3 二人の覚悟
「ふぅ……お、終わりました……。」
「おお、随分と綺麗になったじゃないか。大したものだ…。」
ホコリ一つない部屋をみて、驚く。さっきの様子とはまるで違う。これなら、俺が口を出してどうこうしても大丈夫だろう。
「さて、と。お前らの覚悟は伝わった。」
二人を、ホワイトボードの前に集める。
「じゃあ、さっそく冒険者ギルドとしての仕事を再開しようじゃないか。」
二人は、目を輝かせる。これまで、仕事という仕事をして来なかったらしく、二人ともやる気に満ちた顔をしている。
「まずは…これまでここで取り扱ってきた依頼を見せてくれ。」
「あ、はい。」
ミヨが走って取りに行く。スバルも、あとを追いかける。
数分して、肩で息をしながらもどってきた。相当色々な所を探し回ったのだろう。
「こ、これで全部です。」
「お疲れ様。少し休んでくれ。」
「あ、ありがとうございます。」
ソファに腰かけ、ふぅーと大きく息を吐く。スバルも、椅子に座って休んでいる。ちょっと無理をさせ過ぎてしまったかな。今のうちに、持って来てくれた資料に目を通そう。どれどれ…
「……“薬草採取”に“物品摂取”。依頼は、やはりFランクのものが中心のようだな。」
「はい。私たちの持つ予算だと、中ランク・高ランクの依頼ができません。それに、この辺りは非常に荒れた土地で、魔物もろくにうろつきませんし……。そういう理由が重なって、私たちにもどうしようもないのです。」
ミヨがすっと立ち、俺に言う。低予算の責任は俺にもあるから、彼女の顔をまっすぐ見ることができなかった。
「そうだよな。……………そういえば、まだ聞いていなかったが、この辺は何故こんなに荒れているんだ? かつては緑溢れるところだったと記憶しているのだが…。」
「それは………………ある時突然現れた、巨大な魔物のせいです。」
「魔物……。」
ユンクレアに限らず、人の住む地域から離れたところには、魔物が形成されやすい。特に、この辺りは滅多に人がうろつかないほどだ。都市の間にあり、いずれの地域からも離れているここは、魔物が形成されやすい絶好のスポットとも言えるだろう。
「そうか、そうだったのか……ちなみに、そいつは今?」
「まだこの辺りをうろついています。私たちにまだたくさんの仲間がいた頃には、討伐隊を組んだのですが、呆気なくやられて……そして、私たちだけが残ったのです。」
「僕たちも応援を要請しました。ですが、報酬が足りないと断られてしまって……。」
スバルがため息をつく。数十年前に現れたという巨大な魔物が、少しずつ西へと進んでいるらしいという噂は聞いたことがある。だが、まさかこの辺りにまで被害が及んでいるとは。……依頼を出すならば、Aランク冒険者を対象にした、高ランクの討伐依頼となる。だが、生憎この地域はもともと予算額が少なく、攻撃依頼を何回も出すうちに報酬が消えてしまう。しかも、それを回収する要素も、皆無と言える。だから、今のこの状況に陥ったのだろう。
「そうか……。まあ、仕方がないな。」
ちょっぴり落胆する。うーんと悩みながら、ふと柱の方へと目をやる。すると、そこには面白い張り紙があった。
「おい、あの張り紙は……。」
「ああ、あれは僕が以前本部に訪れた際に、依頼統括管理部長さんからいただいたものです。確か、『巨大魔物を倒す団体に、ギルドが補助金を出す』とかだったような…。」
「…もしかしたらこれは使えるかもしれないぞ?」
俺は、本部への連絡装置の方へと向かう。二人とも、それを怪訝な表情で見る。
「…………何をするんですか?」
「いやなに、その魔物を討伐できそうな奴に心当たりがあってね。頼んでみようと思うんだ。」
俺は、ある作戦を立てることにした。
◇
「というわけで、サクマ本部長を呼んでほしいんだ。頼めるか?」
「あのなぁ、いくら俺がサクマさんに近かかろうが、そんな無茶が通る訳がないだろう…。」
「頼むよコンキス。騎士学校時代のよしみで助けてくれよ……。」
電話相手は、本部で働く同級生のコンキスだ。奴は副本部長だから、本部長に最も近づくことができるのだ。
