附章

コラム 「すぷりんぐ・うぉー」キャラクターネーミングの真実

 時々、登場人物の名前をどうやって決めたらいいのかわからない、という悩みが、新人作家さんなどから出てきているのを目にすることがあります。

 それら全国の小説初心者の声にお答えして……というわけでは全然ないんですが、今回はキャラネーミングの話。「すぷりんぐ・うぉー」のキャラの名前を、湾多はいったいどういう手順で考え、決定したのか、という裏話エッセイです。

 別に知らなくてもこの先を読むのに何の不都合もありません。あくまで息抜きコラムのつもりですので、まあ書き手として参考にしてもらうもよし、行間に湾多のドヤ顔を透かし見つつ、「貴様の設定スキルはこの程度か」と鼻で笑ってもらうもよし 笑。

 では、以下メインキャラから説明していきましょう。



・峰間翔雄 みねまとびお

・香好優理枝 かずきゆりえ


 コメント欄で触れたこともありますが、本作は実はシェークスピアの「ロミオとジュリエット」が大本のネタで、「二つの対立する勢力の、責任ある地位にいる若い男女。その許されざる恋。苦難に満ちた恋愛ドラマを軸に、スパイアクションと地学SFを加えた長編ライトノベル」というのが、最初の構想でした。

 ……いや、今でもそのベースを意識して書いてはいるんですが……いつからこんなバカ話九割の構成に……まあそれはともかく。

 で、当然の流れとして、「ロミジュリ」の原作をそのまま引用するようなキャラ作りを意識して、とりあえず二人の少年少女の下の名前はすんなり決まりました。


  ロミオ > トビオ > 翔雄

  ジュリエット > (フランス語読み)ジュリエ

         > (ラテン語読み)ユリエ > 優理枝


 問題は姓の方。原作だと、その「対立する二つの勢力」ってのは、こんな名前です。


  モンタギュー家

  キャピュレット家


 門滝……と蕪列戸? とか、無理に作れんこともないですが、もう少し口当たりのいい語感にならんのか、と思い、強引に語源にさかのぼってこじつけを考えることに。その結果、モンタギュー Montagu というのは、mount、つまり「山」の類縁語で、さらに gu はもともと aigu で、針とか突端みたいなイメージの語、という説明を読んだ(気がした)んで、そこから連想が進み、

  montagu > mount + gu > 山のとんがった部分 > 峰 > (語調を整えて)峰間

という姓が出てきたというわけです。

 一方のキャピュレット。これは、家名の起源のまともな説明は色々あるんですが、現代英語的に単語の成り立ちを分析すると、「帽子」の cap に let がついたもの、という分け方が可能です。この場合の let は「小さいもの」を表す接尾辞とみるべきでしょう。強引に日本語で表せば「〜ちゃん」みたいなイメージ。つまり、キャピュレットを直訳すると「帽子ちゃん」ということになります 笑。

 とはいえ、「ぼうし」って響きだとヒロインの姓として今ひとつなんで、もう少し転がしてみました。結果、

  capulet > 小さい帽子 > 頭に被るちょっとしたもの >

   (古語の)かづきもの > (letのイメージに「好」の字をあてて) 香好

 という姓で、まあ悪くないな、ということで。


 さて他のキャラですが、さすがに主人公格でもない人物のために延々と原語のリサーチなんてしてられないので w、この先は結構適当です。以下、原作の「ロミジュリ」に出てくる登場人物から出発する形で一覧にしますと、


・モンタギュー側

ベンヴォーリオ > ベン・ボリオ > ほりお・べん > 堀緒つとむ

マキューシオ > まき・ゆしお > 湯塩まき >

  (「まき」は湾多のとある作品での主人公に使ってたので少し変えて)湯塩真知

エイブラハム(モンタギュー家の下人)> えいぶらむ > えぶらん>

    えくらん > えくら・あん > 衛倉杏


・キャピュレット側

タイボルト > たいほ・りゅうと > りゅうどう・だいほ > 柳堂大歩

乳母 > 姥 > 姥桜 > 卯場さくら

ピーター(乳母の召使)> ぴいた > へいた > 平太 > 卯場平太

グレゴリー(キャピュレット家の召使)> ぐれごりあ > ぐれご・りあ > 呉後璃亜


・両家以外

ローレンス(修道僧)> ろうれんす > すろうれん > すろう・れん > 須楼蓮

パリス(ヴェローナ太守の縁者)

