チェキ残数。

只野ひこ

第1話 みえるアイドル

あの日、『ぱた』が天使になった。




〇〇さん、○○さん、大丈夫ですか?

意識あります?

呼び慣れない本名をききながら私の意識は途切れた。


私の名前は、『箱崎ワズカ』

地下アイドル歴5年。

ルックス、歌、ダンス、ファンサもそれなり。

どこにでも居る普通の売れない地下アイドル。

ただ、普通じゃないことが1つだけある。


私は、オタクの『寿命』がみえる。


某デ〇ノートの死神の目みたいに

オタクの頭上に〇〇年△△分05秒みたいに

あと何年いきられるかの寿命じゃない。

そんなの知りたくもないし。


私の眼の前にいるオタクが

あと何枚自分とチェキをとるのかが『みえる』のだ。


この眼の力を手に入れたきっかけは、

近所の病院で受けた3回目のワクチン接種。

ヤバメの副作用で意識を失い即入院。

激しい副作用(?)に耐えた3日目の朝

ウソみたいに体調が回復し目覚めると

医者や看護士、病院内にいた全ての人の頭上に

0 0 0 0 0 0 

白い輪が浮かんでいた。

私は、天使の輪がみえる様になったのかと思った。


『いやー、注射打った途端だったらあせったよ。

若いからすぐ回復したね。

お仕事?

明日から様子見ながら出勤してもいいよ。』

そういった医者の頭にも輪っかが浮かんでいた。

自分はもう死んでいる?

現実に近い天界にいるのかな。

翼はないし、天使じゃないのかな。


退院後の復帰ライブ1発目で、

人の頭上に浮かんでいたのが天使の輪じゃなく

これが数字の0なんだと気づいた。


私を推すオタクにだけ、別の数字が浮かんでいたからだ。


ライブ終了後、私の物販列にはいろんな数字が並んだ。

数字は何を表しているのだろうか。

『ワズカちゃん復帰おめでとうー。』

『急な話でビックリ、もう大丈夫なの?』

『いない間さびしかったよー。』

私はオタクの頭上に浮かぶ数を理解した。

長く推しているオタクは3桁、新規のオタクは1桁。

他のグループや自分推しじゃないオタクは0

比較対象に困ることはなかった。



ハイ、時間です~。

スタッフにうながされ、私がチェキを渡す。

頭上に4が浮かんだオタクの数字が3になった。

やっぱり。

この数字は私とあと何枚チェキをとるかだ。

数字の法則性に気付いた。

自分とのチェキ残数だ、これ。


チェキ残数0のオタクを私は心の中で天使と認識した。


この眼の力は、某ドラゴ〇ボールのスカウターに近いのかもしれない。


私の様な地下アイドルにとって何よりも重要なのは

オタクが自分にいくらお金を使ってくれるかだ。

チェキ残数は、オタクのパワーそのものだった。


ただ、売れてない地下アイドルの私にとっては

戦闘力5の村人でもありがたい存在だった。

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