあちこちでこちらを監視していたのが気になったかな。
馬車にはラド王子と私、そしてアヤネと騎士さんが一人乗り込んでいた。
ゆっくりと歩を進める馬車の窓から、私は外を眺めることにした。
「町まではそれほど遠くないんだ」
「そうですね。なにかあった際にすぐ駆け付けられるようになっています。それと、攻められるという想定はしていないからですね」
私が町までの距離をはかっていると、騎士さんが口を開いて肯定してくれた。もし戦いがあった場合すぐに城へ到達してしまう。だからヴァッフェ帝国はそれなりに距離があり、丘の上にあったのだ。
「戦争……歴史上無かったんですか?」
「ないわけではないが、地形的に攻めるのが難しい。そういう場所に城を建てているのだ」
「なるほど」
戦争は過去あったけど、森と湖があるため軍勢を町の入り口に通じる道以外は広く周囲を視認できるので隠れる場所はないみたい。
少し城から離れたら隠れるには絶好の場所っぽい木が生い茂っている場所があるけど、そこから城へ入るには高い城壁を登らなければならない。攻められないという自信があるというんだろうというのがよく分かるわね。
「さ、町へ着きましたぞ聖女様。どこから行きましょうか?」
「聖女様はやめてくださいよ」
『聖女様、雑貨なんてどうでしょう……痛い……!?』
「止めなさいって言っているじゃないですか』
「ふむ、ウチのメイドとは打ち解けているのだな……」
「あ、いえ……すみません……」
町の門を抜けると騎士さんが笑いながらどこへ行くか尋ねて来た。アヤネが調子に乗って続けたので、私は頬を引っ張ってやる。
ラド王子が興味深いと顎に手を当ててこちらを見ていた。
「私も町に出ることは殆どないし、興味はある。だが、どこを見るべきかは……正直わからない」
「町にはお忍びでも出ないのですね。とある国の王様は町の様子を見るため、変装をして酒場に通っていたりしましたよ?」
「……危機感が足りない王だ。まるで父上の……あ、いやなんでもない」
「?」
王様のことをなにか言おうとしたけどすぐに口をつぐむラド王子。朝の件といい、仲があまり良くないのかもしれないわね。
「で、どこへ行きたいのだ?」
「あ、そうですね。では雑貨のお店に。その後は――」
というわけで町並みを見るため、私は雑貨店を皮切りにあちこちを見て回った。雑貨店では適当にポーションやランタンといった冒険に欠かせないものをチェックし、買ってもらった。
武器もそうだけどハリソンとソアラの馬車に殆ど荷物を置いていたので、私自身が今後ここから冒険に出るための道具が欲しかったというのもある。
武器は城にあるものの方がいいらしいのでスルーした。その他には八百屋さんや食堂、広場などを巡ってもらう。
「……こんなことをして何の意味があるのだ……?」
「まあ、聖女様の言う通りにしましょう」
『そうですね、彼女にとってやらなければいけないことでしょうし』
「なにを知っているんだお前は……!?」
ラド王子は黙ってついてきてくれているけど、時間の無駄という感じの雰囲気を出していた。騎士さんは苦笑しながらまあまあと制し、アヤネは知ったようなことを言って驚かれていた。
国の内情は町並みを見ればわかる、というリクさんの教え通りに町をぐるりと一周してもらった。
結果としてこのブリヒース国の内情は悪くないと思った。
何故かというと、町の人達には余裕があったから。
「いい国ですね」
「む、そうか。そう言ってくれると嬉しいものだな」
まず、生活に余裕があった。
次にラド王子を見ても忌み嫌うような人が居なかったこと。恐縮はしているけど憎むような人はどこにも居なかった。
かなりあちこちを回ったので出会う人の様子を伺っていたけど、ラド王子や王族、騎士さんを嫌な目で見る人はいなかった。
