第11話 筆記試験
そして聖ミズエル冒険者学園の入学試験の日を迎えた。
もともとミズエルの指導を受けていたレイチェは基礎が充分出来ているし、ここ数日で与えた俺の知識によってエーテル魔術についても理解を深めつつある。
勇者一行のうち二人の教育を受けれるとは贅沢なやつだ。入学試験を落ちることは万に一つも考えられない。俺は一切心配してなかった。
冒険者学園に出かける前に、屋敷の玄関口で最後の確認を行う。
「おいレイチェ、ハンカチは持ったか? トイレは済ませておけよ。喉が渇いた時に備えて水筒を用意しておいたから持っていくんだぞ。ああそうだ、緊張した時はだな、魔力を手のひらに集めて、」
「もうナイン様、心配しすぎです! ミズエル様みたいです!」
「ミズエルと同じ扱いはやめろ!」
勇者一行の中でも特に身内には甘いミズエルと同格にされるのは不本意だった。
「ああそれと、ナイン様じゃない。ナインと呼べ。何度も言ったはずだぞ」
「あ、すみません」
レイチェは頬を染めて、もじもじとしながら上目遣いでこちらを呼んだ。
「ナ、ナイン……」
「よし! 使い魔に様付けなんてしていたら舐められるからな。いいかレイチェ、魔術師っていうのは舐められたら終わりだ。睨まれたらこっちも思いきり睨み返して目を逸らすんじゃないぞ」
「なんだか不良みたいですね」
「魔術師の社会も裏社会みたいなものだからな」
もちろんそんなことは全く無い。仮の主人が侮られたら俺が嫌なだけだが、俺はそんなことはおくびにも出さない。
「よし、行くぞレイチェ。勇者一行の弟子としての力を存分に思い知らせてやれ!」
◇◇◇
冒険者学園はミズエルの屋敷から徒歩で一時間程度の場所にあった。
迷宮都市バビロカの端に位置しており、巨大な校舎の裏には大型迷宮が控えている。
「でけえな」
「大きいですね」
筆記試験を行う場所に向かいながら、二人で校舎を見上げる。
「俺が通っていた冒険者学園はもっとちんまりしていたな。あまり冒険者に人気が無かったからだが、今は違うのか?」
「バビロカは巨大迷宮を三つも抱えている迷宮都市ですからね。よそからも冒険者がどんどん流入してくるので、冒険者学園は人気がありますよ。それに何より」
レイチェは得意気に豊満な胸を張る。
「大召喚師ミズエル様が作った学園ですから」
「流石は俺の
二人でここにいないミズエルを誇る。
しかし、こうしてかつての仲間が作り上げたものを見ていると、俺も何かやりたくなってきたな。学園運営ってのはちょっと俺には向いてなさそうなので、他に何か探してみるか。戦士ワパだって『勇者ナインの冒険』を書き上げている訳だしな。
それにしても何か忘れている気がするな。でかい校舎を見ていると何か思い出しそうなんだが。魔王討伐……巨大な学園……。
そうこう考えているうちに筆記試験の会場に着いたので、いったん置いておくことにした。
入り口から校舎に入ってすぐの場所にある一階の教室だ。
「行ってこいレイチェ。骨は拾ってやる」
「頑張ります!」
受付を済ませると、気合を入れて教室に入っていくレイチェを見送る。
さて、どこで待ってようか。少し悩んであたりを見回していると、受付の男に声をかけられた。
「保護者の方はすぐ近くの教室を待合室にしていますよ」
「保護者じゃない、使い魔だ」
「は、はい……」
「そして勇者だ。サインはいるか?」
「あ、あはは、そうですか、それでは待合室にどうぞ」
男は笑顔を引きつらせると、俺を待合室に案内したあとにそそくさと逃げていった。
そわそわと待合室でレイチェを待つ。
俺が面倒を見た限りでは座学に問題は無さそうだったが、油断はできない。レイチェが試験を落ちれば、自動的に使い魔である俺も入学できないことになる。そうなれば学生ではなく無職だ。
死活問題だった。勇者は女にモテるが無職はモテない。ついでに、冒険者学園に大量に貯まっている現代魔術の知識も学ぶことができない。
試験終了の時間になったので、筆記試験の教室にレイチェを迎えにいく。
とぼとぼと肩を落として出てきたレイチェを見て、俺は青褪めた。
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