229.手助けと頼み事


「えっと、依頼のアーマーライノを討伐してきました」

「え? まだ出て行って数時間なんだけど……」


 受付の女性に討伐報告をするときょとんとした顔で返された。周囲の冒険者達も驚いていたり、訝しんだ表情でこちらを見ていた。するとレムニティが目を瞑ったまま口を開く。


【時間は関係ないだろう? 終わったという報告を受けたのであれば確認をするのではないのか?】

「あ、は、はい!」

「すみません。外に来てもらえますか?」


 僕はレムニティに肘で脇を突きながら言う。気を遣うってことはあまり分からないのだと思うから仕方ないと思うけど。

 そのまま受付の女性と一緒にギルドの外に出ると、そこにはアーマライノが載った荷車があった。


「どーもー♪」

「あら、あなたリースンじゃない。戻ってたのね」

「ふふん、私も依頼を達成したわ。どう、ヒュージトード」


 森で出会った女の子、リースンが気さくに挨拶していた。僕の倒したヒュージトードは彼女の依頼だったらしい。

 倒してくれたお礼を兼ねて、ということで僕達の獲物であるアーマライノを一緒に乗せて町まで帰ろうと提案してくれたのだ。


「え!? ……確かにアーマライノとヒュージトードの死体だわ。あなた達、手を組んだのね」

「結果的にそうなっただけですけどね。これでいいでしょうか?」

「ええ、もちろんよ! これで水辺の採取依頼も復帰できるわ。ちょっと待っててね」


 満面の笑みでそう言って受付の女性は一旦ギルド内へ戻り、その後すぐに作業員みたいな人達を連れて入口に現れた。


「では報酬をお渡ししますからフウタさんとリースンはこっちに来て」

「あれは?」

「わふ」

「後は解体して素材になるから職人さんに引き渡すわ」


 どうやらこれで依頼は完了のようだ。受付に行って認めないなんてことがあったら怒るけど、悪徳なところだとありそうだよね。

 

「では、まずリースンからね。ヒュージトードは金貨三枚になります」

「やった! ラッキー♪」


 自分で倒していないからその言葉は合っているなと苦笑する。そうしていると僕の腕に絡みついてきた。


「そっちはー?」

「ちょっと……くっつかないで欲しいんだけど……」

「いいじゃない」

「こっちがフウタさんで、金貨十枚ですね」

「すご!?」

【当然だな】


 レムニティは小さく頷きながら呟いていた。依頼書に金額が掲載されていたから僕達は特に驚かない。確かリクさんの話だと金貨は一枚一万円くらいの価値だと思っていいとのこと。十万円を一気に稼いだ形だ。


「確かに……人によって冒険者は儲かるなあ」

「Bランクあるフウタさんならいくらでも仕事はありますよ! 次は――」

「あはは、とりあえず宿に行って休みたいので機会があれば、また」

「ああ、そうですね。また明日!」

「え、マジで!?」


 受付の女性と、リースンの手をやんわり外してから踵を返す。少し離れてファングと待っていたレムニティに声をかける。


「行こうか、レムニティ」

【ああ。食事にしよう。ファングもご飯が食べたいだろう?】

「わふ!」

「はは、ご飯が先が良さそうだね。どっかいいところを探そう」


 レムニティはお腹が空いているようだ。なぜかファングをダシにして話を進めようとするのが面白い。

 ペットOKのところを探さないと、なんて話をしながらギルドを出たところで背後から声をかけられる。


「待ちなさいよ!」

「え? ああ、リースンか。荷車ありがとう。おかげでこいつに食事をさせられるよ」

「うぉふ」

「その子、可愛いわよね! って違う! さっきから私みたいな美少女を置いてあっさりスルー出来るわね!?」

「いや、用はもう終わったし……」


 正面に回り込んできて捲し立てるようにそんなことを口にする。僕は両手を前に出し、顔を背けて答える。

 するとリースンは口を尖らせたまま続けた。


「……どこかで女を待たせているとみた」

「ぶふぉ!? なに言い出すんだよ……ま、まあ、納得するならそれでもいいけど。それじゃ――」

「まだ話は終わっていないわ」

【ふむ、なかなか速い】


 歩き出した僕の前に再び回り込んで来たリースンにレムニティが感嘆の声を上げる。


「……とりあえずここだと目立つわね」

「まあ……」


 周囲の状況に気を配れる子らしい。

 そんなことを考えているとひそひそされている中、彼女は僕の手を取って前を歩き出した。


「ひとまず食事ね! 私がいいところを知っているから案内するわ! もちろんワンちゃんも入れるわよ」

「わかったよ! ついていくから手を離してくれ!?」

「なんだか逃げそうだし、だーめ♪」

【なんだかわからないが、食事が出来るならいいのではないか?】

「わん」


 自分が当事者じゃないからと勝手なことを言うなあ。

 行ったら彼女の仲間が居てカツアゲ……なんてことはないか……

 そのまま大人しく手を引かれて着いて行くと、路地の方へ入って行った。


「やっぱりカツアゲ……!?」

「え? なに? あ、ここよ。マスター! お客さんを連れて来たわよ」


 そこでようやく僕の手を離して、リースンは到着した建物の扉を開けて中へと入っていく。確かにいい匂いが漂ってくるなと僕達も中へ。


「へっへっへ……!」

「うわ、ファングの涎が凄い!? レムニティ、汚しちゃ悪いからこれで拭いてやって」

【わかった】


 匂いにつられたのかファングが目を細めて口をだらしなく開けていた。確かにこの匂いは空腹を刺激する。


「リースンか? ちょうど客が居ないからすぐ出せるぞ。っと、友人か? 珍しいな」

「まだそうじゃないんだけど、依頼を手伝ってくれたの。だからそのお礼ねー」


 カウンターの向こうから野太いおじさんが顔を覗かせていた。友人かという質問に対し、リースンが肩を竦めて状況を説明する。


「ほう、ということは冒険者か。ん? なんだ、可愛いのを連れているな。暴れなければ居てもいいぞ。なんにする?」

【我々はこの店は初めてだ。なにが美味い?】

「お、こっちの兄さんは分かってるわね! オススメを頼もうと思ってたところなの。マスターよろしく~」


 リースンが適当に持ってきてとマスターに頼み、僕達は着席する。


「妙に高い料金だったりしない……よな?」

「なにが? 高くても銀貨2枚くらいだけど?」


 二千円くらいらしい。


「この後は宿に行くだけでしょ? ちょっといかない?」


 リースンはにやりと笑みを浮かべてジョッキを傾ける仕草をする。……お酒、ってことだろう。だけどリクさんはあまりいい顔をしなかったから、この状況では止めておこう。


「僕は止めておくよ。明日は町を出ないと行けないしね」

「えー折角稼いだのに! ……なんてのは建前で、Bランクのあなた達にお願いがあってきてもらったの」

「お願い? 折角だけど、僕達は北へ向かうつもりなんだ」

「え!? う、うーん……話だけでも! お金になるわよ!」

【金は必要だろう。聞くだけ聞いてみたらどうだ?】

「そうだなあ……」


 先を急ぎたいけど、レムニティは足場を固めておいた方がいいのではと、膝のファングを撫でながら僕に言う。

 それならとリースンへ頷くと、スッと表情を変えて語り出す。

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