24日目 withゾンビ

 ゾンビ映画では、未知のウイルスがゾンビの原因になることが多いが、実際に現われたゾンビは菌で出来ていた。某国で開発された軍事兵器に使われたもので、弱った生物や死んだ生物にとりついて、太陽光の力で動く。

 ゾンビが発生して、軍事兵器が使われた戦場から急速に広まっていき、人類の存続も危ういものになるかと思われた。日本では、二年間で人口の十分の一にあたる人数が亡くなった。

 しかし、人間社会というのはゾンビよりもしぶとかったようだ。未だに人間は社会を維持している。


 ゾンビウイルス(本当はゾンビ菌だが)の流行り始めの頃は、人々はそれぞれの家にこもり感染拡大に努めた。ゾンビは近づいた時の攻撃性は脅威だったが、今回のゾンビは走ることもしないし、人間を見つけ出す能力も低い。バリケードをつかっていれば、ゾンビ自体は防ぐことは出来た。

 しかし、それも長期化してくると、各自の家で暮らすのは難しくなってくる。避難所に集まることが多かったのだが、それだけでは収容が難しいケースも多かった。そこで政府は企業に対して、職場を開放する事を推奨する指示を出した。

 その頃、僕は社会人二年目だった。僕が会社に泊まり込むようになったのは、その指示の前からだった。ゾンビが街を闊歩していても、会社は休みにならず、仕事量が減ることはなかったからだ。ゾンビウイルスを怖がって職場に現われなくなる人、家族の関係で職場に出られない人もいて、その人達の分の仕事が私にのしかかってきていた。

 僕は一人暮らしで家に帰る必要がないので、朝から晩まで仕事をすることになった。その辺りからだろうか、私に違和感が芽生えたのは。


 時が経つと、先輩が家族も連れて職場にやって来たり、近くの職場の人がゾンビになったりということも起こり始めた。

 一方で、私は土日もなく一日中働いていた。海外では、ゾンビが流行っている国もあれば、そうでない国もある。社会機能を維持できないと思われれば、その国は株価が下がったり、通貨価値が下がったりする。ただでさえ大変な状況でそうなれば、ゾンビではなく経済的に国家存亡の危機となってしまう。そのために、働ける人が最大限働かないと行けない状況になってきたのだ。

 職場の生活環境は良くなっては来ていた。もともとシャワーや仮眠室はあったが、洗濯するための設備などはなかったので、会社で一台しかない洗濯機を順番に使う形になっていった。


 社会機能が維持されていると言うことは、ゾンビが流行る前からのお金持ちはお金持ちのままということだ。

 ゾンビはバリケードを立てれば入ってくることは出来ないが、バリケードを建てるにも限界がある。そういうこともあって、人々は駅の近くに固まって暮らすようになっていった。

 お金がある人は、駅前の高級マンションに引越しを始めた。悲惨なのは、駅前ではない箇所にマイホームを買った人で、住めない家のローンを払い続けることになったのだ。

 今では、自分の家どころか、個室ですら高級品だ。

 僕は最近になって、職場の女子と仲良くなった。しかし、二人きりの時間を過ごしたいときには、駅の反対側にあるラブホに行く必要があった。だが、ラブホで休憩して過ごすだけでも、以前ならばぼったくりと言われる値段を支払うことになるのだ。


 職場の窓の外を見ると、ゾンビが道ばたに立っているときがある。ゾンビは太陽光をエネルギー源としているので、のんびりひなたぼっこをしているようにも見える。

 そういう時に、自分の状況を考えてしまう。働き詰めで、二日もお風呂に入っていない臭い身体。夜に寝る時くらいしか休憩がない仕事。それでいて、会社を辞めたら外に追い出されてしまう為に、逃げられないこの状況。

 こうなるとゾンビになってしまった方が気楽なんじゃないか、とそんなことを思ってしまうのだった。

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