初終の記
1
「天上天下、此れ迄の爾殺す」
手牌を開きながら、一はそう言う。
「唯我独尊、此れ我の為に有」
手牌を開きながら、ニはそう言う。
「そして厭挿丹下、此れに意有不」
手牌を開きながら、三はそう言う。
「……………」
呆然と、四は他三人の手牌を眺める。
「ロン、七対子ドラ4、18000」
「ロン、清一色ドラ12000」
「ロン、リーチメンタンピン……ドラ10,32000」
全てこの槓が悪いんだ。自身の槓を睨みながら四はうめき声を上げる。
バケモノ共め
麻雀なんて………大っ嫌い。
でも………
衰えることのない心の復讐心を感じながら、四は泣き始める。
だが、卓上の戦いは止まる気配がない。
親の方位札の手前には百点棒が9本。
次の番が意味するのは…………。
九連宝灯。
「わからんな、お前が卓に進んで立つ理由が」
ニが言う。
それは紛れもない四に放った言葉であり、だが目は自身の手配を見つめている。
「まあそんな事言わないであげてよ、ニ。四は楽しみたいだけなんだって。元はと言えば能力もった私らが悪いんだから」
三が二を宥めるように四を庇う。
だが彼女の集中も手牌。
「では妾らが生まれたのが惡だと?」
一が山をツモリながら誰にも答えられることのない質問を投げかける。
「だってどうせ出られないじゃあないですか」
だが、答えた。
何も知らない、麻黄は。
答えた。
こんな会話を耳にしてもいないと思われていた四は、唐突に口を開いた。
「……姉様方は、何かを勘違いしておりませんか?」
「……その心は?」
一が一瞥を向けながら牌を捨てる。
中。
「別に私は能力がないわけではないのですよ?」
「……………いい冗談、笑える。生きてきた二十二年間で一番」
ニ。
「………ホント?」
疑心暗鬼の三。
「勘を履き違えているのは、其方だろう?」
ブワッ
全員の鳥肌が一気に立つくらいの悪寒。
一の形相は、閻魔そのものに見えた。
「母が与えてくれた其れで嘘をつくなど、周知無礼」
それと同時にダンと牌を卓に叩きつけ、
「ツモ、8000オール」
とコールした。
ブーブーとブーイングが上がる中、四だけは口角をあげていた。
「ウソではありませんよ」
「では何だと言うのだ」
「強いて言えば、勘、ですかね」
ダン!
「まさか…」
「ツモです、500,300」
四のコールが卓しかない広場に響く。
彼女は、人生の中で初めて和了ることができたのだった。
それもわざとと思えるほど低い点数で。
「……」
他三人の沈黙を破る者など、誰一人としていない。
和了した、その結果だけしか彼女らの心には残らない。
点数が移動する。
1,84300→83800
2,76400→76100
3,65400→65100
4,-126100→-125000
「これで私も、ここを出られますね」
「………」
「……だが、覚悟しろよ。そんな甘い読みでは、必ず後悔する」
「……まあとりあえず、気をつけてね」
それぞれが別れを口にする。
彼女はようやく、外出権を手に入れたのだ。
そして、いやだが、彼女に待ち受ける試練とは。
違う世界へと飛ばされることも知らずに、輝かしいその目を思いっきり開き4は扉の前に立つ。
九萬を手に隠し持って。
「さようなら」
またもや、部屋が三人のものとなった。
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