ふたり同棲はしてるけど、所属のVtuber事務所に百合営業を命じられてるだけなんです!

甘夏

Chapter.1~2

◆Chapter.1


〇収録スタジオ・屋内(未明)

人物:藍里、菜々、結子、実花、他3名

   ネット配信番組の生放送中。

   モニター画面に映る7人の女性声優。そのなかに藍里は居る。


   アニメi-Stellaの主人公アカリ役を務めた声優、菜々が司会進行を進める。


菜々(アカリ役)「――というわけで、ソシャゲ版アイステ6週年を記念してお届けしてるわけなんですけど! アニメのほうは今年でなんと10周年!!」


結子(リオ役)「わーぱちぱちぱち! すごいよねっほんとなつかしー。すごく思い入れ強い私のデビュー作」


実花(セリナ役)「結子ちゃんも私もアイステからのデビュー組だったからねー、当時の収録では先にデビューしてた藍里ちゃんに助けてもらってばっかりだったんだよね」


藍里(シア役)「年齢的にはあのとき私、まだ中学生だったんですけどね。劇中のシアがお姉さんキャラだったからねー、なんかしっかりしなきゃっ! って気持ちでした!」


藍里(シア役)「(当時は……だけどね。主役の菜々は当然として、結子も実花も、今季のアニメで主役級はってるし……私だけ置いてけぼりだ)」


藍里(シア役)「(アイステのソシャゲはまだ続くと思うけど、もう世代交代で、三期ユニットメインだし、私の出番は無さそう……ほかの出演作品も軒並みサ終だし)」


菜々(アカリ役)「――藍里ちゃーん? あれー? シア姉ー!」


藍里(シア役)「え? あ。ごめん! ちょっと、物思いにふけっちゃってた」


菜々(アカリ役)「もぅ、シア姉ったら! ちょっと、涙出ちゃってるじゃないですかぁ? ほんと懐かしいメンバーで集まりましたからね~。私も泣いちゃいそぅ! ということで、なつかしの曲を聞いてもらいましょうか!」


菜々(アカリ役)「i-Stella 一期OPより私たちSiriusの7人が歌う『 asterisk code ~未来への道しるべ~』」


ALL「聴いてください!」


〇同・藍里の控室(未明)

人物:藍里、佐伯

   控室で藍里は項垂れている。


藍里「(本番中ってことが頭から抜けちゃうなんて。いよいよ潮時かな)」


藍里「(自信なんて、もうとっくにないし。でも……じゃあなんで私はまだここにいるんだろう)


藍里「(主役とか……1回くらいやってみたかったな)」


   藍里のスマホが鳴り出す。


藍里(通話)「はい、藍里です……あ、プロデューサーですか。お疲れ様です。どうしました? なんだか突然ですね」


佐伯(通話)「ひとつ声優としての仕事ではないんだけど、お仕事の話があってね」


藍里(通話)「(声優としての仕事じゃない、おしごと?)」


佐伯(通話)「そのまえに藍里ちゃん、直接は言ってこないけど。声優辞めようとか、思ってるよね?」


藍里(通話)「えっと……はい。お察しの通りですけど……」


佐伯(通話)「だよね。僕の力不足なんだけど、なかなかオーディションもふるわないでいたしね。だけど僕は藍里ちゃんにこれまで通り期待してるし。だからこそこの話は悪くない話だと思うんだよね」


藍里(通話)「どういうお仕事ですか?」


佐伯(通話)「Vtuberの中のひと、やってみない? もう一度リスタートを切るつもりで」


◆Chapter.2


〇藍里・絵梨の住むマンションが見渡せる道路・屋外(昼)

人物:絵梨

   大きなキャリーバックの上に座り、マンションを眺める絵梨。

絵梨「ここが新しい家ね。アタシと、あの人の……」


    ×    ×    ×

   (フラッシュ)

   Barの席

   腕を組んだ女性=重鎮が絵梨を睨みつける。

重鎮「あなたにこの業界は向いてないのかもしれないわね」

重鎮「役を降りなさい」

    ×    ×    ×


   澄ました顔立ちの絵梨。

   吸入器を取り出して、その先端を口に含む。


絵梨「(すーすー/吸入器を吸う音)」

絵梨「さてと、声優は声優らしく。一芝居打って勝ちにいきますか」


   絵梨はキャリーバックから飛び降りて背伸びをする。

   とびきりの笑顔を見せる。

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