3

(バレちゃったかな………)


だが自身が傷を負わせたのも事実。

今のところ有利、だと思いたい。



相手の能力は、麻雀牌を使った至極単純な物。

あと三巡ほど回ってくれば数子の特色は見えてくるだろう。

だが一番の難点は、字牌。種類が七種類もある上に、間違いなく一つ一つが強力。

しかも相手は多分初めて使う。

暴発が一番気になるかな………





「フー」

爆発にも耐え抜く強靭な力。

そして一瞬の隙で詰めてくるような身体能力。

手打ちが無いようにも見えるこの状況の打開。



んーー



なんかまだ型にはまってる気がする………

勝つためにもっと、もっと、ぶっ飛んだ、策を………


いや?

相手は無能力…

ということは








風が吹き、草が揺れる。

鮮やかに、緩やかに。

未来すら見ずに。






中が、突如としてスィーコスに投げつけられる。

「いけ、「追尾」」



ギュォン!!



凄まじい速度で、スィーコスに向かってついていく。

「…」

そしてそれを、彼は楽々と避ける。

何回追ってこようとも。

だが、彼の中に、一つの疑問が生まれた。

(こんな楽なものが、能力………?)

先程の爆発と同様端的な能力。

そんな能力が貴重な字牌に入っていることに対しての、ただの失望。

そんな感情が彼を覆っていく。












「………」












寒気と悪寒が、草原全体に広がる。

それは一人の男の失望により起こったもの。

自身の意識の中では、操作が不可能なもの。








(あの男、精を持っていないはずでは…)








冷たく、どこまでも鋭い精が、スィーコスの体から漏れ出し、麻黄にまで恐怖を与える。

ただの威圧。

だと言うのに、麻黄の腰は引ける。

声も出ないほどの、恐怖。








「なんだ、これは」

「強いて言うなれば、麤(そ)、ゾーン」

「自分の力では操作できなさそー」








更に近づく死に、牌を掴む左手も震える。

あの場所から出てから、碌なことがない。

でも、これは一番やばい。
















「………へ?」







いつの間にか、吹っ飛ばされていた。

痛みも音も、追いつかない。

高速より更に速い、超速。





(目でも、追えない……)





ポケットに手を入れようとした瞬間、


またもやスィーコスが、麻黄の目の前に立った。

身長差、体格差、性別。何もかもが正反対。

だが、その目は憐れみを含んでいた。

それは弱いものへの蔑みと表現しても良い。




せめて、楽に…




ゆっくりと、左腕に手をかける。





だが、今度はしっかり対応した。





「東」









全ての行動が一つ戻り、今度は麻黄が先手をとるようにポケットに手を入れた。




………?





もちろん能力の開示などは行わない。

あと三個しか残っていないのだから。






混乱するスィーコス、いや麤を他所に、得た機会をしっかりとモノにしていく。






「發」







その一声と共に、麻黄の周りの草草は緑色に変色した。いや、成長した。




「…」




スィーコスはゾーンに入ったまま無言を押し通す。

その顔は幾らか怪訝さを含んで、相手を見つめたまま。





「効くねぇ、でも、楽しい」



命を削った熱い戦い。

そんなものを、彼女は求めていた。

嫌いな麻雀を行う苦痛より、傷の痛みの方がよっぽど体にくる。

ハハッ

楽しいなぁ





「フー」



何度目かもわからないような吐息。

体の覚醒により、麻黄は更に強くなる。




(これで少しは追いつける、ハズ)




ドッ!





地面を蹴る大きな音と共に、麤へ顔面の蹴りが目の前となる。

これは入った、そう思った矢先。




ドォン!!




麤の拳が、音を立て麻黄の腹へと綺麗に入った。

先程まで聞こえもしなかった音が耳に入り、傷口を更に抉る。



「グッ、ガハァ……」



ゆっくりと、唾液と共に血液を口から吐き出す。

自然と食べ物は逆流してはこなかったことに安堵しながらも、麻黄はようやく絶望を始める。

(やば、この人、流石に……)

進歩に喜んでいる時間など皆無。

また新たに攻撃が飛んでくるのだから。






バゴォン!!





「ヘブっ」



麻黄は顔面を大きな手で掴まれたのち地面に叩きつけられる。

だがこれも速さには追いつけてはいる。




あと、もう少し。




この成長だけは、譲れない。






















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