混界の探求者《こんかいのプロフェット》
アダスター
序章:The beginning of chaos
プロローグ:おかえりなさい
―――あぁ…体が熱いなぁ
その日、一人の青年の人生は呆気なくも終わりを迎えようとしていた。
体は鈍く、酷く重たい。
冷たいアスファルトに張り付けられたかよう動かせない。
―――体が動かない…一体何が起きているんだ?
完璧に状況を理解出来ているわけではないが、四肢を動かすことができない致命的な損傷をしたということだけはわかる。
アスファルトには血の池が広がり、視界は深紅に染まりつつある。
―――トラックに撥ね飛ばされただけでも、こんなに血が出るもんなんだな
身体の感覚は消え去り、かわりに身体は燃えるような『熱』に支配されていく。
『熱』の出所に何とか視線を向け、自分の置かれている状況を何となくだが理解した。
―――あぁ…何て運が悪いんだ……
自分はただ轢かれたのではなく、跳ね飛ばされた先に鉄骨が落ちてきたらしい。
青年の腹は鉄骨に潰され、上半身と下半身の境目は無くなっていた。
30%の血を失うと生命が危険な状態になると聞いたことがあったが、すでにその量を超えているのではないだろうか。
血反吐を吐くが、その量も尋常じゃない量だ。
―――これが、俺の終わりなのか?
家族から見放されただけでなく、運にすら見放された現状に虚しさを感じる。
―――終われない…終わりたくない……死にたくない!!
どうしようもなく怒りを感じる。
無力な自分に―――無意味だったこれまでの人生の一部に―――
そんなことを考えているうちにも、血は体から流れ出る。
―――この状態ではもう助からない
わかっていても理解を拒んでしまう。
これからも何気ない日常を送るはずだった。
学校に行き、友人たちと他愛もない会話をし、家に帰って寝る。
そんな風な時を過ごせると思っていた。
しかし現実は無情にも、人生の束の間の幸せすらも奪う。
そんな現状を腹立たしく思うが、今の自分は何者にも成れない無力な人間だと纏わりつく『熱』が囁いてくる気がした。
「まだ何も出来ていないのに…ふざけんなよ」
最後の力で発した言葉はそれだけだった。
瞼が次第に落ちていく。
人生の終わりが近づく刹那、その声は聞こえた。
「ありがとう――グ―――ス、いえ―――キ、―――てごめんなさい」
少女の鈴のような優しい声が聞こえる。
―――誰?
混乱する中、轢かれる直前のことを思い出す。
―――そうか俺はこの子を助けようとして…
意識が遠退いていく中、助けようとした少女が無事だとわかると何故か救われた気がする。
―――ずっと待っていた
何故だかわからないがそんな気さえする。
「――――おかえりなさい」
その少女の言葉を聞き終わると同時に、なんとか保っていた意識は途切れ、
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