第38話 個と集団
「どうやら一級魔導士になる前に死にたいみたいね…クソババァっ!!」
乱戦の中、己に向かって放たれた魔法を弾き飛ばしたフレデリカは、挑発的なその魔法を放った人物を睨みつけ、怒気を顕にそう言いながら広範囲に魔法を放った。
そんなフレデリカの魔法に、皆が一斉に防御魔法を放つ。それを予測していた様に、アデールは自身の魔力を使わずに身を守りながら人ゴミの中へ姿を隠す。
「コソコソと…まるでゴキカブリ…いいわ、全員倒せばいいだけ…簡単なことだわ。」
不敵な笑みを浮かべたフレデリカに、アデール以外の受験者たちは冷や汗を流した。
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「アダン、何故あの二人を合格者にしたのだ?」
最終試験の担当試験官であるアダンに問うジェルマン。
「これから必要となる奴を選んだだけですよ。集団戦の最適者である婆さんと、圧倒的な個の力のお嬢様。」
その問いに笑いながら答える。
「魔導士は一人で戦況を変える…そんな風に云われる時代は終わった。個で全てを圧倒するのは不可能だとあの革命が証明したじゃろう…」
更に問い詰めるジェルマン。
「そりゃあ、魔法協会の誕生で国家と魔法使いの大多数が分離されたからでしょう。現に、最果てに至った方々は、一人で国家を相手出来るから恐れられてる。ずば抜けた個の力は今も健在ですよ。」
アダンは、己がそこに至ることは無いという哀愁を含んだ言葉で返す。
「故に、あの才能は潰せない。メヌエール・ド・サン・フレデリカは、革命以降弱体化したランフの魔法使いの光となり得る。そう思ってますよ、俺ぁ。」
煙草に火を点け、一息吸い、大きく煙りを吐き出しながらアダンはジェルマンにそう言い放つ。
「当然だ…フレデリカは天才中の天才。最果てに至る資質がある。だが、まだ幼すぎる。」
玄孫大好きなジェルマンはそう返す。
フレデリカは紛うことなき天才だ。それと同時に、甘やかし過ぎて取り返しのつかない程我が儘に育ってしまったことも理解しているジェルマンは、玄孫の合格に喜ぶ反面、不安の方が大きかった。
「挫折は一級魔導士になった後でも充分味わえるでしょう?俺たちがそうであるように…負け惜しみで才能を潰す気は無いですよ。」
ニヒルに笑うアダンを見て、ジェルマンは決心した。
「アダン、お前とバルサンをフレデリカの教育係に任ずる。」
そういう意志のある者なら、フレデリカを変えられるかもしれない…
たぶん無理だと思うが、藁にもすがる思いでそう命令を下した。
「いいんですか?惚れられっちまいますよ?」
色恋沙汰の噂の絶えないアダンの答えに、ジェルマンは殺気の籠もった声で返す。
「安心しろ、その時は儂がお前を殺してやる…」
アダンは冷や汗を流し引き攣った笑みを浮かべていた。
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「あぁっ、もう!!フレデリカ様の邪魔よ雑魚共っ!!」
アデールを狙って、幾度も広範囲に巨大な雷を落とし続けるフレデリカは、苛立ちを隠せずにいた。
他の受験者たちを壁や盾にし、的確なタイミングで攻撃攻撃まで行ってくる為、決着がつかないからだ。
フレデリカが個の力では圧倒しているのに、集団の力で対等に渡り合っているアデール。
巧妙にして熟練の魔導士…生き残ることに長けた老婆の戦いにフレデリカは翻弄されていた。
別にアデールが他の魔法使いや魔導士を支配していたり、指揮しているわけではない。
現にアデールは一言も発しておらず、的確なタイミングで微弱な魔法を放つ以外は、人影に隠れながら移動を続けているだけだった。
他の魔法使いや魔導士はアデールの微弱な魔法を見て一斉に防御や攻撃魔法を放つ。
アデールは長年の経験から、フレデリカの行動を読み先んじて最小限の魔法を放つ。それで他を誘導していた。
「逃げんじゃないわよ!!クソババァっ!!」
史上稀に見る程の短気で、我慢という言葉を知らないフレデリカは立て続けに魔法を放ち、他の受験者たちは防御魔法を張り続ける。
戦いは根競べへと様相を変えていた。
一人、また一人と、受験者たちが魔力切れを起こし倒れ、防御魔法は弱まっていく。
対するフレデリカも息が上がり、消耗しているのは明らかだった。
「煩わしいのよ!!雑魚共!!」
トドメとばかりに強力な魔法を放ったフレデリカは、認識の外から放たれた魔法に気付けなかった。
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