生徒会選抜試験Ⅳ
そのモニターに映っていたのは逸人よりも少し背の低い童顔の少年。
「生まれつき持った才能だけ見ても、私より上」
「小鳥居より上? そんなバカな。お前よりやべぇスペックのやつがそうホイホイいてたまるかよ」
小鳥居は五属性の適性を持ち、魔素吸収率は破格の六三%。歴史上類を見ない高スペックな才能を持っているのだ。
その小鳥居よりあの少年は上だという。
「んで、どの辺がやべぇのか説明してもらってもいいか?」
「私と同じ五属性の適性、だけでなく希少価値の高い光属性の適性も持っているらしいわ」
「ろ、六属性持ちだと!? そんなの歴史上存在すら確認できていないだろ!」
「驚くのはまだ早いです。魔素吸収率も私より上、八十%だと聞いてるわ」
「あ~もうお腹いっぱい。もう無理。なんだよそのチートキャラ。異世界転生でもしてきたんですか? これで小鳥居みたいに第一位階魔法しか使えませんとか何かしらの欠陥がなければ神様の不公平さに俺はブチ切れるぞ」
「だったら、今すぐにでも神様をぶっ飛ばしてきた方がいいかもしれないわね」
「おいおい、その言い方だと、まだやべぇスペック持ってんのか?」
「大体察しがついているとは思うけど、この選抜試験の参加条件。第三位階以上の魔法習得」
「あ~はい。分かりました。理解しました。あれだね、使えるんだね第三位階魔法が。もうやべぇよ。なんだよ。もう人生勝ち組じゃん」
「いや、違うのよ」
「あ? 違う? 違うって何が?」
「参加条件は第三位階以上の魔法。そう、“以上”の魔法よ」
「おい、まさかそれって……」
「あの人は第四位階魔法まで使えるって噂よ」
第四位階魔法、それは物理法則を無視した奇跡。人類の限界到達点。
「俺もうなんか生きてるの辛くなってきたわ、ここまで格差付けられると。なんだろうな。俺って。生きてる意味あんのかな。だって俺ってあれじゃん、あいつの下位互換みたいな人間じゃん。かぁ~やってらんねぇわ」
逸人は童顔の少年のスペックを聞いただけで、人生を諦めたくなるほど拗ねてしまった。
「マジ間違いなくあの人が生徒会長になるわ」
「まぁこれだけ騒いどいてあれだけど、生徒会なんて別にだれがなろうが俺たちには関係ないよな」
「確かにそうね。主に学校行事などの運営だったり、雑務だったりね」
「そうだよな。どこの学校も生徒会ってのはそう言うもんだよな。アニメの世界とかだと滅茶苦茶な権力を持ってる生徒会が当たり前の様にいるけどな」
「ああ、そういう意味で言うなら、この学園の生徒会は教師以上の権力を手にすることが出来るわ」
「は? ちょっと待て。なんだそりゃ?」
「昨日も言ったけど、この学園は魔法が全てなの。だから、魔法力が強い人がカーストの上位に立つの。教師や職員含めてね。つまり、生徒会とはこの学園で最も偉い存在ってことよ」
「いや、待てよ。この生徒会選抜試験の対象は生徒だけだろ? 生徒内で上位って言うなら分かるが、なんで教師もなんだよ」
「あなた、もしかしてこの学園の教師がどのように決められているか知らないの?」
「あ? 何言ってんだよ。そんなの求人に応募して採用面接受けて受かった奴がなるんだろ? 違うのか?」
「違うわ。この学園の教師は落ちこぼれの烙印を押されたものたちなのよ」
「落ちこぼれの烙印?」
「普通に考えたら分かると思うけど、魔法力が高い有能な人たちはどんな職業にも好きなように選択できるわ。だってどこの企業からも引く手あまただもの。けど、この学園で魔法を勉強してる生徒のほとんどが魔法師を目指している。むしろ、魔法師になる為にこの学園に入学するといってもいいわ。けど、魔法力がない人たちは企業からのスカウトも少なく、魔法師になることも出来ない。だから、温情としてこの学園の教師として雇ってもらっているの」
「ふ~ん、この学校って魔法師になる為の学校だったのか」
「いや、そこ知らなかったんかい! あんた、なんでこの学校に転入してきたのよホント」
「俺は別に転入したくなかったよ。でもさ、ソフィのやつがさ……」
「え、タールフェルトと関係あるの?」
「あー! 上蔀さん! それは言っちゃダメです!」
「だ、そうなので。内緒。お前には教えない」
「ちょっと、そこまで言ったのなら教えなさいよ」
「いや、だって、それはほら、あれだから………」
「あれって何よ。あれって」
「だから、それは……っておいモニター! もう試験終わったっぽいぞ」
「誤魔化さないで。まだ、試験終了時間じゃないわ! 試験は三時間もあるんだから」
逸人の言葉を信じない朱音はモニターを見ようとはしなかった。
「それで、タールフェルトさんが一体何だって言うの?」
「いや、マジだって。マジで試験終わったんだって」
「もう、そんなことで誤魔化せるわけ……」
『仮想ロボ、全ての撃破を確認しましたのでこれにて生徒会選抜試験を終了します。現在、点数の集計を行っております。少々お待ちください』
朱音の言葉を遮るようにアナウンスが鳴った。
「嘘……仮想ロボを全て撃破……?」
「だろ? マジで試験終わってただろ?」
「ええ、そうね……」
朱音はうわごとの様に逸人に返事をした。
「なんだ? どうした?」
不自然な反応をする朱音に訊ねるが彼女は放心したまま反応を返さない。
「なぁ、ソフィ、藍紗。何があったんだ?」
朱音を挟んで隣にいる二人に訊ねるが、二人ともモニターを見たまま固まっていた。
「な、なんだ?」
選抜試験の戦闘を途中から見逃した逸人には今何が起きているのかさっぱり分からなかった。
『集計結果が出ました。モニターに表示します』
選抜試験の点数集計が終わり、その結果が大画面のモニターに一気に表示された。
「え……」
それは誰の声だっただろう。だが、それが誰の声であろうと関係ない。この場にいた全員同じような反応だったのだから。
絶句。その集計結果を見た全員が言葉を失ったのだ。
『一位、橋間光樹。Sランク討伐数三、Aランク討伐数三十、Bランク討伐数五十、Cランク討伐数百。合計九百五十点』
その結果がもたらしたものは二位と五百点以上の差がついていることではない。
撃破不可能と言われていたSランクの仮想ロボを三体も倒したことだ。
同じ学生とは思えないほどの圧倒的な力量差。
それに絶望した生徒たちは下を向き、何も言うことが出来なかった。
順々に生徒会役員が発表されているが、誰もそれを聞いてはいない。
逸人も空気を読んで朱音たちに声はかけなかった。
橋間光樹は自分が生徒会長になったことに喜びもしなければひけらかすこともしなかった。何も言わず、彼はそのままアリーナ上から去っていった。とてつもない存在感を残したまま。
こうして、生徒会選抜試験は終了した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます