第25話

僕たちがこれから暮らしていくにあたって、根本的な問題点があった。


それはつまり、稼ぎがないということ。

このままだと、あと2カ月はもたないだろう。


ひうち姉さんと僕の貯金だけでは、到底生活はたちゆかない。

もう二度とみやま姉さんに養ってもらうことはできないのだ。


「やっぱりアルバイトしないとダメだよな……」


「そうね。まずは節約するところからはじめなきゃね」


貧乏人が節約する。そうするとお店の儲けはそれだけ減る。

そしてお店の従業員の給料は下がり、彼ら彼女らが節約に走る。

だからまたお店の儲けは減る。

そして国民同士が足をひっ張りあう社会。


「負のスパイラルに加担するんだな……」


――これがデフレ国家の行く末だ。


みやま姉さんがよくそう言ってた。


この国の消費者は厳しいんじゃない。

ただただ傲慢なのだ。


安い値段で高品質サービスを求める傲慢さ。

みやま姉さんはショッピングモールを誘致してから、こういった客の傲慢さを排除しようとした。


供給者と需要者はあくまで対等。

むしろ冷静に考えれば本来、供給者がいなければ需要者はたちまちどうしようもなくなるのだ。


――従業員に対して傲慢な態度をとる客は、容赦なく追い返してよい。

こうすることで、明るい職場づくりに成功した。


「……野宿でもしてみるか」


ひうち姉さんの横顔をうかがう。


「いいんじゃない?」


案外すんなりと話が決まった。


「丹波、好きだよ?」


姉さんが僕へたしかめるようにそう言う。


僕は車窓に流れる景色をみた。


赤い夕陽に照らされはじめた街。

静かな走行音に、ゆらゆらと眠気をあずける。


「——僕もそう思う」


富士山って間近でみたら、こんなになだらかな横幅をしているんだ。

こうしてみると、まるでスイスイーっと表面をなでるかのように登っていけそうだ。


僕は姉さんの肩に頭を傾ける。

姉さんは僕の手に5本の指を絡めてきた。


少しずつひうち姉さんに対して、恋愛感情的な心を開きはじめている感覚があった。

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