性格に難がありそうな王子だけど、ちゃんと国は維持しているようだった。町にはあまり来ないと言っていたから、王様の手腕かもしれないけれど。
『武器はいただくとして、食料と道具も手に入りましたねミズキさん。他には?』
「うーん、もしできるなら……」
「おや、他にもなにかあるのか?」
アヤネが買った荷物を見て尋ねて来る。
基本的に買い物はついでみたいなものだからどちらでも良かったんだけど、頷いておいた。
他に必要なもの……私はそう言われて少し考えてみた。
「……そうですね、もしよければ馬が一頭欲しいです。水の精霊様の件が済んだら旅立つので。東の大陸へ戻らないといけないのですけど、ギルドで確認した地図からするとグランシア神聖国まではかなり遠いみたいなので」
「馬か。君は乗れるのかな?」
「もちろんです。ハリヤーさんというお馬さんで練習しましたから」
「よくわからないけど、とてもいい馬だったのですね」
私が自信をもって乗馬が出来ると口にすると、騎士さんは苦笑しながらもハリヤーさんを褒めてくれた。
自分のことではなく、馬を褒めたのがそう思った要因のようだ。
するとラド王子は顎に手を当てて考える仕草を見せた。少し間があった後、口を開く。
「馬車でなくていいのか?」
「ええ。私一人なら一頭、都合していただければ乗っていきます。なので水の精霊様のところへ行く時も乗りますよ」
「そうか……やはり出ていくことは変わらないか」
「はい。もちろん、助けていただいたお礼はしますので、水の大精霊様のことが終わるまでは居ますよ」
「うむ。では昼も過ぎたことだし、後は戻って昼食を食べてから馬を紹介しよう」
「よろしくお願いします」
そんな調子で半日を終え、お城へと戻っていく。
馬車を置く際、ラド王子と別れてアヤネと一緒に食堂へと向かった。
『馬とはよく考えたね』
「どうあってもここからは移動しないといけないし、お金を寄越せだとちょっと恩着せがましい気がして……」
『馬は高いけどね? まあ、それくらいが確かにいいのかもしれない』
「……? どうしてドヤ顔を……?」
何故かアヤネが私の選択を聞いてドヤ顔を決めていた。よく分からない存在よね、実際。
そのまま食堂へ行くと、そこにはすでに王様が座っていた。
「戻って来たか」
「ごきげんよう、エッケハルト様」
「うむ……明日、大精霊様のところへ向かうのだな」
「はい」
私は頷くと、アヤネが引いてくれた椅子に座りラド王子達を待つことにした。そのまま、無言で座っているとふと視線に気づいた。
「……」
「あ、えっと……何か?」
「いや、なんでもない」
「待たせたな。おや父上、おはようございます」
「おはよう、ラド」
挨拶はするけどなんとなくやっぱり仲が悪いんだなと思いつつ、私は昼食を終える。雰囲気でわかるんだよね、実家みたいで。
そして特にこちらからは話すことはないので無言の昼食となってしまった。
「さて、馬だが今、ここに居る馬でフリーなのはこれくらいだが……馬は自分の背に乗せる者を選ぶ。気を付けてくれ」
「ええ」
『カッコいい馬がいいのでは?』
「なんでですか!」
お昼を終えた私達は城にある牧場へ足を運んだ。かなりのどかな雰囲気に、少しほっこりする。
カッコいい馬はみんなそうだと思うし、どうしようかなと一頭ずつ見ていく中、隅の方で寝ている馬を見つけた。
「あの子は?」
「あー、あいつはいい馬なんだが最近、親を亡くしてな。それからずっとあんな調子だ」
「親を……乗るかどうかはともかく、ちょっと気になりますね」
牧場を管理しているおじさんに聞いてみたところ、雌のお馬さんらしい。歳だったので老衰だったそう。
でも、やっぱりお母さんを亡くすと辛いのは分かる。
少し後ろ髪を引かれる思いをしながら、私はお馬さんの選定を始める。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます