勇者の声
「……勇者さま。第一の試練達成おめでとうございます。もちろん私は乗り越えられると信じてましたわ。それでも、実は……ほんのちょっとは心配していました。水の精霊は……、その……魅力的な外見をしておりますでしょう? 少々いたずら好きなところもありますし。でも、勇者さまは意志の強い方ですものね。それに勇者さまが頑張っていらっしゃるときに、私が勇者さまを信じなくては問題でした。それでは何か、お声を出してみていただけませんか。どんな言葉でも結構です。もし急に言葉を選ぶのが難しいということであれば……、私の名をお呼びくださいませ」
「……。すてきなお声ですわね。力強さの中に柔らかさを含んでいて……。ああ。感慨にふけっている場合ではありませんでしたわ。失礼いたしました。それと、私を呼ぶ時はレオーネで結構です。私に対して敬称は不要です。これからは私に何かを伝えたいときは声に出して頂ければと存じます。勇者様のお心の内が分からなくなるのは残念ですけど。ああ……。私としたことがなんということを……。普段ならこのようなことはないのですけれど。勇者さまも疲労が蓄積しているとつい口から出てしまう経験はありませんか?」
「試練の後でお疲れのところなのに、勇者さまは私のことを心配していただけるのですね。それではお言葉に甘えて、少しだけ私の置かれている状況をお聞き頂けますでしょうか。どうやら魔王軍も勇者さまが到着する前にここを陥落させようと、より一層攻撃の手を強めているのです。魔王軍は夜の方が活動が活発になるので、私たちも昼夜逆転した生活になっていますの」
「昼間はいつもなら私も仮眠をとる時間なのですが、勇者さまに声を届けられるのは太陽の高い時間の方がうまくいくのです。それに勇者さまのことが気になってしまってあまり眠れなくて……。睡眠不足や心労からの疲れのせいで余計なつぶやきが漏れてしまったようです。粗忽な私を笑ってくださいませ。それなのに、そんな優しい労わりの言葉をかけてくださるなんて、本当に勇者さまはお優しい方なのですね」
「……。そうですね。ここまでお話したので全て打ち明けます。本当は不安なのです。魔王軍の猛攻がこのまま続いたら、守りが打ち破られてしまうのではないか、ほんのちょっとの手違いで城門を落とされてしまうのではないかと……。すみません。勇者さまを急かすつもりはまったくないのです。ただ、他の者には私の気弱なところを見せるわけにはいかなくて。勇者さまなら受け止めてくださるかと厚かましくお話をしてしまいました」
「自分で良ければいつでも頼って欲しいですって? そんなことを言われてしまったら、王女という立場を忘れて際限なく弱みをさらけ出してしまいそうです。いえ。そんなことではいけませんわね。私はまだ小娘とはいえ、王女なのですからしっかりしなくては。勇者さまに少しお話を聞いていただいたお陰で心が軽くなった気がします。ありがとうございました」
「さて、勇者さまは見事に第一の試練を乗り越えられました。これから進むべき詳しい道筋は水の精霊がお伝えすると思いますが、湖に向かう途中でも見えた一番高い山に登っていただくことになります。勇者さまの故郷にある山より険しいですか? 勇者さまの世界のことをもっとお聞きしたいですけど、今はそのような時ではないですね。お会いできたときの楽しみにします。それを励みに私も頑張ります。それでは話を戻しますね。山の頂では大地を統べる第二の精霊が勇者さまを出迎えるでしょう。空気が薄く太陽が照りつける過酷な場所ですが、そこでの試練を乗り越えることでさらなる成長を遂げるはずです。レオーネの心は常に勇者さまと共にあります。どうかご無事で」
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