第15話 サリュ

「全くワシがこんな場所に来なければならんとは……。店の者が来ればよかろうに」


 大きな声で気怠そうに言う人物に、自然と視線がいきました。

 そこには、服を着た肉ダルマがいました。

 僕は美醜の感覚に疎いという自覚はありますが、肉ダルマには“醜い”という感情を自然と感じました。

 

 本来ならば僕が持つような感情ではないのですが、不敬にもそう思っていると、近くの馬車から人が降りてきました。

 通りの他の馬車より装飾が凝っていることから、貴族の方でしょう。


「お父様、そんな風におっしゃらないで? 貴重な宝石が入荷したというのだもの、誰よりも早く欲してしまった私をお許しくださいな」


 そんな風に言葉を発しながら出てきたのは、僕よりも年上そうなお嬢様と呼べるような方でした。

 美醜の感覚の薄い僕にとって、その方が美しいかは分かりませんが、周りの注目を見るに美しい方なのでしょう。

 ただ、不思議な違和感を覚えます。

 なんとなくですが、サリュと彼女の顔のパーツが似ているように思います。


 ライトブルーの瞳、黄色味の強いバターブロンドの髪、たれ目気味な目元。

 本当に気のせいかもしれませんが似ています。

 服屋から出たばかりのサリュを見てもやはり似ているように感じます。

 サリュの髪は少しくすんでいるように感じますが……。


 そんな風に観察している中でも、肉ダルマは話しています。


「しかしな、フェー。貴族たるもの、相応の威厳を持たねばならん。裕福であり、平民どもを支配するに足る、な」


 臭気でも漂うのでは、と言わんばかりの醜さ。

 なんとも気持ち悪いと感じます。

 そんな僕の様子を見たのか、サリュが忠告してきます。


「ルエン、視線には気をつけろ。注視しすぎだ。あれはどう考えても貴族だ。変に目を付けられると何を言われるかわからんぞ」

 

 そうして、僕に耳打ちしている姿が目についたのか。

 フェーと呼ばれていた女性が僕とサリュに視線を送っていました。

 ですが、それも一瞬で、女性はすぐに興味を失くしたように視線を逸らし、肉ダルマと共に宝石店に向かっていきました。

 なぜ、高貴な身分の方が平民街の店に来ていたのかは分かりませんが、強烈な印象を与える方たちでした。


 その後、僕たちは無事に薬屋にたどり着きました。

 服屋から商業ギルド方面に向かって進めば到着するのですが、僕たちの進んだ道関係的にも二度手間感があります。

 薬屋では、自分の目に合わせる布につけるための消毒液や僕自身の古傷につける軟膏などを買って出てきました。

 薬屋で布を軽く消毒したので、すぐに眼帯を付けました。

 眼帯は、目に当たる部分が柔らかい布を選んだので不快感はありませんでした。

 

 薬屋を出ると、僕への視線が減ったような気がします。

 気持ちが楽になった僕としては周辺を散策したかったのですが、サリュが僕の体力を考えて帰った方が良いだろうとのこと。

 その提案に、僕は身をゆだねることにしました。

 

 そうして、昼間の道を辿りなおすかのように歩き、冒険者ギルドで馬を受け取って王城に戻ることになりました。

 時間にして、午後五時少し前といったところ。

 帰り着くと六時ごろになるから、今日こそ騎士たちに自己紹介をするように、と言われました。


 冒険者ギルドからの帰り道、基本的に無言だったのですが、ぼんやりとサリュと話しました。


「そういえば、サリュって冒険者だったんですよね?」

「ん? どうしてそう思う?」

「それは、副マスと知り合いだったり、馬をすぐに預かってもらえたり、当たり前のように冒険者ギルドを案内していましたから」


 季節的にもまだ日が沈む様子のない時間帯。

 サリュは少し真面目な様子で話します。


「まぁ、俺の身の上に関係するんだがな。俺は平民だが、親父が貴族らしい」

「そうなんですか?」

「おう。お前はあんまり周りの人間に対して興味を持ってねぇから分からんかもだが、貴族ってぇのは瞳に青が入ってるんだよ」

「そうなんですね」

 

 その言葉で思い出すのは宝石店に入っていった貴族様。

 確かに、あのときのお嬢様はライトブルーの瞳でした。

 ただ、あの肉ダルマは太り過ぎて、瞳の色がわかりませんでしたが。


「んで、まぁ、俺の母親はさる貴族家のメイドをしていたらしい。んで、貴族の遊びに付き合わされて出来たのが俺ってわけでよ。その貴族は子供が出来た瞬間、口止めの金を少し渡して、仕事をクビにしたらしくてな」

「ひどい話ですね」

「だろ。でも、こんな話はありふれているし、どこにでもある話なわけよ。幸いにも、俺の母親は俺のことを嫌うことなく育ててくれたからよ。まぁ、なんだ。感謝はしてるわけよ」

「へぇ」


 そんなサリュの気持ちを聞いて、からかいたい気持ちになりました。

 でも、僕にはそういったコミュニケーションの取り方は分からないので、率直な感想を言います。


「いい母親だったんですね。うらやましいです」

「ま、自慢の母親だわ。今は、俺が騎士爵を授かっているわけだから、それなりに立派な屋敷に住んでいるぞ」

「いいですね……」


 サリュの母親はどんな方なのでしょうか。

 サリュの反応を見る限り、素晴らしい方なのでしょう。

 

 そんな風に、サリュの身の上話を聞いたりしながら、王城に戻りました。

 その後、井戸の近くで身体を拭くなりして、身だしなみを整え夕食をいただきました。

 夕食後は騎士の皆様にしっかりと自己紹介をして、騎士様方の名前をしっかりと覚えました。

 自分の名前ぐらいしか僕に言えることがなかったのは少し寂しいですが、騎士様のほとんどは優しい方でしたので、上手くやっていけそうな気がします。


 そんな風な一日を過ごし、今日という日を終えました。

 今日は瞑想をすることなく、休むことが出来ました。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る