第15話

 クレマチスの町に着くと、アラン君は約束通り、 家に帰った。

 私は公園に行き、長いベンチに座る。

 

 アラン君が冒険者として旅立ったら、私は何をしよう?

 晴れ渡る綺麗な青い空を見上げ、考える。


 雲がゆっくりと流れていく。

 

 アラン君について行くのも、ありなのかな?

 その方が、元の世界に帰る方法を探せるし、サポートだってしやすい。


 でも……気がかりなのは、足手まといにならないか。


 私のせいで、有名になれなかったら、それはそれで悲しい……。

 うむ、困ったぞ。


 自分の欲望と、願望が交差する。

 

 まぁ、それはおいおい、考えるとして、今日はデートを楽しむか!

 さて、アラン君が来たら、まずどうするか?


 公園の時計を見る。

 十一時十分。


 アラン君があと、二十分ぐらい掛るとして、さきに昼食って感じかな?

 何を食べようか?


 あれこれ、想像しながらアラン君が来るのを待っていると、

 本人の姿が見える。

 

 ネイビーのニットにインナーは白。

 スキニ―パンツに、黒と白のスニーカーを履いている。


 普段と違ったその姿に、不覚にもキュンとしてしまった。


「悪い、待たせた」


「そんなに待っていないから、大丈夫よ。それに私がお願いしたんだもん。待つわよ」


「そうか」

「普段着、似合ってるね」


「そうか? 俺、こういうの分からなくて」

 と、アラン君は恥ずかしそうに、髪の毛を触った。


「さて、まず最初は、ご飯にするのか?」


「そうだね。近くにあったっけ?」


 アラン君は、十字の曲がり角を指をさし、

「あそこに飲食店がある」


「じゃあ、そこにしましょ」


 アラン君と私は肩を並べて歩き出す。

 

 飲食店が見えてくる。

 大きさは一階建ての一軒家と差ほど変わらない。


 屋根は黒色で、壁はレンガでできている。

 木造のドアをあけ、中に入った。


 木の丸いテーブルと椅子がいくつか、並んでいる。

 奥にはカウンターがあり、酒樽も置かれている。


 私達は、とりあえず手前の席に座った。


 女性の店員が近づいてきて「いらっしゃいませ」

 と、言って、水を置く。


 続いてメニューを置き、「お決まりでしたら、お呼び下さい」

 

 メニューを開き「何にする?」

「俺はもう決まっている。ワイルドボアの骨つき肉にする」


「お肉好きなの?」


「あぁ、魚は苦手だ」

「そうなんだ。私は何にしようかな……」


 メニューをパラパラとめくって、考える。


「決めた。グラタンにする」

 と言って、メニューを閉じた。


「すみませーん」

 と、店員を呼ぶ。

 

 店員が来て「お決まりですか?」


「はい。グラタンと、バケット。あとサラダ。アラン君もバケットいる?」


「あぁ、欲しい」

「じゃあ、バケット二つ」


「俺は、ワイルドボアの骨つき肉」


「かしこまりました」

 店員は返事をすると、調理場へと行った。


 アラン君は水を一口飲み、

「旅に出たら、こうやって食べたい物を食べたい時に食べるのは、難しくなるんだろうな」


「お店なんて無い所もあるだろうしね」

「あぁ」

「ねぇ、もうすぐ魔物の巣窟は片付きそうなの?」


「あぁ」

「そう……」


 水を一口飲む。


「どうかしたのか?」

「うぅん、何でもないよ」

「それなら良いけど」


 アラン君は水を一口飲み、「なぁ一つ頼むがあるんだけど」

「なに?」


「魔物の巣窟には、おそらくボスがいる。そいつを倒すとき、見届けてほしいんだ」


「え……いいの?」

「あぁ」

「んー……分かった」


 店員が料理を運んでくるのが見える。

 

「お待たせしました」


 まずアラン君の所に、湯気のたったワイルドボアのお肉が、ドンッと置かれる。

 美味しそうなお肉の匂いが、食欲をそそる。


 続いて、私とアラン君の所に、バケットが置かれる。

 更にサラダが置かれ、グラタンが置かれる。


 最後にバターが置かれ、伝票が置かれた。


「ごゆっくりどうぞ」

 

 お互い手を合わせ「頂きます」

 アラン君は、ナイフとフォークを上手に使い、ワイルドボアの肉を切り、口に頬張る。


 私はグラタンの中にスプーンをサクサクと突き刺しながら、熱を逃がした。


 一口分、すくいあげると、チーズが伸び、良い香りがしてくる。


「ふーふー」


 パクッ! 美味しい!。

 

