第28話

 その日の夜。

 布団の中で昨日の続きを考えてみる。

 冒険者が欲しいものは何かしら?


 装備に食べ物、お金……。

 冒険に必要な道具。

 冒険に必要な道具?


 そうだ! 回復する道具!

 明日、サイトスさんの所に行って、薬を売ってくれないか確認してみよう。


 次の日の朝。

 朝食を食べ終えると「ナザリーさん。今日、出掛けてくるね」


「はい。出掛ける前にまた、食パンを一斤 30個、複製お願いできる? 明日の分を作っておきたいの」


「はーい」


 手を洗い、食パン一斤を手に取り、

 キュイン──ポポポンッ!

 30個を、トレーの上に複製する。


「ナザリーさん、やっておきました」

「ありがとう」

 

 調理場を出て、二階へと向かう。

 部屋に入ると、出掛ける準備をした。

 まずはサイトスさんの所へ行こう。


 研究所のインターホンを押すと、同じぐらいの歳の男の人が出てくる。

 白衣を着ているってことは、研究所の人?


「すみません。サイトスさんはいらっしゃいますか?」

「居ますよ。少々お待ちください」


 しばらくしてサイトスさんが顔を出す。


「ミントさん。どうなされましたか?」

「さっきの助手さんですか?」


「えぇ。回復薬の量産化まで目処が立ったので、雇いました」

「あの、もし薬を売ってほしいとお願いしたら、貰えますか?」


「数量にもよりますが、大丈夫ですよ」

「いまある薬は回復薬と毒消し薬ですよね?」


「はい」

「いくつなら、大丈夫ですか?」

「そうですね……回復薬5個、毒消し3個ぐらいですね」


「値段はいくらです?」

「ちょっと待ってください。計算してきます。物を持ってきますか?」


「いえ、今日はまだ考え中なので」

「そうですか。お待ちください」


 数分して戻ってくる。


「回復薬が単価で30P、毒消し薬が45Pで、全部で285Pになります」


「そうですか。取り置きしてもらっていいですか? 今週中には答えます」

「えぇ、分かりました」

 

 次は雑貨屋へと向かう。

 中に入るとグルッと店内を回ってみる。

 何がいいかしら?


 ふと、エプロンが目に留まる。

 何あれ、可愛い!

 赤いチェックのエプロンで、ポケットから白ネコが顔を覗かしている。


 ナザリーさんのエプロン、汚れてきていたし、丁度いいわね!

 エプロンをレジに持って行き、購入する。

 さて、帰るか。


 店に帰ると一旦、カウンター下に、エプロンを隠す。


 調理場に行き、「ただいま」

 と、声をかける。


「お帰りなさい、早かったわね」

「買い物だけだから」

「そう」


「部屋にいるね」

「分かった」


 調理場を出て、カウンターに隠したエプロンを回収し、二階へと向かう。

 部屋に入ると、急いで自分のベッドの下に隠した。

 これでよし!

 

 また調理場へと向かう。


「ナザリーさん」

「なに?」


「お願いがあるんだけど、もしお店に置いてもらいたい物があるって言ったら、置いてもらえる?」


「物によるわね」

「そうだね。えっと、棚と薬を置きたい」

「薬?」


「うん、新作のサンドイッチを冒険者に食べてもらいたいの。そうすれば、口コミで広がるかもしれないでしょ?」 


「でも、まずは冒険者に来てもらわなければいけない。だから、冒険者が必要とする薬を置いて、来てもらおうと思って」


「なるほど! それは良い。ミントちゃん雇って正解だったわ~」


「えへへ」


「棚は私が用意しておくわ。店の右側に置くわね」

「ありがとうございます」


「お礼を言いたいのは、こっちよ。でもそんなに真剣に考えてくれるなんて、彼氏のためかしら?」


「か、彼氏ではありません!」


 アラン君のためであることは、確かだけど……。


「ふふ。いつまでに用意しておけばいい?」

「いつでも良いです」


「じゃあ今度の休みの日に買いに行って、届けてもらうようにしておくわね」

「ありがとうございます」


 布団に入り今日の整理をする。

 手持ちのお金【2060P】


 薬が量産化して買えるようになったのは、大収穫ね。

 もしアラン君に仕送りできる機会があれば送れるし、送れなくても広まれば、アラン君が買える機会が増える。


 ナザリーさんの誕生日になる。


「ナザリーさん。お昼休憩の時間だよ」

 と、カウンターに居るナザリーさんに言った。


「ありがとう」

「その前に、渡したい物があるの」

 と、私は言って、エプロンの入った袋を差し出す。


「何かしら?」

 ナザリーさんは受け取ると、袋を開け出した。


「あら、可愛いエプロン!」

「お誕生日おめでとうございます」

「ありがとう」


「早速、着てみて」

「これ、私には可愛すぎじゃないかしら?」


「大丈夫、大丈夫」

「そう?」


 ナザリーさんは、着ていたエプロンを脱ぐと、綺麗に畳んで、カウンターに置いた。


 新しいエプロンを着けると「どう?」

 と、恥ずかしそうに、うつむきながら言った。


「可愛いです!」


 ちょうど、常連さんが来店される。


「いらっしゃいませ~」

「おっ、今日は二人、揃っているのか」


「みてみて、ナザリーさんのエプロン、似合っていますよね?」

「へぇー、新しいのにしたのか。そういうのも良いじゃないか」

「でしょ?」


「じゃあ、今度からはこれにしようかしら?」

「うんうん」


 ナザリーさんは、カウンターに置いた古いエプロンを手に取ると、ニコニコしながら、調理場へと歩いて行った。


 喜んでくれたみたいね。

 私は常連さんに向かって、親指を立てた。

 グッジョブ!

 常連さんも返してくれた。


「ありがとうございます」

「どう致しまして」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る