第49話

 私がそう言うと、片づけをしていたナザリーさんが席に着き、立ち上がろうとしていたゲイルさんも、座りなおして、耳を傾けてくれた。


「私、みんなに隠していたことがあります。それは私が異世界の人間である事です」

 

 皆がどんな表情で聞いてくれているか、見てみたい。

 だけど、やっぱり臆病ね……視線を合わせられない。

 

「いままで隠していて、ごめんなさい。どうなるか不安で話せなかったんです」


「それでも打ち明けようと思ったのは、話さないまま、元の世界に戻ることをしたくなかったからです。だって……」


 元の世界に戻るという言葉でスイッチが入り、皆との思い出が走馬灯のように、よみがえってくる。


 楽しかった思い出しか浮かんで来なかった。


「ごめんなさい」


 胸がキューっと締め付けられ、言葉を詰まらせる。

 両手で顔を覆い、涙を堪えた。


 泣くな私、ちゃんと伝えるのよ。


「ミントさん、ガンバです」

 

 アカネちゃんの励ましの言葉が聞こえてくる。

 優しい一言が、緊張の糸を解いてくれた。


 でも抑えきれない感情までもが、解き放たれてしまい、

 私はその場で泣き崩れてしまった。


「無理して堪えなくてもいいの。泣きなさい。みんな待っているから」

 と、カトレアさんは言って、肩にソッと手を置いてくれた。


「うん……」

 

 私は泣く。

 泣いて……泣いて……泣き続け。

 落ち着いた所で、スーッと鼻で息をして、ハァーと吐き出した。


 ナザリーさんがスッとハンカチを差し出し「落ち着いた?」


「うん」


 私は立ち上がると、一人一人の顔を見回した。


「だって話さないまま、戻るって事は、皆が私といつか会えると心の何処かで、期待して待っているかもしれないって事でしょ? そんな悲しいこと、私には耐えられない」


「私、皆のことが大切なんです。遠く離れていても、笑顔でいてほしいんです。だから、打ち明ける事を決めたんです」


「何でいきなり、そんな事を言い出したかと言うと、もうすぐアラン君が戻る手段を見つけて、戻って来るからです。別れる寸前で、こんな話をしたくなかったから、いま話しました。ごめんなさい」


 パチパチパチパチ……

 ゲイルさんが黙って拍手をしてくれる。

 みんなも、拍手をしてくれた。

 


 ナザリーさんが私の肩にソッと手を置き、「謝る必要なんて、どこにもないわ」

「そうよ。大丈夫……大丈夫よ。良く話してくれたね」


 今度はカトレアさんが、私の背中を優しくポンポン叩きながら、そう言ってくれた。


「二人とも、ありがとう」


「ミントさん」

  

 アカネちゃんが涙を浮かべながら、私を呼んだ。


「なに?」


「お手紙を書いても届かないのは残念だけど、私、ミントさんのことを忘れずに、頑張りますから、心配しないでくださいね」


「アカネちゃん……ありがとう」


「なんだか一言言わなきゃいけない雰囲気だから、俺からも一言。よく逃げずに打ち明けた。お前の勇気は称賛に値する。お前の判断は間違っていない。自信をもて」


「はい! ありがとうございます」


 ゲイルさんはニッコリ笑って「良い返事だ」

 

 皆の温かい笑顔を見ていると、変わらない所か、更に絆が深まった気がする。


 こんな温かい誕生日になるなんて思いもしなかった。

 本当、最高の一日だ。

 これで元の世界に戻って、心配はなさそうだ。


 誕生日パーティが終わり、片付けが終わると、アカネちゃんとゲイルさんは帰って行った。


 カトレアさんは、ナザリーさんからパンを受け取ると、「それじゃ、私も帰るわね」


「あ、私も行くよ」

「大丈夫よ。一人で帰れるわ」

「いいの。私が行きたいだけだから」

「そう? じゃあお願いね」

「うん」


「ナザリーさん。また来るわね」

 と、カトレアさんは言うと、玄関を出た。

 私も続いて玄関を出る。


「あら、雪……」

 

 外はちらほらと雪が降っていた。


「積もる前に早く行きましょうかね」

「そうだね」


 カトレアさんの家へと向かう。

 家に着くことには、雪は3cmほど積もっていた。


 カトレアさん一人で雪かきをするのは大変よね?


「カトレアさん、雪かきの道具ある?」

「あるわよ。もしかして、ミントちゃん、雪かきするつもり?」


「うん。いまのうちにやっておけば楽でしょ?」

「大丈夫よ。すぐに溶けるわ」


「大丈夫、体力作りにやりたいの」

「――そう? じゃあ、お願いできる? 玄関の周りだけでいいから」

「分かった」


 カトレアさんからスコップを受け取ると、雪かきを始める。

 

 玄関の周りだけって言っていたけど、収納箱の中身を出したりもするかな?

 裏もやっておくか。


 しばらくして、カトレアさんが顔を出す。


「ミントちゃん、そろそろ入ったら?」

「うん、あと少し」


 区切りの良い所までやり、スコップを片づける。


「中に入って、少し休んでいって」

「はーい」


 玄関に入ると、カトレアさんがタオルを持って、「使って」

 と、渡してきた。


「ありがとう」

 

 髪の毛や体を拭くと、居間に行く。


「いま温かい紅茶を持ってくるわ。椅子に座って待っていて」


「はーい」


 椅子に座ると胸当てを外し、床に置いた。

 剣のホルダーも外すと、少し待つ。


 暖かいわね。カトレアさん、暖炉でも買ったのかしら?

 なんだが少し眠たくなってきた。


 そういえば、昨日はなかなか寝付けなかったもんね。

 少し休ませてもらおう。


 テーブルの上にうつ伏せになり、目を閉じた――。

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