ナルシスト

――――住宅街地帯。


「やばい、やばい。死ぬ死ぬ!」



 住宅街地帯では和樹が死ぬ思いで逃げ回っていた。



「逃げ足だけは一流だな」



 そう言いながら、和樹の後を追うのは生徒会長である光樹だった。



「ずりぃよ! 何だよあの技の多彩さ!」



 光樹は炎の槍、鋼の壁、氷の地面。ありとあらゆる魔法を駆使し、和樹を追い詰めていた。



「それとなんだその魔法は! なんで背中に羽が生えて飛んでんだよ!」



 和樹の言う通り、光樹の背中には白い羽が生えていた。



「なんだ、知らないのか。これは俺の第四位階魔法。人体の一部を変容させる魔法さ」

「知る訳ねぇだろ! こちとら第一位階魔法すら使えねぇんだ。そんな高次元の話されてもわっかんねぇよ!」



 和樹は屋内へ逃げ込み、光樹の視界から逃れる。



「ああ、もう、逸人のやつ何してんだ早く来いよ」



 自分で何とかする気のない和樹は逸人が来るのをぼやきながら待っていた。






――――砂漠地帯。



「さぁ、お嬢さん。観念するんだね。天才であるこの僕と相対してしまったのが運の尽き。僕の分身の前では君は無力さ」



 浪川は相も変わらず自分に酔いしれている。

 しかし、彼にはそれだけの自信と実力がある。

 第三位階魔法であるガーディアン生成によって自分の分身体を作り出し確実に敵を倒す。

 そして、そんな浪川と相対するのは……。



「うっ……頑張るんです私。そう、上蔀さんの言われたとおりにすればきっと大丈夫……」



 砂漠地帯に飛ばされたソフィは何事か自分に言い聞かせていた。



「さぁ、降参するなら今の内だよ?」



 どんどんソフィに迫ってくる無数の浪川と同じ顔をしたガーディアンたち。その不気味さはホラーゲームにも引けを取らない。



「……っ!」



 自分に何事か言い聞かせていたソフィは意を決し、浪川本人の方へ視線を向ける。



「浪川先輩のゴーレムって、カッコいいですよね!!!!」



 そして、ソフィは大声で浪川のガーディアンを褒めたたえた。



「なっ!」



 それに驚きまんざらでもない顔をする浪川。



「それもそのはずさ。なんて言ったって、僕と同じ顔なんだからね」

「す、素敵ですー! もっと色んな浪川先輩のゴーレムを見てみたいですー!」



 明らかに棒読みで心のこもっていないソフィの言葉に浪川はそれを本気にした。



「お嬢さんにそこまで言われては仕方ない。僕のコレクションをとくと見るがいい」



 浪川は自慢げに自分そっくりのガーディアンを様々なポーズや表情で創造していく。



「ど、どうやら上手くいったみたいです……」



 ソフィは浪川に聞かれない程度の小さな声で呟いた。

 そう、これが逸人の作戦であった。

 生徒会相手に勝ち目のない和樹とソフィ。この二人には時間稼ぎをしてもらうことにしてもらっていた。

 もし、二人がすぐさま負けてしまうと、他のメンバーが二対一の構図で戦わなければならない可能性が出てきてしまう。それを避ける為に、他のメンバーが生徒会役員を倒し、二人の元に助けに行けるまでの時間を稼ぐ。これが二人に出された指示だった。

 和樹は藍紗と共に実戦形式の訓練を行い、攻撃を避ける感覚を身に付け、それが今見ごとにハマり、光樹の攻撃を避け続けている。

 ソフィは単純に浪川を褒める。それだけだった。

 浪川の性格上褒められれば、自慢したくなる。それを利用し、ソフィにただひたすらに浪川を褒めろと逸人は指示を出していた。



「うぅ、騙すようで申し訳ないですけど、これも退学から逃れる為なんです……」



 ソフィは嘘をつくことに多少の罪悪感を覚えつつも浪川を褒め続けていた。





――――豪雨地帯。



「っクソ、なんて雨量だ!」



 視界の悪い豪雨地帯で一人毒づくのは、藍紗だった。



「ざっと見た感じ、ここには誰もいなさそうだな。ってことは、逸人の読み通りなら生徒会長は住宅街地帯か。急いで援護に行かないとな」



 そう思う藍紗だったが、想像以上に雨風が強く前に進むのがやっとで目的の場所まで行くのには時間がかかりそうだった。



「この地帯の足元の悪さだけは逸人の読みが外れたって感じだな……」






 夏希の魔法の性質上湿度が高ければ扱いやすい。が、逆に豪雨地帯だと演算処理が複雑化してしまう為環境の安定する水辺地帯に行くと読んでいた。そこで夏希の魔法と相性のいい光咲を配置した。

同じく砂漠地帯で有利に戦える浪川がそこを選択すると読んで、ソフィを。ソフィは魔法をまだ使えないが、浪川のナルシスト体質を利用して、ほめ殺しにすることで、時間を稼ぐ作戦に。

 赤城は逸人が弱みを握っている為、それで脅しをかけて森林地帯へとおびき寄せる。

 光樹と藤堂がどっちを選択するか分からなかったため、ここは賭けだった。

なるべく、弘毅と朱音。光樹には藍紗を当てたかった。しかし、豪雨地帯は環境の悪さもあり、対応力のある藍紗一択。

 闘技場地帯は逃げる場所がない開けた場所の為、逃げる作戦を敷いていた和樹には不利と言うことで、闘技場には朱音を配置した。

 弘毅は剣道で全国トップになるほどの実力者。そして、選抜試験でも摸擬刀を使用して戦っていた為、恐らくここでも使ってくるだろうと逸人は読んでいた。

そう考えると、刀を有効に使える場所は遮蔽物のない闘技場に限られる。また、光樹は性能の高さから地形を選ばずにどこでも圧倒的な力で戦える。

それを考慮して、闘技場には朱音を置いた。

 結果、読みは逸人の通りとなり、有利な組み合わせになった。ただ1点だけ、和樹と光樹が当たってしまったのは不運だった。しかしこれは想定内。

 こうなること読んで逸人は和樹に体力と回避能力をつけたのだ。

 しかし、この作戦で最も重要なことは、逸人、藍紗、光咲、そして朱音が単独で生徒会役員相手に勝たなければならないことだった。

 そして、逸人と光咲は無事生徒会役員相手に勝利することが出来た。

 残す懸念点は一点のみ……。

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