第13話 タクシーに乗って

 歩いている途中でファントムから手帳に連絡がきた。

「社長、こっちは片付いたから夜勤手当よろしくな~」

「ご苦労様! 仕事が早くて助かるよ」

「ちなみに一軒のお宅で家の中に下水が逆流噴射したから、巻き戻し呪文で対応したのでよろしくな」


 通常家で逆流噴射は起こり得ないが、下水道が詰まって圧力がかかると稀に逆流してしまうことがある。今回あるお宅でそれが発生してしまったようだ。

 しかしながら、ファントムは象では屈指の魔法使い。

 巻き戻しの呪文で該当する下水を元の位置に戻したという。この魔法は生物には利用できず、物質や液体などに有効活用ができる。ただし、規模の大きいものには効果がない。


「了解。請求は求められなかった?」

「求められたさ。ありゃー相当なクレーマーだったぞ。巻き戻したからって、ここに汚いものが触れたのは事実だろ? と言い張るもんだから、そいつの脳内も巻き戻してやろうかと思ったわ。俺の呪文は『全て触れていなかった状態に戻る』と何度説明したことか」

「そりゃ悪かった。君がキレたら一番危ないからな」


 普段温厚な象は怒り出すと手を付けられない。

 以前仕事終わりの居酒屋で打ち上げをしているとき、隣の客が「そこの象臭せーぞ、こら!」と怒鳴り散らすもんだから、酒の入ったファントムはプッツン。客は熊だったが強敵相手にボコボコにするわ、居酒屋まで壊しかけた。


「ただな、相手が子供抱えてたから執拗に付け入らなかったよ。さすがに非道ってもんだぜ」

「前みたいな事件を起こされちゃ困るからな。よく耐えた」

「ぶっ続けで疲れたし、この辺で寝るぜ。手当は色付けてくれよ」

「ああ、ありがとな。月初の明細見て驚くなよ」

 それからファントムは就寝の為、手帳を閉じた。


「さて、武器屋に行くぞ」

 左肩に乗ったカナルが指を差し方向を支持する。

「剣を買うって言ってたけど、カナルのサイズの武器なんてあるの?」

「勿論あるよ。これまた特注のね。良い鍛冶職人の爺さんがいるんだ」

「ふむふむ。ところで、肩に乗るの癖になってない?」

 左肩でくつろぐカナルがにやけて言う。

「いや~いい安置を見つけちゃってさ。社長席に決めたところだ。社員のうちは利用させてもらうぜ」

 ――完全にトップダウンだな。

 と、サブは心の中で思うも、カナルの体重は本当に軽いし、それ程負担にもならないから仕方なく乗せておくことにした。


 徐々に城下町を住人らしき者が行き交うようになってきた。

「武器屋はどこにあるの?」

「東側の城下町のはずれさ。さすがに遠いからタクシーを探しながら向かっているんだが……」

 ――タクシーと言えば、昔散歩中に荒い運転のタクシーに轢かれそうになったっけ。飼い主も相当怒って、どっちが悪いだの口論になったな。

 過去の記憶からサブはタクシーにあまり良いイメージを持っていなかった。タクシーではなく運転者のモラルの問題なのだが、偏見はなかなか拭えないものだ。


 宿仮が城下町の南側に位置し、二人は東側に向かい斜め上へ移動している。

 5分程歩いたところで、少し大きめの通りに出た。

 ドッドッドッドッ!! 目の前を大量のダチョウが走り去っていく。

「お、タクシーだ!」カナルが叫ぶ。

「あれがタクシー!?」

「雨でも濡れ放題、一番安いタクシーさ。城を行き来する者をターゲットに移動しているのさ。城は利用客が多いから稼ぎになる」

 30匹程が通りすぎると遅れた1匹がやってきた。すかさずカナルが声を掛ける。


「へい! タクシー!」

 しかし、首には【乗車中】の文字が掲げられていて、首の後ろに人型のキツネが乗っていた。

「あら、ダメか」


 その後も、ダチョウだけでなくランクが上のタクシーである屋根付きの馬車が来たり、人間の人力車が登場したりと、物珍しさはあったが乗車はできなかった。


 諦めかけていると遠くから道を泳ぐイルカが見えた。

 サブは驚き、開いた口が塞がらない。

 近づくイルカはどう見ても地面を泳いでいる。イルカの後方には屋根付きの専用荷台が引っ張られている。

「カナル! 見て! あれ、どうなってるの!?」

「あー、ドルフィンタクシーね。水陸両用の魔力を使っている。自分の周囲に魔力を発生させ地面を海化しているのさ」

 あり得ない光景に魔力の凄さを思い知らせれる。

「ここは特に結びの木が近いから、より強い魔力が地中に存在するんだ。獣型でもトップクラスの頭の良さを持つイルカたちは自ら魔力を利用して、あーやって皆のために働くのさ」


「乗ってみるか?」

「う、うん」

 カナルは手を挙げるとイルカが近づいてきた。

 二頭で引っ張っているらしい。キュインと鳴くと、コインボックスにお金を入れるように促す。先払い制のようだ。

 サブとカナルは荷台の座席に座るとガラス張りになっていて、外の景色が見える。


「ウェポンパイソンへ頼む」

 カナルが依頼すると再びキュインと鳴いたか思えば、二頭同時に波打つ地面に潜る。阿吽の呼吸で荷台を引っ張る。

 サブたちが乗る台車側の地面は液状化せずに、硬い地面になっていた。車輪部分はクローラーになっていて、でこぼこな地形でも安定して乗車できるようになっていた。


「画期的だ! それに早い!」

 カナルはイルカにバレないように無賃乗車をしてきたことがあり、初めて有料で乗車をしたらしい。

「基本は下水道で移動できるからさ、たまに外へ出たら色々気になって試しちゃうのが俺の悪い癖でね」


「他に何を試したのさ?」

「例えば、ペリカン便に乗ったり、カンガルー便のポケットの中にお邪魔したり、コグマ便の熊の背中に乗ったり……ほら、俺軽いからバレないのよ」

「何かどれも人間世界で聞き覚えのある名前だ。しかし、無断はダメでしょ」

 サブは正義感が強い方だ。軽いから良いという問題ではない。

「まぁ、若気の至りよ。白猫親子の宅急便はやめたよ。ネズミを見ると悪戯に咥えられるからね」


 そうこうしていると、現地に到着したようだった。

 イルカにお礼をし、荷台から出ると目の前に巨大な闘牛のような角が二本、地面から付きだしていた。

 その角の間が店の入り口のようで、上には白文字で『ウェポンパイソン』と横書きに書かれている。

 カナルはサブの肩から降りると、薄暗い店内に入っていった。サブもそれに続いた。

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