主人公の平尾沙貴恵が、長年の妻と母の役割から抜け出し、若い同僚との関係を通じて「女」としての自分を再発見していくロマンス。人間性や欲望の描写に焦点を当て、社会規範から逸脱した行動や関係性が描かれ、人間の本質的な欲望や葛藤への洞察となっています。
決して道徳的ではない関係の中で、沙貴恵は幸せとは言い難い家庭生活で失われていたものを取り戻していきます。若く純粋な畑中葉治の、沙貴恵に向ける真っ直ぐな好意が彼女の心に大きな変化をもたらします。
沙貴恵の繊細な心理描写。家庭内での疎外感や孤独、若い男性との交流を通じて「妻でも母でもない自分」を再発見していく過程は、人間が持つ欲望や葛藤を赤裸々に表現しています。
また季節感を巧みに活用した表現が印象的です。秋の深まりと主人公の心情の変化を重ね合わせた描写が物語に深みを与え、官能的でありながら洗練された表現には耽美な雰囲気さえも感じられます。主人公の内面の変化や感情の高まりを巧みに表現し、外界の描写を織り交ぜる文章は、主人公の心理状態を効果的に表現しています。
結末へと進むにつれ、この物語が問いかける人間の普遍的なテーマ――自己再発見、欲望と倫理の対立――はより鮮明になります。読者は主人公の揺れ動く心情を追いかけながら、その意義について深く考えさせられるでしょう。そういった意味で、文学的意義のある作品だと思います。