83日目 短足おじさん
競馬で万馬券が当たり、ふわふわした頭でオレはいつも通うチェーンの居酒屋に向かった。いつも通り、ビールとたこわさを頼むとようやくだんだんと落ち着いてきた。
三連単で、当った金額は三百二十万。大学の頃から初めて、二十年ほど続けてきたが、今まで当った最高額が三万二千円だったわけだから、ちょうど百倍になる。
落ち着き始めると、だんだんと腹の底から喜びが溢れてきた。だんだんとお酒もうまくなり始める。何をするかはともかく、とにかく今日は好きに飲もうとオレは思った。
随分と酔いが回った頃、後ろの席の会話が聞こえてきた。
「だから、もう学校やめるしかないかなって」
「休学にしておきなよ」
「再来年には弟が進学だから、その分も稼ごうと思ってたんだよね。けど、休学にしたら間に合わないじゃん」
「ばか! 自分の事をまず考えなよ」
勝手に聞こえてきた会話を聞いた限りでは、どうやら大学の学費が払えないという話らしい。向こうの席で、女性二人で話しているようだが、二人とも相当に酔っ払って、親への愚痴を吐いていた。
オレも完全に酔っ払っていた。お金を持っているという余裕が変なテンションに繋がっていたようだ。
なぜかオレは相手の席に行って、三百万を渡してから家に帰ったのだった。
翌日、オレはなんて馬鹿なことをしたんだと悔やんだが、全ては後の祭りだった。
十年ほど経った後、テレビ番組を眺めていたら、新進気鋭の小説家だという女性が出ていて、過去のエピソードを語っていた。
「本当は、大学を辞めようと思ってたんですよ」
そう言って話し始めたエピソードを、最初は特に気にせず聞いていたのだが、だんだんと知っている話だと思い始めた。
どうやら、あのとき話していた女性の一人だったようで、あのお金で無事に進学ができたらしい。オレはその話まで聞いたところで、周囲に自慢を始めたので、その後の会話を聞き逃してしまった。
「じゃあ、“あしながおじさん”だったわけですね」
「えぇ、そのおじさんは、短足だったんで、私はずっと短足おじさんって呼んでるんですけど」
翌日から、オレのあだ名は短足おじさんとなった。
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