第24話 全面戦争直前
日が暮れ、作戦を決行する時間となった。
エントランスホールにて構成員は各々自分の愛用している斧や剣などの武器を装備し、使い慣れた鎧や魔法の威力を高めるフードなどを装備していく。
「準備は順調かい? ハル」
構成員たちに交じり準備をしていたハルの元に、イーチノが声をかける。
彼女の表情は緊張感など感じさせることのない優しい笑顔を見せている。決戦は目前だというのに、この余裕の雰囲気、組織とのトップとしてふさわしいと思える。
「装備はばっちり。イーチノから貰った回復薬も何本か持ったよ。イーチノは……準備万端そうだね」
決戦に向けたイーチノ装備は鉄やフードで身を固める構成員たちと違って少し凝った衣装のような印象を受ける。
上半身は白と基調として首元から腰辺りまで赤色のやや太い線が一本入っている。袖は大きくひらひらしており、袖口はピンクの線がぐるりと入っている。加えて、全体に花柄模様が装飾されている。
下半身は灰色一色のスカートのようなヒラヒラが腰から足首まであり、左足に当たるところには大きく花柄模様が刻印されている。
「派手な装備品だろ?
可憐な衣装を見せ柄のように、彼の前で一周回って見せる。
とてもきれいで美しい。加えて幼いながらも大人びた妖艶な雰囲気がある。きっと大人になったら、超絶美少女になること間違いないだろう。
「まぁ、うちが前線に出る事なんてほとんどないから、年に数回装備するかどうか程度だがな」
可憐な姿に見とれていると、とある疑問が浮かぶ。
「武器は何を使うの?」
彼女も戦いに混ざることになっている。そうなると武器が必要となるのだが、装備している様子はない。
一体何を用いて戦うのか、気になったハルは質問を投げかける。
「それは、こいつだよ」
イーチノが手のひらをグーにして前に出す。すると、薄い灰色の炎が手のひら周りに現れたと思うと、同色の武器が形成されいき、やがて一本の槍となった。
ただの一本槍ではなく、柄は華の装飾がなされた豪華仕様。先端は中心から4方向に延びた刃が装着されており、先に行くにつれ細く尖っている。
「す、すごい! 初めて見た!」
「武器生成魔法を使える奴は少ないからな。うちもこれができるようになるまで何度も練習したよ」
今度は手のひらをパーにする。すると、武器は消えてなくなった。
なんと便利な魔法なのだろう。常に重い武器を持ち歩かなくてもいいし、戦う時だけ形成すればいい。すごい魔法だ。
しかし、イーチノの言葉から察するに、かなり高難度の魔法なのだろう。簡単に覚えるのは難しそうだ。
「ハル、改めて言わせてもらう。この戦いに協力してくれたことに感謝する」
言葉を終えると同時にイーチノは丁寧に頭を下げる。
「あわわ、頭を上げて。僕にもメリットがあるから参加したんだよ。お互い様じゃないかな」
「だとしてもだ。本当にありがとう」
イーチノらしからぬ丁寧すぎる言葉。彼女はハルを対等な相手として見てくれているからこそ、出た言葉なのだろう。
ハルはその心地よい関係性に気持ちよさを覚えていた。
軽い世間話をした後、早々に会話を切り上げると、イーチノは構成員ひとりひとりに声をかけていく。
声を掛けられた構成員は、彼女の柔らかい笑顔につられて緊張した表情も緩やかになっていく。士気も上がるだろう。
今、地に足を付いて立っている自分が数時間後には死体に変わっているかもしれない。そう考えると不安と恐怖を覚えてしまう。誰だってそうだ。
しかし、イーチノと話すことでそんな不安を感じさせない不思議な雰囲気に包まれる。彼女にしかできない芸当だ。
構成員全員に声を駆け終えた後、最後に向かったのは、カウンターの向こう側にいるこの宿の店主・ボデュとその娘のアリアの元だ。
「最後の最後まで快く受け入れてくれたことに感謝するよ。ボデュ店主」
「いえいえ、これも未来の投資と考えています。ブラックファングがこの地区から追い出され、一ノ瀬組が地区の安全を保ってくれれば安心なのです。みかじめ料も納める価値があると思っています」
「なんだい、考えが変わったのかい? 前は信用できないと言っていて気がするが……。まぁいい、考えを変えてくれたなら感謝するよ」
「この数日間共に過ごしてとてもいい人たちだと信用ができる人だと思えました。だからこそ、お金を払って治安を守ってもらう価値があると思ったのです」
その言葉にイーチノは高笑いをして返す。
「アリアの嬢ちゃんもありがとうな。うちの構成員たちのムードメーカーになってくれて」
「いえ、お話をしていて楽しかったので。この戦いが終わったあともたまには顔を出してくださいね」
その言葉には『生きて必ず勝利して』という意味が込められているのだろう。
意味を察してかイーチノは軽く笑って返した。
「分かってるよ。それじゃぁ、行ってくる」
アリアの言葉を最後に、イーチノは構成員たちを引き連れ宿を後にした。
「行ってしまったな……」
「うん……。お父さんは一ノ瀬組の人がこの地区を良いところに変えてくれると思う?」
「思っているよ。あんなにいい人が組織のトップに立っているんだ。彼女の意思に沿うようにみんな優しくて思いやりのあるいい人たちだからね」
誰もいなくなったエントランスホールは少し寂しさを覚えた。
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