連戦
「勇者さま。おめでとうございます。第三の試練も見事に果たすことができましたね。これでもう道のりの半ば以上は過ぎました。私がこんなことを言うのも変なのですが、まさか第二と第三の試練が連続していたなんて驚きです。息を継ぐ間もなくすぐに次の試練に臨むなんて、なんと過酷なのでしょう」
「そんなことはない、ですか? 勇者さまの力が十分に回復しきっていないときに連戦を強いられることもありえる。だからそれに備える必要がある。なるほど。確かに魔王の配下には特に力の強い幹部がいます。中には共闘したり連携したりする者もいるでしょうね。あ、魔王の幹部といえば、ここの包囲に加わっていた者のうち2名ほどが姿を見なくなりました。きっと勇者さまのところに向かったんだと思います。お気をつけてくださいませ」
「あら。なんだか、以前に比べると力強いお声になった気がします。炎の精霊の試練を乗り越えたことで相当自信を深められたご様子。とても頼もしいです。炎の精霊はとても強力でしたでしょう? その試練に打ち克つためには冷静沈着さも求められたことと存じます」
「既に勇者さまはかなりの成長を遂げられました。もう人としては最強といえるかもしれません。残る試練はあと一つです。それを乗り越えられれば、ついに魔王も打倒せるほどの力を身につけられるはずです。それまではなんとか私たちも持ちこたえられそうです。私たちの最後の希望、勇者さまがその力を得られることを祈っております」
「最後の試練を課す風の精霊は、彷徨える砂漠にいます。通常の方法ではたどり着くことはかないませんが、勇者さまなら大丈夫です。身につけられている剣を抜き放ち、天に掲げてください。柄に埋められた宝石から光が放たれるはずです。その方角に彷徨える砂漠があります」
「光は太陽の方角を指していますか、ということは……。勇者さま、これから進む道では、今までよりはずっと強力な魔物と遭遇するはずです。魔王軍の侵攻が始まったころに調べさせたのですが、その方向に魔王の本拠地があるだろうという報告でした。当然魔王も本拠地は固めているでしょう。でも、今の勇者さまは、この世界に来られたばかりの頃とは違います。もうよほどの相手でなければ勇者さまには敵わないでしょう。ただ油断は禁物です」
「勇者さまお一人に重荷を背負わせて申し訳なく思っています。できればお側に駆け付けて勇者さまの支援ができたら、何度も考えました。でも、私には私の戦いがあります。今は勇者さまが最後の試練を終えて、駆け付けてくださるのを待ちます。そうしたら、聖地を囲む魔物を掃討し、共に魔王の本拠地に参りましょう。私の召喚魔法で勇者さまをサポートしてみせます。そのためにも、一刻も早く、風の精霊の試練をクリアしてください」
「何か隠していることがあるですって? 明敏でいらっしゃるのも良し悪しですわね。実はファーラの戦況は思わしくありません……。先ほど、魔王軍の幹部二人の姿が見えなくなったと申し上げました。逆を言えば、それだけ魔王軍には余裕があるということです。日々、私たちは多くの魔物を倒しています。その率としても絶対数としても私たちの方が多く倒しているのは間違いありません。でも……、それでもなお、魔物の数は私たちを凌駕しています」
「勇者さま。お願いです。この苦しい戦いを笑顔で終えられるように力をお貸しください。勇者さまに頼りきるその歪さは理解しています。自分たちの力ではもうどうしようもないことが悔しいです。それでも、私たちが今日生きていられるよう死んだ者のために生き延びなくてはなりません。それには、もう勇者さまにすがるしか道が残されていないのです。見ず知らずの私たちのために剣を振るってくださる勇者さま。どうか、私たちをお救いください」
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