3
バァン……………
銃声ひとつで、雨が止んでいく。
雲に隠れていた空に広がるのは黒という名の無であり、何も掴むことができない。
銃を撃った者の左肩には梟が載っている。
威は弾が放たれた直後のピストルから手を離し、後ろへ倒れ込む。
続くのは濡れた草ではあったが、今は心地いい。
「くるっぽー」
鳥は、祝福の音を上げた。
銃を撃たれた者は、胸を押さえながら前へと倒れ込む。
こちらにも草むらが広がっていたが、より多くの水が彼を守る。
パシャッ
声をかけてくれるものなどいない。
彼はどこでも雨という孤独と、一緒だった。
なんで、なんで。
いつも僕だけ…………
ひとりなの?
ドォン!!!!
蒼い雷が、空から顔を出して地面へと到達する。
「また雷?」
驚きながら威は体を起こす。
だがピストルを持つ手はまだ回復しないまま。
色も違ったことから彼のものではないと確信する。
「さあ、帰ろうか」
精場へと戻ろうとした刹那。
「よぉ」
後ろから声がした。
無視することができず胴体を声の主へと向ける。
そこに感じたのは、無故の恐怖。
「…………生きてたの………」
「ああ、さっきの弾は最高だったな」
「それはどうも……………なんで生きてるの?」
「クックックッ……、お前にまで言われるか。まあいい。その理由は、俺にも分からん」
「………は?」
「お前の銃弾が心臓を貫いたところまでは覚えているんだがな、起きてみたらこのザマだ」
胸を指でトントンと叩く彼は事実を伝えているまで。
嘘偽りはない。
それを信じてか威は、
「あの青い雷は、お前に堕ちたのか」
と相手にも聞こえるように声に出す。
「?」
死んでいた時の記憶がないのは当然。
「それでなぁ、俺は考えた訳よ。自分が生きているイミを。答えはまあ至極単純だった」
「……何?」
「クックックッ、雫だ」
「……一回死んでから頭がおかしくなったのか?」
「いや、俺の頭は雨よりキレイだよ。もう少し詳しく言うと、孤独だな。俺は孤独の為に生き、孤独は俺の為に生きる。相互関係ができてた訳よ。そして俺が死んでは、全てのサイクルが崩れてしまう」
「………と言うことは……」
「そう、お前は、俺を殺せないんだよ!」
モクモクモクと、空に黒い雲が広がる。
カットラは右手の掌を空に向けている。
「さぁ、孤独という名の独壇場を始めようじゃあないか!」
そして掌を、地面へと向けると、雨が一気に降り始めた。
ザーザーザーザー
(性格が変わっている?いや、頭がやはりおかしくなったのか、その衝動か)
遠距離戦では埒があかないとでも思ったのであろう。
威は腰のピストルを抜く。
が、それより速くカットラの姿が消えた。
「隠れてばっか、見つけにくい…」
本音が漏れる。
今はそんなことを気にしてもしょうがないのだが。
遠くでは、カットラが地面に手をついて、その時を待っていた。
「わかったわかった、はやく、終わらせよう」
パリ、と
地面に電流が走る。
いや、地面というよりかは天地か。
その量は増していき、まるで複数の線が天地を繋いでいるかのよう。
そして威の悪い予感は、的中した。してしまった。
「…………まさか………………」
「もう無駄、雷降天地改軌(ムラカラ)!!!」
天地を繋いでいた線は突然消え、幾多もの雷が地面と空の両方から出現し、空中で交わった。
バリバリバリ!!!!
この世のものとは思えない音が森の上下に響く。
その範囲は威の周り半径30mと極めて広い。
「この技は………」
汚穢の精場の中で声を上げたのは、クラだった。
「久しぶりにみるね。この子の威力はお粗末だが、あの時はミールがこれやって
追い込んだからな」
「まあ私たちも同じ四側星ですけどね」
アカとクラが目を合わす。
「……そうだな……」
悲しそうな顔を残して、汚穢は俯く。
頭で考えていたのは過去が未来か。
バリバリバリ!!!
音は続き、男の影すら見えなくなる。
そして間も無くした後、雷は消え、黒く焦げた新地が見えた。
「……死んじゃったかな」
何も残らない荒野でカットラが一人呟く。
「やりすぎだから、今度からやめようね」
誰かに向けての言葉であることに間違いはないが、肝心の相手がいない。
彼女は、足をすすめた。
汚穢の精場へといく為に。
だが、惜しくも拒絶される。
そして汚穢は、こう言った。
「まだ、戦えるみたいよ?」
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