 食べている間は二人に会話は無く、もくもくと食事を楽しんだ。

 各々、会計を済ませて外に出る。


「美味しかったねー」

「あぁ。次はどうする?」


「次は服屋さんに行きましょ。案内してくれる?」

「あぁ、分かった」


 アラン君と肩を並べて歩き出す。

 少し歩くと、いろいろな店が立ち並ぶ通りに差し掛かる。


「そこだよ」


 アラン君が指差した先にある露店は、人一人が通れるような通路だけ残し、色とりどりの洋服が、壁やら店内にギッシリ並んでおり、探すのに苦労しそうな、お店だった。


「何を探す?」

「カトレアさんの誕生日に、カーディガンをあげたいの」

「サイズは分かっていのか?」


「うん、調べてきた」

「じゃあ、見て回るか」

 

 横に歩きながら、ゆっくり探す。


「この色はどうだ?」

 と、アラン君は赤のカーディガンを指差す。


「赤も良いけど、好みがあるから、黒か紺にしようかと思ってる」

「分かった」


「――あった、これにする」

 と、私は紺のカーディガンを手にする。


「あぁ、良いんじゃないか?」

「うん。アラン君、ちょっと持ってて」


「あぁ、いいけど。まだ何かあるのか?」

 と、アラン君は私が選んだカーディガンを受け取る。


「うん、私も洋服見ておきたいの。この服もいつボロボロになるか分からないし」


「あぁ、そういうことか。分かった」


 しばし服を退かしては戻しを繰り返す。


「ミントって何色が好きなんだ?」

「んー、青」


「青か、見ていて落ち着くもんな」


「うん」

「なぁ、どんなの探しているんだ」


「ほら、私って小柄でしょ? 少し大人っぽいのがいいの」

「ふーん……」


「ふーんって、可愛いのが好み?」

 少し手を止め、からかってみる。


「あ? いや、どっちでもねぇし」

「クスッ どっちでもないって何よ」


 また服選びを再開する。

 よし、決めた!

 

 私は白の薄手のカーディガンに、インナーは黒のブラウスにし、スカートはロングスカートの青にした。


「まとめて払ってくるから、さっきのカーディガンも頂戴」

「はいよ」


 アラン君からカーディガンを受け取ると、レジに行く。


「いらっしゃいませ」


 レジにすべて置くと、女性の店員は、タグを確認し始めた。


「このカーディガンは別の袋でお願いします。こっちは着ていきたいんですが、更衣室あります?」


「ありますよ。そちらになります」

 と、店員は言うと、鏡の後ろを指差した。


「分かりました」

「全部で、130P」


 私がバックからお財布を取り出している間、店員は着ていく洋服のタグを取ってくれた。


 130Pをカウンターに置く。


「ちょうど頂きます」

 と、店員は言ってお金をレジに入れ、カーディガンを袋に入れてくれた。


 新しい服用の袋も付けてくれ、「ありがとうございました」


 袋と服を回収し、

 後ろにいたアラン君に、カーディガンの入った袋を渡し、

「わたし、着替えてくるから、少し待っててくれる?」


「あぁ、分かった。ここだと邪魔になるか、店の外で待ってるよ」

「分かった。すぐ行くから」

 

 急いで服を着替えて、古い洋服を袋に入れて、外に出る。

 アラン君が振り向く。


「ジャジャーン」

 と言って、近づく。


「言ってて、恥ずかしくないのか?」


「恥ずかしいと思って、ポーズだけは、やめておいたわ。どう?」


 アラン君はチラッと全体を見たが、目を逸らすと

「似合ってるんじゃないのか?」


 はっきり言って欲しかったけど、照れているようだから、良しとするか!


「今日はこれでお終いか?」

「うん。付き合ってくれて、ありがとう」


「いいよ。楽しかったし」


「本当? 良かった! じゃあ、また明日ね」

「あぁ。帰り道は分かるよな?」

「うん、大丈夫」


 私はアラン君に手を振ると、町の入口へと向かった。


 家に帰ると「ただいまー」

 と、言って中に入る。


「おかえりなさい」

 と、今からカトレアさんの返事が聞こえる。


 居間に着くと、カトレアさんが「デート、楽しめた?」

「うん」


「それは良かった」

 と、カトレアさんは言って、ニコッと笑う。


「あら、素敵な服ね」

「えへへ、買っちゃった」


「今日は疲れたでしょ? 畑仕事は休んで良いわよ」

「ありがとう」

 

 その日の夜。

 今日の整理をする。

 手持ちの薬草【41個】

 手持ちのお金【365P】

 依頼の期限【5日】


 今日は楽しかったな!

 本当のデートみたいだったし。

 明日、カトレアさん喜んでくれるかな?

 楽しみ!

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