「…一応交渉はするが、成功率は一割未満だからな?」
「すまない、恩に着るよ。」
ガチャン
「よし。」
「支部長、一体何をお話しされていたのですか?」
「さっきの、ある作戦に関して大切なことさ。」
また二人を、ホワイトボードの前に集める。
「お前たちは、ギルドの予算システムを知っているか?」
「勿論です。研修したときにしっかりと学びましたよ。」
「ギルドの予算は、依頼数が最も多いところ、もしくは依頼レベルA以上を達成できたところを中心に配分されるんですよね?」
「そうだ。その他にも勲章や表彰などによっても特別ボーナスが出たりするがな。まあ、その辺は良いだろう。」
ホワイトボードに、箇条書きで条件を書く。
「ちなみに、今月この条件を片方でも満たしているところは、わずか三つの支部だけだ。つまり、今月俺らのところで一つでもAランク依頼達成報告ができれば、間違いなく予算分配額はアップするだろう。」
上向き矢印で、up!と書く。
「ですが支部長、僕たちの持つ資金だけでは、Aランクの依頼を出すことすら難しいかもしれません。」
「そこで、このシステムを使うんだよ。」
バンっとさっきの張り紙が張られている柱を叩く。そこには、『巨大魔物駆除協力団体への補助金のお知らせ』と書かれている。
「…なるほど。表向きは駆除をする団体に支払うという名目で補助金を支給してもらって、それをギルドの資金に充てるというわけですね。」
ミヨが、ぽんと納得したように手をたたく。
「そういうことだ。元々この仕組みはギルドの支部を対象にしたものではなく、あくまでも一般団体向けのものだからな。いくらか小さな問題は起きてしまうだろうが、巨大魔物を駆除できるんだ。願ってもないチャンスだろう? その心理を使って、本部長に吹っ掛けるんだ。」
それに、コンキスが揉み消してくれるだろう…。
「すごいですよ支部長、補助金のシステムを逆手にとるなんて!」
「で、でも、支部長にミヨさん。引き受け手はいるんですか?」
「そうね。確かに一番の問題はそれね。こんな辺鄙なところにわざわざ来てくれるような冒険者なんていないだろうし。」
また二人とも落ち込む。どれだけ辛気臭い奴らなんだ…。
「おいおい、お前らの目は節穴か? …ここにいるだろうが。」
「え? 一体誰が……………まさか支部長。」
「一応、俺はAランク冒険者だ。」
「そ、そうなんですか?」
「そうだよ。というか、お前らマニュアル読んでないな?」
「ま、マニュアルですか?」
「ああ。この、525ページのところだ。」
そこには、『支部長もしくは支部管理者は、必ずAランク冒険者証を取得する必要がある。』と書かれている。
「つまり、俺はこの依頼を受けられるってワケだ。まあ、俺だけじゃ力は足りないのは目に見えている。でも、そこは本部にうまく頼み込んで、補填はする。実際、その頼りになる人物が今この国に滞在しているらしくてな。一応、副本部長を通して、連絡を取りあってくれることになった。もしそれがダメでも、まだ何人か心当たりのあるヤツがいる。だから、その辺りは安心だ。」
「…す、すごい。すごすぎですよ、支部長!」
「僕、こんなに頭の回る人見たことがない気がする…!」
どれだけ人事運がなかったんだ。俺なんか、新人研修の時に叩き込まれたのだが(身体的に)。
「とにかく、これで要素は全部揃った。後は、お前たちがどうするかだ。初めにも言ったが、俺はお前らにやる気と根性がないならば、この支部を助けるつもりはない。巨大魔物討伐は、お前たちも巻き込まれる可能性が極めて高いからな。命が惜しけりゃ、そこでやめたって構いやしない。勿論、支部が助かることはないだろうがな。それらを踏まえた上でもう一度聞こう。」
二人を交互に見つめ、言う。
「お前たちに覚悟はあるか?」
二人の目は、炎が宿っていた。
「「はいっ!!」」
俺たち最弱ギルドの、無謀な挑戦はこうして始まった。
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