1章 仮装の宵と光る魔除けの目
一節 異郷の祭りと神成の巫女
神へと流れる神成の巫女――
その手に託されしは町の安寧か、
隠されし不穏の気配と共に、宿場町に祭囃子が響き始める――
祭りの日は近い。
私はその中心で、差配を振っていた。
「そこの童子(わらし)たち、川岸の掃除は終わった? 供物の野菜は傷のない上物を選びなさい。齧ったら承知しませんよ!」
角を生やした小鬼たちが肩をすくめ、「ひぃ」だの「キャッキャ」と小声を上げながら作業に戻る。
悪戯好きでも、根は素直。撫でた頭が小さく揺れた。
通りでは鎧兜の武士たちが見回りをし、私に一礼、立ち去る彼らに労いの言葉をかける。
社の前では仔牛ほどもある巨大なカワウソが縄を結び、飾り付けをしていた。
「邪魔するぜ、おや真面目にやってるじゃないか、客神(キャクシン)、いや暮時・神流(クレドキ・カンナ)」
頭をポンと叩かれて振り向く。
そこに立つのは――兄、客神(キャクシン)・輸貴(ユタカ)。
「馬子にも衣装ってやつか。見ない間に大きくなったな」
等とほざいてるのは客神・輸貴(キャクシン・ユタカ)、いつの間にかなれなれしくなっていた兄である。
「……」
「おっと睨むなよ、酒を引っ掻けたついでに顔を出しただけさ、ほら土産だ収穫祭にはカボチャやカブを飾るって言うのが流行りらしい」
「……、そうありがとう」
何処から取り出したのか、明らかに袖に入らないサイズの野菜を渡される。
「ははは、よく言えましたお兄ちゃんがなでてやろう、はは、照れ隠しか」
「また殴られるぞーー」
こちらの手が塞がってる事を良い事に、頭を撫でようと伸びる手を軽く躱す。
「サボりって良い身分ね」
少し腹が立って、一瞬荷物を放して拳を振るう。
兄も宿場町朧のまとめ役の一人としてそれなりに忙しいのは知ってたが、ウザいので軽くみぞおちを殴った。
「あちゃ~、ほら殴られた、あんたも仕事があるんだから次行きますよ」
「頑張れよボスの妹ちゃん」
取り巻きに抱えられる兄を見送り作業に戻る。
それらを見送った私はため息一つこぼした後に気合を入れなおす。
「この祭りは私が成功させる」
これは、私に課せられた最初の「試練」であるらしい、二年も前倒しの試練に首を傾げるもののそう言う事もあるかと納得する。
「食器はいったん全部洗うからいったん井戸の方に並べておいて、祭具はそこの風呂敷に、ついでに布でほこりをぬぐっておいて」
祭壇には米俵や酒樽が積み上げられ、祭壇には様々な酒器に注がれた酒や野菜、山の幸が並べられていた。
「あら、誰かイタズラしたの?」
巫女服の少女は小首をかしげて周囲をにらみつける。
「ん、どうしましたかカンナ様」
私は中身のくり抜かれた野菜を指さし疑問を問うた。
「ああそれですか寺子屋の子供たちが作ったんですよ、確か異国の収穫祭、サウィン祭やハロウィンとかの祭りの飾り物らしいですよ」
あらそうと神流は適当なカボチャを持ち上げ、興味深そうに眺める。
「確か商神様の所の若頭、カンナ様のお兄様が外の文化を今回の祭りに取り入れる事で、試練の成功した未来を確定させるまじないだと町中に広めてますよ」
黙っている私に何かを思ったのか、それとも単におしゃべりなだけか
「もちろん中身は無駄にしてません、カボチャのスープや株の味噌汁、今頃境内の屋台で売られてる頃でしょうそこでやってるんですよ、後で見に行きませんか?」
話し続ける彼女を仕事に戻して改めてそれを見る。
「そうあいつが」
巫女服の少女は自分の兄の事を思い出しながら持ち上げたカボチャを元に戻す。
「なんだ来るなよ神流……、俺にあまり近づかないでくれ」
その言葉が今も印象に残っている。避けられてる様な印象しかなかったから意外だったが、特に問題は無いだろうと準備を進める。
「任されたんだからしっかりしなきゃ」
そう言って作業に戻る神成の後ろで、カボチャの目が怪しく光った。
宿場町は飾り付けられ、誰もが祭りの時を今か今かと待ちわびていた。
提灯が並び、混じるようにカボチャや株のランタンが揺れている。
「お母さん、お母さん、今日のお祭りはお面をつけるんだって、見てみて狐のお面、寺子屋で作ったの、お兄ちゃんに教えてもらったんだ。」
飛び出そうとする子供に派手な上着を羽織らせる。
「あらあらまるでお盆みたいね、それならお面に似合うおべべを付けましょう。」
可愛く着飾った子供たちが町に飛び出し、大人たちは準備を進める。
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