第17話 似非不思議噺・霊視を頼まれる

 正直なところ、女子の恋バナほど退屈なものはない。

 もちろん、自分はそういう類の話を他人にしたことはない。したがって、自然と聞き役になってしまう。




 聞き役が堂に入ってた高校二年の頃の話。



「ねえ、聞いて聞いて!」

「どしたん? (はぁ~、またアレか)」

「昨日さ、サッカー部のニシザワくんと目が合ったんよ。ってか、最近よく目が合うんよ」

「好きなんじゃない? (あ、しまった! またリップサービスしてもうた。こっから長くなりそ)」

「やっぱり!? 実はね——あーたらこーたら、かくかくしかじか……」


 延々としゃべくる女子の肩越しの景色を何の気なしに眺めながら、あたかも真剣そうな顔で右から左に聞き流す。それが、いつものルーティーンだった。

 

 そんなある日、突然、身に覚えのない疑い(!?)をかけられた。


「ブロ子、視えるんよね。本当は視えとるんよね?」

「何が?」

「霊」

「はぁ? オバケのあの霊?」

「うん。みんな言ってるよ。話してる時、ブロ子がいつも肩のあたりを真剣な眼で見てるって」

「……ああ。(思い当たる。相手の話が退屈だからとも言えない) でも、それが霊と何の関係があるっての?」

「霊は肩に乗るって言うじゃん。ブロ子はそれを視てるんだよね。隠さないで教えてよ。ねぇ、私にはどんな霊が憑いてる?」

「し、知らん。(そんなもん視えないって言えよ、私)」

「ヤバイの? 私、ヤバイやつに憑りつかれてるの!? 最近、右肩が重いんだけど」

「いや、だから……私に霊が視えるわけないじゃん(言えた!)」

「ウソ! ひどーい! 冷たい! 教えてくれないんだ。相当ヤバイのが憑いてるからなんでしょ!?」


 本当のことを言って嘘つき人非人呼ばわりされてはたまったものではない。


「あ、えーと(もう適当なこと言って誤魔化したろ)、十三代前のご先祖がやらかした罪が巡り巡ってちょうど波長の合うあんたが償うことになったんよ(知らんけど)」

「ええっ! 十三代前!? 縄文時代かな? どんな罪?」

「男に現を抜かして家業を疎かにしたんじゃない?」

「えっ、家業って? うちサラリーマン家庭なんだけど」

「縄文時代からサラリーマンやってたわけじゃないよね。たぶん、現代風に解釈すると、恋愛ごとに熱を上げてないで学業に集中しろってことじゃないの?」

「ご先祖が言ってるの?」

「うん。(そういうことにしとこ。ご先祖っていうか親もそう願ってるだろうし)」

「ヤバイ! 勉強せな!」


 年頃の女子は恋バナと同じくらいスピ系の話が好きだ。

 以来、似たような話が何件か持ち込まれた。その度ごとに適当なことを言って誤魔化した。


 しばらくして後、一枚の写真を私に見せる者が現われた。


「家族旅行でK厳の滝に行って来たんよ。滝写してきたんだけど、何か写ってない? 視て視て」

「何かって……滝写してきたんなら、滝が写ってるっしょ」

「そうじゃなくて。ここって自〇の名所って云うでしょう? もしかしたら霊とか写ってないかなって思って。例えば、この辺とか人間の顔に見えるんだけど」

「(どう見ても岩だ)うん、それは八百年前に修行僧が足を滑らせて誤って(謝って? ……ごめんなさい! と言いながら?)滝つぼに落ちてしまって、きっと無念の思いが残ってるんよ」

「へぇ~。じゃあ、この写真どうしたらいい?」

「普通に持ってれば?」

「でも、無念の思いって……なんか怖くない?」

「祟ってるわけじゃないから、な~んも怖くないよ。それにさ、これも何かの縁だから、代わりにあんたが無念を晴らせばいいんじゃないかな」

「えーっ、どんなふうに?」

「修行僧はたぶん志半ばだったわけだから、あんたの場合は男に現を抜かす暇があったら一生懸命勉強がんばったらいいと思うよ」



 結局、何がどうあっても『勉強がんばれ』と『男に現を抜かすな』に帰結する私の霊視は、次第に需要がなくなり、そのうち誰からも相手にされなくなりましたとさ。


 めでたしめでたし(^^)v

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