第6話 羨ましい 妬ましい

 噂は広がるのが早い。夏休みの真っ最中なのに、陸上部の新しい副部長をみんな知っていた。

「聞いたよ〜。雅が副部長に選ばれたって? よっ! 次期部長!!」

「やめてよ! 恥ずかしいから! ちょっと、澪音みおの!!」

こんなふうに、夏休みに入ってから会っていないはずの澪音が知っているのが良い例だ。騒いでいる2人を冷めた目で見ていた私に気づいた澪音が、

「そろそろ全国大会でしょ? また応援しに行くね! がんばれ!」

と言ってくれた。忙しいはずなのに絶対に応援しに来てくれる。こういう時、自分は好かれてるなって実感する。

「うん。頑張るから見ててね。」


 


 待ちに待った全国大会当日。会場は人で溢れていた。やっぱり県大会とは規模が違う。感じたことがない量の視線を全身で浴びながらトラックへ急いだ。

 『On your marks』

深く息を吐く。ここがずっと目指していた全国の舞台だ。今まで頑張ってきたのも全部、今日のため。

『Set』

パンッ!


 結果は12.31。県大会で出した自己ベストよりも遅かった。残定一位とはいえこんなタイムじゃ安心できない。周りの話に耳をすませていると、最後に走る影野かげの泉樺せんかという同い年の子が優勝候補として注目されていると聞こえた。自己ベストは私より少し遅い12.30。

 影野さんの走りを見て、背中に汗がつたった。目測だけど、私より速い。そう思った時、息が上手く吸えなくなった。走り終わった影野さんから目を逸らし、スクリーンを見上げる。そこに映ったのは、


      1位       影野 泉樺        12.20


ああ。負けてしまった。瞬時に理解した。出来てしまった。綺麗なフォーム。軽やかに動く足。私には無いものばかり。そして、悔しいより先に羨ましいが出てきた自分に嫌気がさした。

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