勧誘
琴里と話し終えた後、逸人は中央島にある図書館へと向かっていた。
目的は団体戦で必要な六人目の確保だ。
「えっと、あいつはっと」
逸人は図書館中を探し回り目的の人物を探す。
「お、いたいた」
逸人は長い赤髪を二つ結びにしている少女を見かけ、後ろから声をかけた。
「よっ!」
「きゃ!」
急に声をかけられた少女は可愛らしい声を上げた。
「しー、ここは図書館だぞ。そんな大声出すな、小鳥居」
「誰が出させたのよ! あんたのせいでしょうが!」
朱音は周囲を気遣い声を潜めて逸人を怒った。
「悪かったって。それよりもお前に用があるんだ?」
「私に? あなたが? 用?」
あからさまに怪しそうな逸人を見て、朱音は不審げに顔を歪ませた。
「そんな警戒するなって、それよりもちょっと外までいいか?」
「はぁ~、話だけは聞くわ。聞くだけね」
朱音は仕方なしと逸人の後について図書館から外へ出た。
そして、逸人たちは人通りの少ない図書館の裏手に回った。
「で、話って何?」
朱音はせかすように逸人に言った。
「退学の件、知ってるか?」
「ええ、もちろん。学園中に張り出されているんだから、それくらい知っているわ。あの子たちは可哀そうだとは思うけど、生徒会が決めたのならしょうがないとしか言えないわね」
「実はな、その退学を取り消すために生徒会と摸擬戦を行うことになったんだ」
「はぁ!? 生徒会と摸擬戦!? あんたホントぶっ飛んだこと考えるわねぇ。まぁでも、悪あがきにしてはいいんじゃない? どうせ負けても失うものはないんだし」
「それでその摸擬戦なんだが、団体戦なんだ」
「…………………」
逸人のその言葉を聞いて朱音は黙って逸人を睨む。
「な、何だよ」
「分かったわ。皆まで言わなくても分かった。言われる前に言っておくけど、答えはノーよ」
朱音は逸人が六人目として団体戦に出てくれと頼むことを先読みして、断った。
「いや、そこを頼むってな?」
「な、じゃあないわよ。私がその摸擬戦に出るメリットなんて何もないじゃない。悪いけど、他を当たって」
「俺の知る中で、生徒会相手に勝てそうなのはお前しかいないんだよ」
「うっ…………」
朱音は一瞬言葉を詰まらせたが……。
「その手には乗らないわ。私を褒めればホイホイあんたの言うことを聞くと思ったら大間違いよ。大体、あなたの知ってる中でって、あなた転校したばかりでこの学園に知ってる人そんなにいないじゃない」
「っち」
逸人は朱音に聞こえる様に露骨に舌打ちをした。
「あ、やっぱりそうだったのね。私、そんな安い女じゃないから」
「…………分かった」
「な、何よ。急に真面目そうな顔して」
「これから真面目な話をするからだ」
「何、じゃあさっきのはふざけてたってこと?」
「そう言うわけじゃないが。一応、お前なら生徒会相手に勝てそうって言うのも真面目に言ったんだぜ。その算段もある」
「だから、そうやって私を持ち上げても……」
「分かってる。どうせ、俺の言うことを信じられないんだろ?」
「まぁ、平たく言えばそうね」
「なら、別の方法でお前を説得するしかない」
「何よ、別の方法って」
「俺の言葉を信じないと言うのならそれでも構わない。だが、俺が今から言うことは現状この学園に起きていることを客観的に見て、今後起きるであろう展開だ」
「?」
逸人が何を言いたいのか、その意図が分からず朱音は首を傾げる。
「いいか、今回の退学の件について。この対象者は成績不審者であるものだ」
「そんな事分かってるわよ。だから、ソフィ達が対象になったんでしょ?」
「そうだ。そして、この退学が何の反論もなく決行された場合、今後どうなると思う?」
「それはもちろん、これからも成績不審の生徒は退学処分になるでしょうね。今までこの学園で退学は、実績はなくその存在すらなかった。けど、今回の件で退学の実績が出来た。だから、今後も退学者は出るでしょうね」
「そうだ。じゃあ、その成績不審って言うのはどういう基準で決まると思う?」
「そんなの分からないわよ。今回の退学告知でその基準は明示されてなかったし」
「そうだ分からない。生徒会の裁量でいくらでも変えられる。そうなると、成績不審でなくとも、学園内で成績が芳しくない生徒は退学処分者予備軍とも言えるだろう」
「な、何が言いたいわけ?」
逸人の言葉に段々感づき始めた朱音は動揺を見せる。
「例え魔法を使うポテンシャルを持っていても、第二位階魔法すら使えない生徒をこの学園は今後も残しておくと思うか?」
「…………………思わないわ」
「さて、じゃあお前はこれからどうする? 何もせずに退学の通知が来るのを黙って待っているのか?」
「………………………」
朱音は黙って少し考える素振りを見せる。そして……。
「はぁ~、分かったわ。あなたの言う摸擬戦に出てあげる」
「よし、決まりだ」
「けど、さっき言ったことはホントでしょうね。私が生徒会相手に勝てる可能性があるって」
「ああ、任せろ。俺がお前を強くしてやる」
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