第19話 自暴自棄

いきなり、笑い始めた、情緒が不安定な亮を回復しようと百合草が魔法を施行させる準備をする。


「小鳥遊!あんた、正気を保って!!いま、回復するかr」


「あ゛〜〜?やめろ、うざい」


そう言って、百合草が実行した魔法を


「何やってるのよあんた!」


「何って……?」


亮は疑問に思い自分の姿を見下ろすと、顔の皮膚がほとんど焼けて体は骨が所々みえている。この空間に骸骨が2匹……。


(成る程、これは言葉を失うわけだ)


こんな重症者が治癒を拒否したら、誰でも困惑するに違いない。


(もう、どうもいいや…こいつもこの体も…)


亮は、ふらりと揺れる体に鞭をうち、がしゃどくろの前にもう一度立つ。


(体はまだ動く、筋肉は焼け切れていないな)


こんな、どうでもいいことにも、面白おかしくなり笑いがこみ上げてくる。




がしゃどくろが、その白い手を降ると同時に、一瞬空間が陽炎のように揺らめく。


風魔法である鎌鼬(かまいたち)が真空の斬撃となって亮を襲う。


「あは!!!!」



「逃げてええええ!!!!!」


真空の鎌が亮を細切れにすると思われた瞬間―――


魔素特有のきらびやかさを纏いながら消えていく


「え?」


百合草が素頓狂な声を上げる。


この世界に憑依してから、魔素を扱うことに関して絶望的にセンスが無かった。魔素の操作する感覚がどうしても掴めなかった。


そして教え手が桜ということもあり、操作の感覚が抽象的すぎたこともあって習得することに難航した。


しかし、魔法とは物理現象のモノマネ。魔素という触媒を用いて事象を引き起こしているのには変わりない。


そして、幸運なことに亮には、魔法術式を可視できる才能があった。


だから、相手が実行した現象に対して逆の魔法式を作用させる事で打ち消す。


これは魔法を出力できない亮にとっては唯一無二の防御魔法になった。


接近して、亮の魔素を操作することができる領域に入りさえすれば、どんな魔法であっても打ち消すことができる。


しかし、今相手取っているのは、天才と歌われていた桜 彩でも勝つことが能わなかった正真正銘の化け物。


桜が死んでしまったため、原作を途中で切ってしまった亮は、転生者にありがちの知識での無双をすることができない。あいつの倒し方に関しては全く知識がない。


(天才に追いつくには、天才を凌駕するためには、桜を助るには、狂気の向こう側へ、もっと狂わなければ!!、もっと!!……)


がしゃどくろが周り一体を氷の世界へと変化させる。


氷結魔法、氷海ひょうかい...周りを凍った海のように空間を作り上げる。


津波のように押し寄せてくる氷の波が亮を飲み込む。


「小鳥遊!!!!!!」


亮を飲み込んだはずの氷が巻き光の粒子へと渦を巻きながら変換されていく。どんな魔法術式であっても、魔素へと逆変換させる。


「きっっひっっっアハハハ、百合草ああ!うるせええ!!話しかけてくんな!気が散る」


どんどんテンションがあがり、ほぼほぼ奇声に近い不気味な嗤い声を上げる。


周りに散らばっている魔素を、体の中央へと収束させる。


「あっっはああああ!!!!!ひっっひひいいい!!!!!」


狂乱的に笑い声を出しながら――――


お腹が痛いくらい面白い。桜が笑ってる未来が近づいたと思えば、より。更に思考から正気を排除して、身勝手な思いを抱きながら――――


魔法戦では、対してダメージを与えられないとわかったのか、間合いを詰め寄るがしゃどくろに対して、


収束させていた魔素を暴発させた。


出力をできない亮ができる唯一無二の魔素の暴走による攻撃。


いきなり膨れ上がった高温の空気にさらさて吹き飛ばされるとともに、がしゃどくろの骨の一部が高熱で溶け落ちる。


それでも、魔素の塊でできている魔晶体は周囲の魔素を使い、再生しようと試みる。


「させねーよ、バーーカ」


再生のために高濃度で集めていた周囲の魔素を霧散させる。


魔素を操作するのに夢中になっていたのか亮が接近していたことに気づいていない。


一瞬、されど一瞬、亮が距離を詰め寄るのには十分であった。


死の独特の気配を感じ取ったのか、防御の魔法式をこの戦闘で初めて展開し始める。


それすらも、打ち消して、胸に突き刺さった白いカルシウムのレイピアにも構わずに接近して――――


そして、ついに亮ががしゃどくろの魔素の中心をとらえた。


それは魔晶体の心臓部とも言えるコア。


魔素を結晶化させ、体全体を操るための命令系統の術式を崩壊させる。


消滅でも、打ち消しでもなく崩壊…




濃縮され魔結晶が割れて中に高濃度で詰め込まれていた魔素が煌きながらに周りに散らばっていく。


クリスマスのイルミネーションのように色とりどりの色を放ちながら……。


決着は呆気なかった、一瞬の空きを着いたただのまぐれ、もう一度勝つことは不可能に近いだろう…


亮は戦闘の緊張感が抜けたのか、足に力が入らずその場に倒れ込んでしまう。


「あ~~しんどい。」


亮は、何故か息がし辛いことに疑問をいだきながらも達成感を噛みしめる。


「……………よ…………………………………………あ…………………ぃ………………わ…」


百合草が何を言っているのかが全く聞こえてこない。ただ、口をパクパクさせていることにも笑いそうになる。


「どうするここからまずは出るか?おr…僕は疲れたから少し休みたいんだけど。」


ドーパミンの効果が切れたのか、体中が刺されたように痛みを発し始める。それと共に抗えない眠気がおそってくる。


爆笑し終わったあとの特有の体のだるさが、全身にのしかかる。


「そ………………………………ぉ…………み………」



(魔晶体は魔素を構成する術式が存在する。そこから魔晶体は世界の意志の産物なんてもので呼ばれるが、こんな低い深度では生じるはずがない…)


少しひっかかることがあるためあまり動くことは得策ではないとぼんやりとした頭で考えた。


そのまま、視界が狭くなる、死ぬなんて微塵も考えていない亮は恐怖すら感じるまもなく意識を手放した。


しかし意識を手放す瞬間、ちらりと見えた、百合草の口を固く結び、悲しそうな顔をしていることが桜の顔とダブって見えて、とうしようもなく……悔しかった。

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