第40話
これじゃ、長期戦は無理ね。
クラークさんなら、サンダーレインで、一気に仕留めたいと考えるはず。
でもあれは、詠唱時間が掛かる。
だったら……。
バックから回復薬改とマジックウォーターを取り出し、その場に置く。
バックも近くに置くと、クラークさんの所へ駆け寄った。
「クラークさん!」
クラークさんが目を見開き、驚いた表情で「おまえ、なぜ来た」
「ここは私に任せて、サンダーレインの準備を」
「だが……」
「体力と魔力を回復する薬を私が居た場所に置いて来ました。大丈夫、やれます!」
「――分かった」
と、クラークさんは返事をすると、私が居た場所へと駆けていく。
私はクラークさんと反対に走り、簡単に届かない距離に来ると、
「ゴーレム! あなたの相手は私よ!」
と、大きな声でゴーレムに向かって叫んだ。
おちょくるように、両手で大きく手を振って、おびき寄せるように仕向けてみる。
乗ってくるかしら?
大丈夫と言ったけど、心臓がバクバクする。
足のガクガクが止まらない。
大丈夫、大丈夫。やれる、やれる。
来た!
ゴーレムが私の方へと歩いてくる。
ゴーレムの攻撃力は確かに凄い。
だけど動きは鈍く、単調だ。
良く見るのよ私。
ゴーレムは私を攻撃できる範囲に到着すると、大きく右手を振り上げる。
まだ、まだよ……焦って避けたら、軌道を変えられる。
ゴーレムが手を振り下ろした瞬間を見計らい、全力でゴーレムの股へと駆けていく。
無事にゴーレムの股を潜り抜けと、ゴーレムの攻撃が地面へと当たった。
衝撃でよろけるが、何とか堪えた。
「はぁ……はぁ……」
やつが振り返る間、少し休めるが、これじゃ埒が明かない。
ゴーレムが振り返り私の方へ向く。
今度は右足を振り上げている。
だったら、ゴーレムの左足の真横に付いてやれ!
読みが正解し、ゴーレムの蹴りが空振りに終わる。
細かい動きは奴には出来ない。それさえ分かれば、何とかなる!
今度はどんな攻撃?
今の私なら避けてみせるわ!
さっきとは違う胸の高鳴りが、私を興奮させる。
自然と自信に充ち溢れていた。
ゴーレムが左足を上げ、私を踏みつぶそうとしている。
そう来たか!
でもやることは同じ!
私は左足のカカトの方を通り、右足の真横に移動する。
ゴーレムは慌てて私を攻撃しようとしたせいか、バランスを崩す。
これはヤバい!
全力で遠く離れる。
凄まじい地響きと、衝撃でバランスを崩し、転んでしまう。
「痛ッ」
砂ぼこりが舞い、視界を奪われる。
急いで起きなきゃ
痛みを堪えて、ゆっくりと立ち上がる。
後ろを振り返り、様子を見ていると、徐々に視界が開けていった。
ゴーレムが横たわっている。
まだ起きあがる様子はない。
やった。
思わずガッツポーズをしてしまう。
「よくやった」
クラークさんの声が聞こえてくる。
「準備は出来た。離れていろ」
「はい!」
さらにゴーレムから離れる。
「これで最後にしたいものだ。いくぞ」
「サンダー」
バリバリと雷が掌の上に集まり、
「レイン!」
と、腕を振り下ろすと、同時に放出される。
相変わらず、眩いばかりの光に眼がチカチカし、爆発音が耳を刺激する。
そんな中、微かだが岩が剥がれて飛んでいるような音が聞こえてくる。
効いている……。
サンダーレインが消え、ゴーレムの姿が見える。
岩が砕け、胸の部分にある魔力の結晶が露出している。
「まだ近寄るなよ」
「はい」
よくみると、ゴーレムの腕がピクピク動いている。
確かに近寄るのは危険だ。
クラークさんはマジックウォーターを手に取ると、グイッと飲み干した。
トドメを刺すのね。
「うむ、これは良い」
と、クラークさんは言うと、詠唱しながら、ゆっくりとゴーレムに向かって歩き出す。
クラークさんの右の掌にピンポン玉程度の小さな玉が出来ていく。
キュイーーン
少し耳鳴りがするような高音が響きわたり、雷の球が大きくなっていった。
高音が鳴りやみ、野球のボールぐらいの球が出来上がる。
クラークさんは壊れた岩を踏み台にして、ゴーレムの胸のあたりに飛び乗った。
「これで最後だ。取って置きをくれてやる」
クラークさんは右腕を振り上げ――。
「サンダー・フィンガーッ!」
魔力の結晶めがけて、思いっきり掌底打ちを繰り出した。
押しあてられた魔力の結晶は、バリバリとドリルのように削られ、ヒビ割れていく。
削られ穴のあいた部分から光が無くなると、クラークさんは腕を引き抜いた。
「少々、勿体無かったが、致し方ない」
クラークさんはそう言うと、こちらを振り向き、トントンと軽やかに降りていく。
私の前に来ると、肩に手を置いた。
え?
笑顔にも見える穏やかな表情をしている。
「良くやったな、ミント」
ヤバい、嬉しくて泣きそう。
両手で口を覆うと「ありがとうございます」
「グっ」
突然、クラークさんが苦しそうな表情で膝をつく。
「クラークさん!?」
「さっきのダメージが、まだ残っていたようだ。すまないが、回復薬改をくれないか」
「はい!」
私は置いてきた場所へと走った。
薬とバックを手に取ると、急いで戻る。
「どうぞ」
「すまない」
と、クラークさんは、受け取ると、蓋を開けた。
瓶に口をつけ、少し含んだその時――。
突然、クラークさんの体から鮮血が飛び出す。
え?
クラークさんはその場に倒れこんだ。
「クラークさんッ」
腹部から、大量の血が流れ出ている。
何で?
このままじゃ、死んじゃう!
涙が頬を伝って零れおちる。
どうしよう……どうしよう……。
頭がパニックになり、次の行動が思い浮かばない。
「どうすれば良いのよッ!」
私は泣き叫ぶことしか出来ないの?
『ボーッと見ているんじゃない。いまの自分に何が出来るか考えろ』
クラークさんの言葉を思い出す。
『危機的状況の時こそ、冷静になれ』
冷静に……流れ出てくる涙を腕で拭う。
いや、出来ることならまだある!
まずは、クラークさんの口元に手をあて、息をしているか確認する。
――うん、大丈夫。
急いで薬草をバックから取り出し、「クラークさん、食べて」
と、口に入れる。
少しだが口を動かしてくれている。
でも多分、これだけじゃ足りない。
周りを見渡す。
あった! さっきの回復薬改。
倒れた拍子に少し零れてしまっているが、まだ半分ぐらいは残っている。
これが全部あれば、きっと大丈夫。
両手で握りしめ、ありったけの思いで欲しいと願う。
キュイン──。
お願い……お願い……出来て!
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