第24話

 二人で厨房に向かう。

 ナザリーさんは、食器棚から二人分の陶器の皿と、カップを取り出し「並べて」


「はーい」


 私は手前の調理台に皿とカップを並べた。

 ナザリーさんは奥の調理台に歩いていき、トレーを手に取り「好きなの選んで」と、言って、私に差し出した。


 トレーには、お店に並べたパンと同じ種類のパンが置いてある。


「失敗作なの。ごめんなさいね、三食付とは言ったけど、そんなのしか提供できないわ。飽きたら自分で調達してね」


「いえ、とんでもないです。頂きます」


 えっと……メロンパンは確実で、あとはどうしようかな?

 とりあえず、ホットドックにしよう。

 パンをお皿に置いて、トレーを調理台に置く。


「それだけでいいの?」

「はい、とりあえず」


「遠慮しなくていいからね」

「ありがとうございます」

 

 ナザリーさんは立ち上がり、冷蔵庫の方へと歩いていく。

 冷蔵庫の横で、しゃがみこみ、何やらやっている。


 立ち上がると、ワインボトルを持っていた。

 あそこにワインラックでもあるのかしら?


「ミントちゃんはお酒飲める?」

「いえ、ちょっと苦手です」


「だと思った。牛乳で良い?」

「あ、はい。ありがとうございます」

「いま出すから、取りに来て」


 私は立ち上がると冷蔵庫の方へと行った。

 やっぱり、冷蔵庫の横に小さなワインラックがある。


「お酒、好きなんですか?」

「たしなむ程度にね」


「ありがとうございます」

 と、お礼を言って、牛乳パックを受け取る。

 

 元の場所に戻り、カップに牛乳を注ぐ。

 ナザリーさんは、私の向かいで、赤ワインをカップに注いでいる。


「ナザリーさんは赤ワインが好きなんですか?」

「えぇ」


「私が戻してきます」

「ありがとう」


 ナザリーさんからワインボトルを受け取ると、冷蔵庫へ向う。

 まずは牛乳を冷蔵庫に入れ、閉じてから、ワインボトルをラックに戻す。


 元に戻ると、椅子に座り「お店でもお酒、出すんですか?」


「そのつもりはないわ。グラスだって、買ってないもの。使うとしても、料理に使うぐらいかしら。ところでミントちゃんの声って、可愛い声をしてるわね」


「そうですか?」

「ちょっと、いらっしゃいませ~って言ってみて」


「いらっしゃいませ」

「そんな棒読みじゃなくて、本当にお客さんが来た時みたいに言ってみて」


 え、なかなか恥ずかしいぞ


「い、いらっしゃいませ~」

「うんうん、良い良い。緊張してるのが、初々しくて可愛いわね」


「もう一度」

「いらっしゃいませ~」

「うんうん、良い良い。抱きしめたくなるわね」


 え?


「もう一度」

「いらっしゃいませ~」

「く~、良い良い」


 もはやナザリーさんの趣味が入っているのでは?


「あの……もういいですか?」

「うん。明日から、いくらでも聞けるもんね」


 ホッ


「就業時間だけど、休み時間込みで、基本8時間。朝の8時から9時55分まで、仕込みと開店の準備」


「10時からオープンね。その後は私が状況見ながら指示するわ。休みだけど、火曜日と木曜日を定休日にするわ」


「分かりました」

 

 食事に集中する。

 最後の一口を食べると、ナザリーさんが「まだいる?」

 と、聞いてきた。


「いえ、お腹いっぱいになりました」

「じゃあ、片付けをして、寝る準備をしましょうか」


「はい」

「そうそう言い忘れたけど、洗面所はお風呂の手前にあるわ」

「分かりました」


「あ、お給料は月末に、まとめて払うわ」

「分かりました」


 私とナザリーさんは片付けをして、寝る準備をすると、布団に入った。

 一時はどうなるかと思ったけど、ナザリーさんが優しそうな人で良かった。

 アラン君のサポートとは離れてしまったけど、暮らしについては、どうにかなりそうね。

 これからどうするか、落ち着いたところで考えていかなきゃね。

 

 次の日の朝。

 6時30分に起き、階段を降りる。

 調理場の方から音が聞こえる。


 ナザリーさん、もう準備しているのかしら?

 調理場に行って、覗いてみる。

 ナザリーさんが、チョココロネを作っていた。


「おはようございます」

「あら、ミントちゃん、おはよう。早いわね」


「ナザリーさんも」

「私はいつもこれぐらい。顔洗っていらっしゃい、朝ご飯にしましょ」

「はい」

 

 私は洗面所に行き、顔を洗って、口をゆすぐと、また調理場に戻った。


 ナザリーさんがパンの乗ったトレーを持って「また好きなの選んで」 と、言って調理台に置いた。


「ありがとうございます」


 私は食器棚を方へと向かい、お皿とカップの準備をした。


「コーヒー飲む?」

「はい、頂きます。わたし、牛乳を出しますね」


「お願い。ついでにバターも出して」

「はーい」

 

 私は冷蔵庫へと向かい、牛乳パックと、バターを出すと、調理台に置いた。


 美味しそうなコーヒーの匂いが漂ってくる。


「さて、食べましょ」


「はい、頂きます」

 コーヒーに、スプーンで砂糖を入れ、かき混ぜる。

 牛乳を入れると、スプーンを置いた。


 トレーからチョココロネと、食パンを取り、皿に置く。

 バターが入った容器を手に取り、バターナイフでバターを取ると、食パンに塗った。


「あとで私が言ったパンを複製してもらいたいんだけど、いいかな?」

「はい、分かりました」


 朝食を食べ終え、歯を磨くと、また調理場へと向かう。


「来たわね。早速だけど、この食パン一斤を10個、増やしてみてくれない?」


「分かりました」


 キュイン──ポポポンッ!

 食パンが10個出来上がる。


「まだ出来そう?」

「いけると思います」

「じゃあ、このフランスパンを10個できる?」


「10個以上をやったことないので、怖いから1個ずつ試してみます」


 キュイン──ポンッ!

 一個目完成、まだまだいける。


 二個……三個……と試し、5個まで試してみる。

 まだまだいける。


「どう?」

「一気に五個、試してみます」


「大丈夫?」

「おそらく」


 キュイン──ポポポンッ!

 フランスパンが10個出来上がる。


 まだいけそうね。

 薬草と何が違うのかしら?


「ありがとう。今日はこのぐらいにしておきましょ」

「はい」

「次は出来上がったパンを袋に入れていってくれる」

 

 ナザリーさんに教わりながら、パンを袋に入れていく。


「よし、全部できたわね。次はカウンターの拭き掃除と、床のモップがけお願い。清掃道具入れは、階段に向かう廊下にあるから」

「分かりました」

 

 清掃道具入れからバケツや雑巾、モップを出して、

 洗面所で、バケツに水を入れる。


 販売コーナーに持って行くと、カウンターから拭き掃除を始めた。

 大変だけど、ピカピカになると嬉しくなる。

 

 カウンターの拭き掃除が終わる。

 次はモップを手に取り、モップがけを始めた。


「調子はどう?」


 白い三角巾を巻きつけながら、ナザリーさんが言った。

 服の上から白い無地のエプロンをしている。

 本当にあのフリルのエプロンじゃないのね。


「これで終わります」

「そう。あとは私がやるわ。今日は早く手伝ってもらったら開店まで休んでていいわよ」

「ありがとうございます」


 私はナザリーさんに近づき、モップを渡す。


「お願いします」

「はい。着替える時間も頭に入れてね。あと、あなたの分の三角巾も用意してあるから着けてね」

「はーい」

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