最終章

第18話 招待

更新が遅くなり申し訳ございません。最終章投稿開始します。 


紫音視点


 彩那さんと付き合い始めて、早くも3ヶ月が経つ。


 今日は初めて彩那さんが家に来てくれることになっていて、こんなに頑張ったことがないってくらい、気合を入れて大掃除をした。庭は……うん。これでも少しずつ頑張ったんだ。


 ばぁちゃんが亡くなってから、空気の入れ替えくらいにしか帰ってこなかったから庭が大変なことになっていて、美和子ちゃんの家から帰ってきた時に頭を抱えることになったのは記憶に新しい。


 もうすぐ彩那さんのお家の更新時期だし、ここに一緒に住みたいなって思って貰えたらいいけど、どうだろう?


 駅からは近いし、スーパーだって近い。立地は悪くないんじゃないかって思ってる。ただ、彩那さんのお家周辺に比べると田舎。少し歩けば、田んぼが広がっているくらいだし……

 彩那さんがこの家を気に入ってくれたらいいな。


 彩那さんを迎えに行くために車を走らせながら、いい印象を持ってもらうにはどうしたらいいかを考えていた。



「紫音ちゃん、迎えありがとう」


 車を停めて少し待てば、今日も最高に可愛い彩那さんの姿。


「いいえ。今日も可愛いですね」

「……敬語」

「あっ、えっと……きょうもかわいいね」

「ふふ」


 敬語をやめるように言われてからも一向にタメ口にならない私に痺れを切らして、最近はこうして訂正を要求される。

 意識しないとまだ敬語が出ちゃうんだよね……


「荷物持つよ」

「ありがとう」


 彩那さんのお泊まりセットが入っているであろうバッグを受け取って、反対の手で彩那さんの手を取った。すんなり絡められた指に頬が緩んだのをバッチリ目撃されてちょっと恥ずかしい……でも、嬉しいんだから仕方ないよね。

 車までのほんのちょっとの距離だけど、至福の時間だった。



「とうちゃーく」

「え、ここ……?」

「うん。駐車場に停めちゃうから、待ってね」


 車から降りて、興味津々に見渡す彩那さんが可愛すぎる。表情からは、マイナスな印象は無さそう、かな。


「あ、野菜も育ててるんだ」

「育ててるというか、ばあちゃんが育てていたものがそのまま、というか……?」


 早速、庭の畑に興味を示されて、気が付かなければいいな、という淡い期待は消え去った。手入れなんてできていないし、育て方とかも良く分かっていないから説明できないけど……


「聞いてはいたけど、凄く広いね」

「昔の家だからね。中は私が住む時にリフォームしてるから、不便はないと思う。えっと、まだ庭見る?」

「後でゆっくり見せてもらおうかな」

「あー、うん。好きなだけ見て」

「ふふ、ありがと」


 もう自由に見てください、という諦めの境地の私が面白かったのか、くすくす笑う彩那さんが最高に可愛いです。



 家の中を一通り案内した後でお仏壇にお線香もあげてくれて、私もばあちゃんに紹介をした。

 きっと心配させてただろうし、安心してくれていたらいいな、と感慨に浸る私をゆっくり待っていてくれて、目が合えば微笑んでくれた。


「彩那さん、ありがと」

「ううん。ご挨拶させてもらって良かった」

「お昼ご飯用意するけど、何食べたい?」

「何でも美味しいから、おまかせでもいい? 私も一緒に作りたい」

「大歓迎」


 家のキッチンに彩那さんが立つなんて、用意していたものが早速活躍するのでは……?


「え、これ?」

「うん」

「本気で?」

「うん」

「えー……」


 手渡されたものを広げて、困惑気味の彩那さん。


「絶対似合うから、お願い。ね?」

「はぁ……分かった」

「やった!!」


 お願い! とじっと見つめていたら苦笑しつつも折れてくれた。

 あ、動画撮ればよかった……


「かっっわっっ!!」

「こんなにフリフリのエプロン初めてなんだけど……似合うとか嘘でしょ」

「ねぇねぇ、写真撮ってもいい!?」

「聞いて??」


 ネットで見つけて、これを着た彩那さんを見たい、という気持ちが抑えきれなくて買ったエプロンはそれはもう似合ってる。こんなに早く活躍の日が来るとは。


「彩那さん、顔だけこっち向いて? えー、かわい……その困ったような顔も可愛い!! まって!? 上目遣いやっっば!!」


 可愛すぎてどうしよう……夜にまた着てくれるかなぁ……裸で、なんてお願いするのは流石にダメだよね?


「……へんたい」

「えっ!? うそ、声に出てた? これは、違くて……!!」


 え、本当に? ダダ漏れ?? ひかれた? 気持ち悪かった??


「出てないけど……ニヤニヤしすぎ」

「あ、良かった。いや、良かったのかな? そんなに分かりやすかった?」

「うん」

「ごめんなさい」

「ううん。喜んでくれて嬉しいよ」

「……っ、彩那さん!! 好き!!」


 落ち込んだ私の頭を撫でてくれて、笑いかけてくれる彩那さんが女神すぎる。


「私も。ほら、作ろ?」

「はい!!」


 あー、もう、私の彼女が可愛すぎて辛いです……



「「いただきます」」

「美味しいね」

「うん……おいしい」


 この家で、誰かとご飯を食べるのはいつぶりだろう。1人じゃなくて、隣にいるのが大好きな彩那さんで、この幸せを絶対に手放したくない。


「あのさ……」

「ん?」

「その……」


 なんて言えば上手く伝えられるんだろう。

 彩那さんが大切で、大好きで。好きすぎて苦しくて。


「紫音ちゃん、ゆっくりでいいよ」


 言い淀む私のことを待っていてくれる彩那さんが優しく笑ってくれたから、飾らずにそのまま伝えてみよう。


「前に一緒に住みたい、って言ったこと覚えてる?」

「うん。まだ時間があるから、って言ってからもう3ヶ月経つね」

「彩那さんと一緒に住みたいって気持ちは、ずっと変わってないよ。次の更新はせずに、ここで一緒に暮らそ?」

「うん」

「……えっ、いいの!?」

「私こそ、いいの?」

「もちろんですっ!! なんなら、今日からでも!! 引っ越し屋さんの手配必要だよね? お部屋どっち使う? 2部屋使ってもいいし! あ、でも寝室は一緒がいいです!!」

「ふふ」


 一緒に住むと言ってくれて、テンションが上がった私を優しく見守ってくれているのが照れくさくてそっと抱き寄せれば、身を委ねてくれた。


「一緒に住む前に、まずは紫音ちゃんのご両親にご挨拶したいんだけど……帰国予定ってある?」

「付き合えることになった時に、一緒に住みたいって伝えて了承貰ってあるから問題なし」

「え? そんなに前から? でも、1度電話でもいいからお話したいな」

「分かった。伝えておくね。うちよりも、彩那さんの方は……その、まだ知らないよね?」

「そうだね」

「ルームシェアって伝えてもらうとかかなぁ……こういうのって、何が正解なのかな」

「心配してくれてありがとう。母親が結婚がダメになったことまだ引きずってて……紫音ちゃんには申し訳ないけど、まずはルームシェアって伝えさせてもらってもいい?」

「もちろん!」

「ごめんね」

「彩那さんが謝る必要なんてないよ。何れご挨拶出来たらいいなとは思うけどね。あー、予定もないのに緊張してきた……」


 考えただけで吐きそうなくらい緊張する……受け入れて貰えなかったとしても、彩那さんを手放すことなんて出来ないから、時間はかかるかもしれないけど、会える日が来るといいな。

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