この物語は、転生という一見テンプレ定番の始まりですが、テンプレ展開や記号キャラばかりのラノベとは全く別物です。そんな陳腐な物は出てきません。
あくまで転生は物語の設定の1つに過ぎず、主人公は記憶を封印されている為に、自分の前世が王女であることも、国を滅ぼして滅びの魔女となったことも、転生時に6つの能力を付与されていることも知りません。
そんな転生者が無自覚のまま宿命とばかりに導かれて古文の教師になるが、あくまで本人は自分の意思で教師となり、古典文学への愛、高等学校教育への批判、古文授業への熱い大志と教育哲学を持って教壇に立ちます。
そしてその教育哲学を体現した授業は新米教師とは思えないほどの確固たる自信と熱意にあふれ、思わず「ブラボー!」と喝采したくなるほど。(#18の新米教師の授業風景は必見です)
引き継がれた前世の王女としての誇り高さと気品にマノン姫の度胸とせっかち、現世での農家笹錦家の娘としてのお米愛や読書愛、それら全てが資質として融合し、時には上品で礼儀正しく、時には毒舌が冴えわたり、全てが真乃先生の魅力となっています。
それをリアル且つ面白おかしく物語として成立させ、更には「地獄とは死後の世界ではなく人が生み出した世」や「現在の高等学校教育での古文は、古典文法が主軸として授業や試験などが構成されている。これは生徒が古典文学へ触れることへの気安さの妨げになっていると私は考えていた。」などの哲学や教育問題などにも触れて、且つ古文の授業風景なども手抜きすることなくリアルに描写しており、作者であるバネ屋さんの知識と思想の幅広さには舌を巻く思いです。
それを作者の言葉としてではなく、真乃先生を生きた人物として描き、真乃先生の言葉として読者に読ませるのは、凄まじい筆致。
テンプレまみれのファンタジー小説が溢れるなかでも、転生ジャンルの皮を被った現代ドラマであり現代ファンタジーであり上質なコメディでもあり、チート無双や現代知識無双なんてただのズルで、そんなものでは主張も感動も生まれない。リアリティの中にこそ本物が息づくと教えてくれています。
読者さんだけでなく、テンプレに頼らないと書けないような作家さんにも是非読んでほしい作品です。