+ ロザリン(ロミオの許嫁・名前だけの登場人物)

   はりす・ローズ > 梁須田ローズ&マリー


などなどの、おなじみの名前が出てきます。

 こうしてみると、衛倉杏だけ妙に苦しいトランスフォーメーションやってるんですが……なんだったんでしょうね。確かにうまくいかなくて苦労した記憶はあるんですけれど……まあこういう形で命名したんだから仕方ない w

 

 他のキャラは? と言われそうですが、ぶっちゃけ、これ以外は語感と響きのイメージだけで直感的に決めたのがほとんどです。特に第0章のキャラは、原作の使いやすい名前が払底した後に書いた部分というのもあり、十秒程度で思いついたものがほとんどです。列挙すると


  昆野セシル

  鹿戸康平

  水枯みなかれ砂鳥さとり

  松器


などなどですね。

 一応、それぞれにアイデアの元みたいなものはあって、「鹿戸」などは、舞台が奈良だから、ということで鹿の字を使いました(安直)w

「水枯砂鳥」は、そこまでのストーリーで硬質な響きの名前が続いたんで、まず「水」を使おうとして、でもすぐにあまのじゃくに「枯」と続けたところで、三文字目に「砂」が入ってきた、という感じでできた名前。

 ちょいキャラの「松器」さんは、山だらけの滝多緒から来た人ということで(まあ評議会のメンバーは全員そうなんですが)、「杉」とか「松」とかの樹の文字を入れようと思い、そこに姓名用の字として奇をてらう形で「器」を加えて作りました。


 他、適当に思いついたと言えば、


  峰間大伍だいご

  甲山かぶとやま剛磁ごうじ

  香好美涼みすず

  蛎崎かきさき迅悟じんご


などなどのキャラもそうです。甲山博士の場合は、苗字を六甲山麓のローカル有名地の名前からとってるわけですが、下の名は、他の三名も含め、純粋に響きの好みで作りました。結果、峰間祖父、甲山、蛎崎などなどは、やたら濁点の入ったネーミングに偏った感がありますね。


 さて、本作にはちょっとクセのある名前で、読者が「おや?」と思いそうなキャラ集団がいるんですが、みなさんご記憶でしょうか? 第0章に登場して、ずっと無名で、まともな名前紹介は終わりの方でやっとしてもらえたという、千津川チームの面々です。この人たち、確かに登場人物としてはすごく存在の薄い人たちなんですけれども w、実はネーミングについては他のキャラにはない着想法で作られたという経緯があり、湾多としては、ぜひ聞いてほしいような、でもバカバカし過ぎて秘匿しておきたいような 笑。

 えーとですね。まずこの人たちの名前を確認しておきましょう。年齢順に書くと、こうなります。


 芳賀はが石目いしめ野玖珠のぐす栗瀬くりせ目音路めおとじ


 これを全部ひらがなにしてつなげ、濁点を少し調整してみます。すると……


  はがいじめのくすぐりぜめおとし


 なんか子供同士が悪ふざけで仕掛けるような、しょうもない技の名前みたいなものが浮かび上がってこないでしょうか ^^。

 うん、急にこんなアホみたいな変則格闘技の名前が閃いてしまいまして。これはこのままキャラネーミングに使おう、とそのまま漢字を当てはめた次第。

 まとまった人数を命名する必要に駆られたら、こういうやり方もあるということで 笑。




 現時点で「裏六甲」は、一応中心キャラの顔見せが終わってるんで、この先はそうそう何人も重要キャラが出てきたりはしないと思いますが、展開の必要上、もうなんぼかキーパーソンを出す必要はあります。一人二人新キャラが現れたら、「これはどっから取った名前なんだろう?」と色々推理してもらうのも面白いかもしれません。

 というわけで、今回はちょっとした設定裏話をお送りしました。


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