四大精霊の愛し子 ~自慢の家族はドラゴン・テディベア・もふもふ犬!~
羽廣乃栄 Hanehiro Noë
プロローグ(地球)
『
懐かしいな。朝起きる瞬間、おじいちゃんの陽気な声が脳裏に響いた。こういう言い方をするのは、大概がロクでもないことを思いついたときだった。
なんせド変人の中のド変態。
心霊スポットに突撃して体調崩してお隣の神主さんに
『えー……ぼんやりまったりしたい』
と私が引き気味に返したら、『てええいっ、もっさり
今では一人ぼっち。無表情のまま食べる朝ご飯は味がしない。
「みか、じゃなかった。そこの、取って」
今日初めて耳にした肉声は、こっち。
食卓で立ち上がりかけだったけどさ。
私は『めぐみ』だ。『みか』じゃない。
まぁ、うん、親だってお腹を痛めて産んだ子の名前を言い間違えることもあるよね、
いつも明るく『めめ』って呼んでくれた
芽って漢字を二つ並べるんだよ。
今、地味に痛いのは、右足の小指をリビングのドア枠にぶつけたせいだ。
忙しい忙しい、と愚痴りながら出勤する女の人の後ろ姿を無言で見送る。『いってらっしゃい』と言ってあげてもいいのだけど、どうせ返事はないから省エネで。
普段ならば、ここにいる三人は別々のタイミングで台所をうろつき、買い置きした総菜だのビタミン剤だのを各々で漁り、勝手に家を出て行く。
それを学期がもう終わったからと、まとめて同じものを用意してみた。パンはバターを塗ってからトーストしたし、卵はフライパンで調理した。一応の義理は果たしたと思う。
母のお皿を持ち直した私は、横の空いたお皿も引き寄せる。
「…………」
皿の持ち主である男の人は、無言で目の前のスマホ画面を
自分の朝食の片づけをしてくれるなら『ありがとう』だし、誰かが慌てていたら『大丈夫?』だよね。と父に説いても無駄なのは何度も証明済み。私も無言でお皿を食洗器に入れた。
ちなみに今日の私は、空港に行って、国際線の飛行機に乗る。一日かけて日本のおじいちゃん家に帰るのだから、流石に一言くらいあるかなと身構えていた私が馬鹿だった。
高校を卒業したばっかりの未成年だぞ。一人娘だぞ。『気をつけて』くらい言ってほしかったな――なんて期待はもうしないけどさ。
「…………てええい、熊饅頭でいっ」
両親が消え、しーんとした家の中でテディベアを抱きしめる。ホントにこんなの、平気の
だって私の周りは、天の川銀河のダイヤモンド結界が守ってくれている。その正体は、河原で拾っただけの、四粒だけの、ほんの小さな握り石だけど。
ちゃんと日光浴させてるからね。人間の肉眼で見えなくたって、この子たちなりにキラキラ光っているはずだ。
おじいちゃんに教えてもらった、星のエアー座布団。「ないしょの魔法だよ」って笑いかけてくれた本人は、一年前に死んじゃったけど。
それでもまだ、唯一無二の親友だっているじゃないか。
陸上最強の肉食獣、ホッキョクグマのテディベアを誕プレにリクエストして、『ミーシュカ』って
目の周りだけ
『この子…………何グマ? ちなみに、謎グマだとか、語呂狙いの適当返しは受け付けないから』
『うぐっ…………そ、そやつは、魔王軍最強の魔グマ大佐なのだ! 魔力を込め続ければ、いつかは噴火するかもしれん!』
後期高齢者が厨二病返しとは、いかがなものか。しかも熊でマグマの
私の誕生日をスルーしたうちの両親は、熊饅頭ごっこも知らないんだろうな。
おじいちゃんの肉体が寿命を迎えた後も、いつもの毎日が続く。
学校から帰っても誰もいない無機質な家。
冷えたご飯の置かれた味気ない食卓。
こわい夢から覚めても闇に沈んだままのベッド。
それでも、魔王熊のミーシュカは必ず傍にいてくれた。
だから話しかける。噴火ならぬ返事はまだないけど、そこは気にしちゃダメだ。
きっといつか
いつもどおり二人っきり。本当はちょっと
元気の気。癒しの心。寄り添う愛。この世という着ぐるみには、科学では
『普通』に弾かれないよう、熊のぬいぐるみを抱えて丸まっているのが私。明日も明後日も明々後日も変わらない。
四つのお星様の結界越しに、無慈悲な『普通』がやって来ては過ぎ去っていく。――はずだった。
****************
※
そして祖父は、
そういうところが似た者同士。
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