第22話 命の流れ

「空、弓の試し打ちをしたいから私にやらせて」


 私は空が持っている弓と矢を借りて、狙いを定めた。


 鹿はまだこちらに気付いていない。一発で仕留めなければ逃げられてしまう。


「ふぅ……」


 私は呼吸を整えて、弓を引き絞る。


 右手を離すと矢は一直線に飛び、鹿のおなかを捉えた。


 鹿はうめき声を上げながら、少しの間暴れていたがやがて倒れた。


 私たちは鹿に近づく。


「やっぱすげぇな」


 空は刺さった矢を見ながら言った。


「一発で仕留めやがった。けどまだ息はあるっぽいな」


 鹿はまだ呼吸をしていた。


「早く楽にしてあげましょう」


 私は短剣を取り出し、鹿の首を切った。血が勢いよく噴き出す。


 少しの間ビクンビクンと痙攣したあと、鹿は静かに眠った。


「あなたの命、いただきます」


 私は目の前で殺した鹿に手を合わせた。


 戦場で多くの命を刈り取ってきた私だけれど、命は尊いものであると知っている。


 空と飛影も鹿に手を合わせる。


 鹿を解体し、肉を焼いた。


「ん~うまそうな匂いだな」


 空は肉の焼けるにおいを嗅いで笑顔を浮かべた。


「そうだ、飛影、紅花、これ」


 空は持っていた袋から草を取り出した。


「なにこれ?草?」


 飛影は首をかしげながら言った。


「ちが……くはないんだけど、これを肉に付けとくと香りがよくなるんだ。あと少しだけ苦みがあるから肉の甘さが引き立つぜ」


 空は焼いた肉の上に取り出した草を乗せた。


「へぇ、よく知ってんな」


 飛影は感心するように言った。


「まぁ一応狩りで生計建ててたからな。うまい食い方とかは知っといた方が得だろ」


 空は自慢げに言った。


 鹿肉の香ばしい匂いと空が取り出した草の香りで、食欲がさらにそそられる。


 私たちは鹿肉にかぶりついた。


 空が言ったようにほのかに苦みがあり、その苦みが肉の甘さを引き立てる。


「うん!これはうめぇ」


 飛影が笑みを浮かべながら豪快に肉を食べている。


 私もいつの間にか手に持っていた肉が無くなっていた。


「紅花、口の周りについてるぜ」


 空は指で自分の口周りを指して私に伝えた。私は自分の手で口をぬぐう。


「あーあぁ、女なんだからもうちょっと丁寧にしろよ」


 空はあきれた口ぶりで言った。


 私にとっては普通のことだったから、空が何にあきれているのか分からなかった。


 そんなやり取りを見て飛影は笑っていた。

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