第17話 自分 1
私はある事を前から言われる。一人や二人では無く、複数の人たちから。
それは私とよく話した相手であり、
自分も相手もお互いに理解している人たちからだ。
そして近年、私自身も思い始めた。
私が生まれ落ちたこの時代、
そして小川のように静かにゆっくり流れる人生に対して。
使命というものだ。
私の一族は皆、それぞれがそれぞれの場所では名家で通っている。
しかし、それは勘違いでしかない。
私は身を以て体験してきた。
私の脳は幼い頃からすりこみのように、多くの規制を入れられてきた。
しかし、教授の叔父は私が本家の長男であった為かは分からないが、
必ず不幸になると思ってくれたのだろうと思う。
そして何故かは分からないが、私を愛してくれた。
母は権力者に弱い、そして弱い者には強い、最低の人間だ。
たまに本の著者と会って喜んでいたが、愚かな母は何も理解していない。
私は死を並みの人よりは多く見て来た。
見たいものは見れなかったが、見たく無いものは多く見て来た。
それに気づいているのは私一人だけだった。
人が死ぬ度に、資産に群がるのを見て来た。
浅ましい姿を。
それが日本で1,2を争う医者だというのだから、笑わせてくれる。
私は正直に生きると決めた。
これ以上嘘をつき続ける必要が無くなったからだ。
私は警戒されていた。母にも父にも。
真実を言うから、私を大切に想ってくれていた祖母との面会も禁止された。
父は以前言った。私と母が不仲で、父とも不仲ではあったが、双方どちらもが
利用し合っていた。そこに愛や優しさは無い。利害の一致からしか動かない。
「お母さんが居なくなったら、どうする来な? 困るだろ?」と私に言った。
私はため息交じりに言った。
「困るのはお前だけだろ?」そう言うと何も言えず離れて行った。
そして祖母がもうあと数日で死ぬ時が来た。
最初は相変わらず、母が父に頼み、父が私の部屋に来て言った。
「もう数日で死ぬから、私に会いたいと言ってるから会ってくれ」と。
私は殺意さえ覚えるほど怒りが一気に沸いた。そして怒鳴りつけた。
「お前たちが会わせないようにしたのに、お前らの都合だけで会えだと?」
何も言い返さず「会ってくれ」と言った。
「お前たちはそればかりだ。うんざりだ!! どこまで腐ってるんだ?
他の奴らは従うだろうが俺を舐めるな。俺はお前たちみたいになりたく無い。
お前、自分が何歳か分かってるのか? お前たちは悪党より始末が悪い。
父は黙ったまま弟の元へ行った。廊下の角にある部屋の外から父は弟に
話しかけた。名前を何度か呼んでも無言でテレビを見ていた。
何を話しても振り返る事さえもせず、テレビだけを見ていた。
父はそのまま階段を降りて行った。
私は階段を途中まで下りて、二人の話を聞いた。
「どうするの?! 他の人は皆行ってるのよ!」
「どうしろと言うんだ? 行かないと言ってるのに、
無理やり連れて行く事も出来ないし……まあいいだろ?」
「そんな訳にいくわけないでしょ?!
せめて長男だけでも何とかならないの?」
「8年前にあの子だけを、面会謝絶にした事を根に持ってる……」
「どうしよう……どうにかしないと! 何か方法はないの?」
弟の話は一切出さなかった。行かないと決まっているからだ。
二人ともが諦めたように、静かになっていった。
そして、私は自分の部屋に戻った。
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