40日目 合理的な生殖
お見合いで出会った蟻藤さんは、複数の会社の社長をしていて、いわゆる億万長者だった。
私は物心ついた時から社会人になるに至るまでまともな恋愛経験がなかったが、結婚だけはしなければと思いこんでいて、当時まだ二十代前半だというのに妙な焦りをもっていた。だから私にとって、お金を持っていて見た目も悪くない蟻藤さんは優良物件だと判断して、結婚に至るまで早かった。
蟻藤さんが徹底的な合理主義だと理解したのは、結婚した後だった。仕事人間の彼は朝早くに出かけて夜遅くに帰ってくる。ご飯は外で食べるから、と私はいつも家でひとりぼっちだった。部屋が少し散らかっていると、蟻藤さんの秘書の方から清掃を頼んだという連絡が来て、専門の人がやってくれる。
蟻藤さんにとって私は、結婚というステータスの為の存在ということと、子供を産むために必要な存在ということでしかなかったようだった。
結婚してから子供を作ろうということになったが、その時も私が基礎体温を測って、出来やすい日だけ仕事を早めに切り上げて帰ってくる。そして、愛情もなく、淡々とした行為が行われるのだ。
そんな彼に私はすっかり冷めてしまった。そして、時間とお金を持て余した私が不倫に至るのは自然な流れだったように思う。
まだ私は世間から見れば若い方であったので、相手を探すことにさほど苦労はしなかった。
何人かの男との不倫を経験した後に、私は鎌野さんと出会った。鎌野さんは私より十歳ほど年上の男性でバツイチだった。最初は身体の関係を楽しむだけだったのだが、長期間そんな付き合いを続けるうちに、私は次第に彼に惹かれてきた。
仲を深めた後、鎌野さんの家に行って、掃除をしたり、料理をしたりすることも増えた。どちらが本当の家か分からない状態だった。一度、鎌野さんの家で寝てしまい、家に帰らなかった事があったが、なにも問題はおきなかった。
鎌野さんはもともと精子の機能に障害があって、離婚したのだ、と語っていた。そのため、私と鎌野さんは子供がつくれない。私は最初それを良いと思ったが、だんだんと残念に思うようになっていった。
そんなある日、寝物語で鎌野さんは最近新しい不妊治療の方法が生まれたのだと語った。それは、男性側の不妊対策として、他の男性の精子を使うらしい。
「君の旦那さんの遺伝子情報があれば、僕の方の不妊治療でそれを使うよ。そうすれば、子供が作れるよ」
実際、蟻村さんは子供ができたら親子鑑定くらいはしそうだ。しかし、それで子供が出来たとして、それはやはり蟻村さんとの子供だろう。愚かな選択だな、と思いつつ、私はその誘いに乗ることにした。
私が子供を出産すると、常時契約のベビーシッターが雇われて、私は快適な育児生活を送ることが出来た。
しかし、そんな生活野中で珍しく蟻村さんが早く帰ってきたかと思ったら、私の不倫の証拠を机の上に出された。
「不倫している証拠は揃っている。けど、子供はちゃんと僕の子供だったのが不思議だったんだ」
蟻村さんは、私の不倫に対して憤るでも悲しむでもなく、むしろ嬉しそうな様子だった。
「子供を作るのも、育てるのも負担が多いと思っていたんだ。僕の遺伝子で生殖をしてくれるなら、それで結構」
蟻村さんとは離婚することになり、慰謝料は私の不貞が原因ではあったが、家庭生活にも問題がある状況と言うこともあり、少額をもらうこととなり、それとは別に養育費は支払ってくれることになった。
「これからも子供を産んでくれれば、少しは補助しようじゃないか」
蟻村さんは大真面目にそんな風に言った。
今、私は鎌田さんと結婚し、さらにもう一人子供を産んだ。蟻村さんからは本当に二人目の養育費が支払われた。
蟻村さんは最近、不妊男性が自分の遺伝子で生殖するならば、不妊治療の代金や養育費を補助することを表明した。
生殖のアウトソース、と世間では言われている。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます