第18話 再現道化
退路を断たれた僕。こうなったら前へ進むしかないのだろうか?
今日は無礼講。義理だててのアタックは不要! っていうか、できない……。
ならば、なるべく目立たないように過ごすという選択肢もあるじゃないか!
あくまでも、ポジティブに目立たない!
壇上に戻ったヒーライが高らかに宣言する。
「これより、ゲームをはじめます……」
興味なし! どんなゲームだろうが参加しない。
「……初日の今日はチャッチャ様……」
興味……なし。
ないけど遠く壇上に立つ軍服姿の麗人を見てドキッとする。あまりに凛々しい!
黄金色の長い髪に、青と白の近衛騎兵隊の制服の、チャッチャ様ご本人。
全体的な凛々しさにはそぐわないはずのティアラさえもがアクセントになって、
チャッチャ様が美少女戦士であることを印象付けている!
ハーツなんか目じゃない。うわさ以上の美少女ぶりだ。
招待客のため息が聞こえる。見ているだけで喉が渇くレベルでキンチョーする!
「……ゲームのルール説明は、チャッチャ様が自ら行います!」
聞こう。聞こうではないか。チャッチャ様が催すゲームのルールとやらを!
たけのこニョッキ? 乗合馬車ゲーム? それともシンプルに王様ゲーム?
どんなゲームが飛び出すのか、楽しみだ。
チャッチャ様の軽いあいさつのあと、係の人が僕のところへ来る。
細長い棒を差し出す。僕は何も考えずにそれを受け取る。
「棒で私を攻撃して身体に触れられれば、アタックを受け容れる」
何? 簡単だ。僕にもできそう!
身体に触れるだけでいいだなんて、イージーモードじゃん。
「……ただし、私が1打お見舞いする毎に1分を無効時間とする……」
チャッチャ様が言いながら、僕が手にしているのと同じ棒を軽く振る。
空気が切り裂かれ、ヒュンッという音がする。すごいスピードだ。
僕も振り下ろしてみるが、全く音がしない。
あっ、これはダメだ。チャッチャ様は国1番の剣豪。
どうせ、あの棒でめった打ちされるのが関の山だ。
このゲームには手を出さない方がいい。僕の手に負えるはずがない。
「……制限時間は120分……無効時間中の攻撃は無効……」
説明はまだまだ続くが、僕は完全無視してカレー丼を食べることにする。
「……アタッカーは常に棒を携帯すること。違反すれば罰を与える……」
まったく、物騒なルールだこと。
腹の調子がよくなってよかった! 中央のカウンター前に数分並んで注文。
ほどなく、カレー丼のおでましとなる。
「お待ちどうさまです。ご飯硬め、ルゥ濃いめ、キャベツ多めです!」
「どうも、ありがとう」
この組み合わせがサイコーだ!
ウエイトレスからカレー丼を受け取ったあとは、そそくさと端に避ける。
携帯が義務付けられた棒を横に置き、ひとりで黙々と食べていると、
はなしかけてきたのはハーツだった。
「トールの浮気もん!」
匙を口に咥えたまま横を見れば、ハーツはティアラを載せていない。
どうやら、3人娘はそれぞれのゲームの間しか載せないようだ。
だから今はハーツと自由にはなしができる。
ハーツは傾国の美少女よろしく、派手なドレスを着ている。
中庭で再会したときとは比べものにならない艶やかさだ。
それでもさっきチャッチャ様を見たあとだからか、全く緊張しない。
カレー丼を食べて大量の唾液が分泌されているのもある。
兎に角、口が滑らかに動く。
「藪から棒に何だよ、ハーツ」
「棒といえばチャッチャちんのゲーム、参加せんの?」
「ムリムリムリ。返り討ちにあうのが相場だろう」
「ならええけど。それよりトールは甘いもんが好きなんやないの?」
「たしかに。甘いものは大好きだよ」
「それやったら、辛いカレー丼に手ぇ出すんは、浮気やんか」
「カレー丼は別腹なんだよ!」
そんな軽口をたたいていると、ガシャンという大きな音がした。
振り向くと、そこにはカーエル兄さんが仰向けに倒れていた。
兄さんが幸せそうに見えるのは気のせいだろうか……。
「そんなんじゃ、私に指1本も触れられないわ!」
と、仁王立ちのチャッチャ様。一体、何があったんだ?
音楽隊がドラムロールを奏で、場内が暗転する。
舞台の一部に強い灯りがあてられる。2人の再現道化師が登場する。
2人とも棒切れを携えている。再現道化がはじまる。
チャッチャ様の前に立ちはだかるカーエル兄さん。両者、身構える。
大きく上段に構えるカーエル兄さんに、低い姿勢のチャッチャ様。
じりじりと詰め寄るカーエル兄さん。チャッチャ様は動かない。
一触即発。どっちが勝ってもおかしくはない……。
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