転移者とはもしや……

 ──私は近衛兵、いや元と言うべきか。私はここに記す。何があったのか記す。

 一年程前か、我々王国は滅亡の危機に貧していた。状況は劣勢に立たされており、四方を敵国に囲まれ軍隊が動かせなかった。今思い出せばあの時に命からがら王と共に都を捨てれば良かったと後悔する。あの宮廷魔術師とその一族はいつの間に入れ替わった。本当のあの一族達は何処に……

 ああ、脱線してしまった。もうすぐ奴らが起きる。早くこの呪われた都から去りたい。




 ──半年前、偽物の宮廷魔術師は王に進言した。包囲網の打破として、異世界から勇者を呼び戦況をひっくり返そうと提案をした。

 近くにいた私も耳を疑った。遂に痴呆を迎えたのかと。しかし、異世界の代物を見せられたら信じざるを得なかった。

 魔術師は“密か”に異世界を観測し研究をしていたらしい。一族総出、約一世紀も費やして調べていたらしい。その一世紀の間に何処のタイミングで本物は消された末に一族を乗っ取られたんだろう。

 異世界からの召還は突貫だった。呼べるとすれば精々一人が限界と、当時あと一〇〇〇人は欲しかった。だが一人という数字がマシに思える。

 召還の儀式、結果を述べれば成功した。あの時は歓喜した。これで国は平穏になると。しかし、間違いだった。これでは傾国の魔物だと後で思い知らされた──。




 召還されたのは『人』だった。我々と同じ人。敵も人だ。だが召還された人は態度が最悪だった。王に面会早々無礼の連発だ。おまけに召還された理由を話したら『最高』だの歓喜していた。……今思い出しても腹立たしかった。しかし、国の包囲網打破の為には仕方がなかった。これが苦渋の日々の幕開けなど思いもしなかった。

 異界からの召還者は、我々の持つ魔力とは別物だった。塊。岩石とか、山とかだろう。私は力関係に及ばなかった。そして最悪だったと言えば、姫や王妃に対する無礼だろう。王に対する無礼とこちらは違い、馴れ馴れしく近付きベタベタと触ってくる。王は一体あの時何を思っていた。しまいには、城下の町娘相手に手を出す録な男ではなかった。学びを疎か、作法さえも。見ていて何度も殴りたかったか。

 だが、そんな召還者は戦場に出てからだった。彼の者の魔力は敵国の軍団を簡単に仕留めた。我々の努力など無意味と言わんばかりにだった。これくらい誰だってできますよね、と……そんな事ができれば、苦労などせぬわ。




 包囲網打破は成功した。ああ、成功した。しかし、突然だった。召還者は訳のわからない言葉を吐きながら、我らが王の首を跳ねた。

 咄嗟の行動などできなかった。

 国は召還者の性でめちゃくちゃとなった。

 彼の者が馬鹿馬鹿しい制定を建て、それに異を唱えれば処刑。

 彼の者が執務を放棄し女達とへばり、それに異を唱えれば処刑。

 彼の者が隣国と関係を崩壊を招けば、それを他者に責任転嫁。

 書けば書けば書くほど、我が故郷は荒らされていった──。




 半年が過ぎた頃。城下の雲行きはどん底に落ちていた。姫は王妃となり召還者の望まぬ児を産ませられ、それを幸福と強要する。挙げ句のはては元王妃にもだ。暴君、そう表するしかないやりたい放題に荒らしに荒らし回った。嵐、災害が人の成を形作り現れた物怪もののけか。

 国の崩壊は時間の問題ではなかった。召還した宮廷魔術師が彼の愚王に入れ知恵をした。

 ──“究極の力を制する、全てを手に入れ覇王として君臨なされては”──

 この言葉は堕落し豚、いや家畜以下の貪欲とした大馬鹿に火をつけてしまった。

 儀式の日だ、愚王は魔物と化した日。この日、愚王は覇王になろうとした。しかし姿は醜悪な化け物に変貌を遂げた──。




 国はどうなったか。

 滅んだ。

 私は近衛兵という立場を捨てた。

 廃城と化した彼処は今も宴をしている。

 怪物と化した王は目などない。耳もない。

 では、何を口に運んでいる?

 ──それを知りたくない。私は去る、この国はもう召還者によって滅ぼされた。宮廷魔術師と一年は何処かへ消えた。あの愚か者は、自分が特別とほざく無能は、いつか討伐されその首を討ち取られて欲しいとここに記す──。

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名もない物語短編集 Kelma @kelma

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