少年少女入院中
目が覚めたら、病院だった。
あの後どうなった、そーちゃんは無事なのか、お兄ちゃんの彼女さんは?
そう思って飛び起きようとしたら、「まだ動かない方がいい」という声が聞こえてきた。
「お、にいちゃ……」
「目を覚ましてくれて良かった」
「そーちゃんは……?」
「隣でまだ寝てる。けど無事だよ。二人とも多少リハビリは必要だけど、障害は残らないだろうってさ、よかったよ、本当に」
お兄ちゃんは静かな声でそう言った。
そーちゃんは無事、わたしも無事、リハビリがいるけど障害は残らない。
多分あちこちの骨が折れていたと思う、実際今もあちこち包帯だらけであるみたいだし、身体を動かす気力も実は、あんまりない。
頭もあんまりちゃんと動いていない、それでも聞かなければいけないことがあることは、理解できていた。
「彼女さんは……?」
「そっちも無事、絡まれてはいたけど、それ以外は何もされてなかった」
「そっか……」
なら良かった、とは言えなかった。
こんなふうになったのは、自分のせいだったから。
汐ちゃんに聞いた話を、そーちゃんに話したのだ。
そーちゃんの部屋で、それでお兄ちゃんあの人のこと大好きみたいだし、お父さん達は絶対に邪魔するだろうから絶対にバレないようにしようねって。
聞き耳を立てられていたことに、一切気付かずベラベラと。
「ごめんなさい……ごめんなさいお兄ちゃん……」
「謝らないで。どうせいずれバレてたし、こうなっていただろうから……むしろ、謝るのはこっちの方、僕の事情に巻き込んだのも、それでそんな大怪我させたのも、僕のせいだ」
「違う、それはぜったい、ちがう……!!」
そう言ったけど、お兄ちゃんは何も言わずに首を横に振った。
「ちがうの、ほんとうにちがうの、わたしのせいなの……わたしがあんなことをおとうさんにいったから、こうなって……そーちゃんまでおおけがして……それで、それで」
聞き耳を立てていたお父さんに自分はこう言ったのだ「お父さんがそんなだから、お兄ちゃんは自分に大事な人ができても話してくれないんだ」って。
一度不満をぶつけてしまったら面白いほどそれ以外の今までたくさんあった嫌なことが蘇ってきて、それで勢いに任せてそれらを一気にぶちまけた。
気がついたらわたしをかばったそーちゃんが血まみれで倒れていて、わたしも気がついたらボロボロで。
それでお父さんがどこかに行ったから、お兄ちゃんか彼女さんが危ないと思って、なんとか居間の電話が置いてあるところまで足を引き摺って、お兄ちゃんに電話して。
そこから先の記憶が、一つもない。
「やっぱりわたしがぜんぶ」
「悪くない。きっかけは僕だし、それをやったのは父さんだ。自分のせいだと思ってはいけないよ。お前は一つも悪くない。それで納得して」
「けど……」
「けど、じゃない。とにかくお前は悪くないから……今は自分を追い詰めずに、ゆっくり休んで怪我を治してほしい」
「…………わかった」
それから少しの間、何も言わなかったし、何も言ってこなかった。
そーちゃんはまだ目を覚まさない、無事だと言うっていたけど、本当だろうか。
そういえば。
「おとうさんって、いま……」
「……逮捕されたよ、殺人未遂で。余罪もあるからしばらくは刑務所から出てこないだろうね」
「たい、ほ……? さつじんみすい?」
殺人ってそんな、だってあれはいつもと……いつもよりは度が過ぎていたけど、ただのしつけだったのに。
「お前ら、あと少し遅かったら手遅れだったってお医者様に言われたよ」
「え……?」
「だから殺人未遂。刑務所から出たとしても僕らには絶対に接触しないって言う誓願書も書かせるつもりでいる」
「そうなの……?」
「うん。……父さんに会えなくなるのは、いや?」
聞かれて、今までの記憶を思い出す。
思い返すと、厳しくされたばかりで、優しくしてもらった記憶はなかった。
ああ、そっか……そっか。
「ううん。……それでいい……それが、いい……」
あんなひどい人には、もう二度と会いたくない。
心の底からそう思って、わたしは大声で泣いてしまった。
お兄ちゃんは何も言わずに、ただ黙ってそばにいてくれた。
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