第1.5話

  勇輝が泉を去る姿を、息を潜め監視する者がいた。

 後ろ姿が見えなくなるの確認し、陰から姿を現す。


(あの方と気味が悪いほど似ているな)


 男は腰にある剣を引き抜き、死体の前方の地面に突き立てる。

 すると泉から石柱が音を立てながら出てくる。


「欲に溺れ、力を欲した結果がこれか…」


 死体に吐き捨てるようにつぶやき石柱を眺めた。

 その石柱には青い光を放つ石が埋め込まれており、不気味な光を放っている。

 男は慎重にその石を取り出し、取り出した箱にしまう。


「こいつを鍛冶神かじがみに渡せば依頼達成か。それにしても何故、人里が近いここにこんなものが―――。こんなものを人の手に届く場所に封印するとは、正気の沙汰じゃないな」


 そう言って男は暗い森に消えていった。


 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 アルフィシアの首都”センタリスト”の王城にて―――

 一人の少女が憂鬱な表情を浮かべながら目を覚ました。


「ディア王女、お召し物をお持ちしました」

「えぇ……ありがとう」


 ディアにとって朝の訪れは、憂鬱の始まりでしか無かった。


(私って何で生きてるんだろう)


 考えている間にも、城の使用人は手早くの身支度を整えていく。

 身支度が終わらないで欲しい。

 そんな思いも空しく身支度は終わり、食事のために城内の食堂へと向かう。

 出来れば食堂に行きたくはないが、今日は国王からそこで大切な話があるという。

 それ故に必ず行かなければならなかった。


(どうせならあの時、私も一緒に………)


 食堂に着くとそこには第二王女を除く全ての王族が集まっており、ディアも第三王女として、用意されている自分の席に着く。

 すると、国王は全員の顔を見た後、話し出す。


「今日は皆に話すべきことがある。それは近いうち、招く客人のことについてだ」

「そのような予定は無かったはず―――」

「あら、国王のお言葉を遮るとは、第三王女も随分と偉くなったものねぇ」


 第一王女の棘のある言葉に背筋が凍る。


「―――すみません」

「構わん。何せ内密にことを進めるべきだと考えていたため、ここにいる関係者のみにこのことを話している。故に予定には記載しなかった」

「その客人はどのような方ですの?」

「当日までは口外はできない。だがその客人が来た際はお前たちにも手を貸してもらいたいと考えている」

「もちろんですわ」

「はい…」


 一応その話を聞いていたが、実感は湧かない。


(たぶん私には関係のない話なのでしょう。孤児みなしご私には……)


 味の感じられない食事をしながら、ディアの憂鬱な一日は始まるのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る