団体戦開始

――――二週間後。

 逸人を含む退学候補生六名と生徒会役員の五人が中央島にあるドームの中にいた。

 そして、観客席には多くの生徒たちで溢れていた。



「完全に見世物ね」

「仕方ないだろ、生徒会と全面対決だなんて前代未聞だからな」

「とは言え、彼らの中に俺たちが勝つと思っている奴らはいないだろうけどな」

「生徒会の方々の戦いを見に来たといったとこでしょうか?」

「だろうな。完全にアウェイ状態だ。けど、この中で勝ったら相当に気持ちがいいだろうな」

「あなた達、よくそんな余裕があるわね。私は緊張でそれどころじゃないんだけど……」

「心配すんな、小鳥居。勝つための算段はつけてきた。少なくとも無様に全滅なんてことは起きねぇよ。とは言え、この団体戦で一番重要なのはお前次第なとこあるけどな」

「ちょっと! 変なプレッシャーかけないでよね! 余計に緊張してきたじゃないの!」



 そう言う朱音だったが、はたから見れば朱音も他の連中と変わらず余裕そうだった。



「あなた達、退学がかかっているというのに随分と余裕そうですね」



 そして、そう思っていた赤城が逸人たちを指摘する。



「ああ、だって事実余裕だからな。特にあんたとか」



 逸人は赤城を指差して挑発する。



「言ってくれるますね。後で後悔しても遅いんですからね」

「死亡フラグをどうもありがとう。どうやら、これで俺たちの勝ちが決まったようだ」



 逸人は必要以上に赤城を煽る。



「っ!」



 赤城はそれ以上何も言わず、自陣へと戻っていった。



「さて、互いに言いたいことは言い終えたか? なら、早速始めさせてもらいたいんだが、いいか?」



 そう言うのは、アリーナのど真ん中に立つ琴里だった。



「あれ? 橋間先生そんなとこで何してるんですか?」

「私が審判なんだよ。不服か?」

「いいや、全然。むしろ、ありがたい。これで生徒会側の不正を疑わなくて済む」



 逸人は挑発的に生徒会役員たちの方へ向けてニヤリと笑った。



「不正? そんなものしなくとも、貴様らを負かすくらい訳ない」



 光樹は逸人の挑発に乗って、言い返す。



「ほう、じゃ正々堂々勝負をつけますか!」

「もうその辺でいいだろう。じゃ、これからルール説明を始める」



・団体戦ルール

 五対六の変則勝負。勝敗はどちらかのチームメンバーが全滅したら、もしくは制限時間終了時に最も生き残っている人数が多いチームの勝利。

 戦闘不能判定は、審判が戦闘不能と判断した場合、意識を失った場合、そして本人がリタイアを宣言した場合の三種類。戦闘不能判定を受けた選手は仮想フィールドの外へと転送される。

 摸擬戦の場所はここ中央島にあるアリーナ、仮想フィールドにて行われる。

 フィールドは六か所。水辺地帯、砂漠地帯、住宅街地帯、闘技場地帯、森林地帯、豪雨地帯。

 戦闘開始時に、各地帯に一人ずつ転送される。転送個所はチームごとに決められる。転送後であれば、他地帯への移動は可能。



「以上がこの団体戦におけるルールだ。疑問がある者はいるか?」



 琴里の問いかけに誰も声を上げなかった。



「よし、なら互いに初期転送地帯の選択を行い、記載したシートを私に提出しろ」



 逸人と光樹はそれぞれ記載したシートを琴里に手渡す。



「確かに受け取った。それでは、これから仮想フィールドを展開し、指定地帯へと転送する。お前たちはそれまで、その場で待機だ」



 琴里はそれだけ言い残し、アリーナの領域外へと出る。

 すると、それに合わせて仮想フィールドが展開されていく。



「うおっ!」

「きゃ!」

「ん……」



 仮想フィールドが展開されていく中、摸擬戦参加者たちは段々とその姿を消していく。



「これは転送中ってことか?」

「そうよ。展開された地帯から順に転送されていくわ……」



 そう言っている最中も、朱音は姿を消した。



「うわ、消えた。残ったのは俺と光咲か」



 光咲はこのアリーナに着いてからずっとだらっとした感じで地べたに寝そべっていた。



「お前、分かっているだろうけど、今回はマジだからな」

「分かってるのだ……」



 光咲は嫌そうな顔をしながらも、首を縦に振った。



「契約は守るのだ。けど、契約の範囲内だけだぞ?」

「ああ、それで十分だ」



 そして、逸人と光咲も姿を消し、自分たちが選択した地帯へと転送された。






――――森林地帯。

 辺りは木で覆われており、敵の姿を一度見失うと探すのに手間がかかるステージ。

 そこに転送されたのは、逸人と赤城だった。



「いや~、約束通り森林地帯に来てくれて助かります」

「約束通り? あれが? 脅迫の間違いでしょ!」



 飄々とした態度の逸人に対し、怒りを露わにする赤城。



「ところで、例のものはちゃんと持って来ているんでしょうね」

「あ、はい。これですよね」



 逸人は一枚の写真を取り出し、ペラペラと赤城に見せる。



「ちょっと! なにしてるのよ! この摸擬戦は中継されているのよ! 誰かに見られたらどうするのよ!」



 必死で逸人を止める。



「分かっていますよ。あなたがここに来た時点でこれにもう用はないですから。それにあなたを辱めるつもりもないですよ」



 逸人はピッと写真を赤城に向けって投げた。



「あっ……!」



 赤城は投げられた写真を必死で追いかけキャッチする。そして、急いで懐にしまった。



「まさか、赤城先輩の巨乳が偽乳はね……」

「ぐっ!」



 赤城の秘密を喋る逸人を赤城はギラギラとした目で睨みつける。

 赤城に返した写真。それこそが赤城の秘密を写したものだった。



「確かにパッドを胸に詰めているところの写真なんてバレたら大変でしょうね」

「あなた最低ね! それとこの写真をどこで手に入れたか教えなさい!」

「残念ですけど、それはお教えできません。知りたければ、俺を倒してみてください。まぁ、倒せればの話ですけど」

「いいわ、その挑発乗ってあげる。どのみち、誰一人として私たち生徒会には勝てないんだから」

「果たしてそれはどうでしょうね……」

「そんな意味深なことを言っても結果は変わらないわよ」

「では、証明してみましょう。俺の予想だと、もう決着はついたころです」

「? 一体何を……」



 言っているんだ、と赤城が言おうとした瞬間だった。



『梓馬光咲との戦闘により、本間夏希戦闘不能』



 勝負の結果を告げる琴里のアナウンスが逸人たちのいる森林地帯含め全フィールドに流れた。



「本間が負けた……? まだ試合開始から一分程度しか経っていないのに? しかも相手は退学候補生の梓馬って……。あなた、一体何をしたの?」

「俺は何も。これが光咲の本当の実力だった。それだけです」

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