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俺は階段を駆け上がり、ヒトミの部屋に飛び込んだ。ヒトミはベッドの上にうつ伏せになったまま、アイポッドもどきを弄ってた。何でもない風を装ってたけど、すごく緊張してるのは伝わってきたし、俺が来るんだって意識してただろうことも分かった。俺はヒトミのそういうの、全部分かるんだ。
俺がベッドの上に腰を下ろすと、ヒトミはイヤフォンの片方を差し出してきた。俺は落ち着かない手付きでそれを左耳に差し込む。予想してた通り、GLAYだった。GLAYのベストアルバム「REVIEW」の九曲目。俺たちが一番好きな曲。
イヤフォンは、右と左では違う音が出るもんらしい。でも俺には、ヒトミと同じ音を聴いてるように思えたし、ヒトミもきっとそう思ってるんだってことも分かった。俺たちはこれまでずっと、同じ音を聴いてきたんだ。
「明日受験だろ。学校まで車で送ってやるよ」
九曲目を聴き終えた後、俺は「Freeze My Love」が始まるより先にそう言った。ヒトミはふっと笑って、
「いいの? JASRAC来るよ」
と言った。ヒトミらしい、生意気な言い方だった。
「まだそんなしょうもないこと気にしてたのかよ」
笑ったけど、俺もきっとそうなんだろう。俺たちは、しょうもないことばかり気にしてきたし、これからも気にしていくんだろう。血が繋がってないこととか、実の父娘じゃないこととか、ちゃんと二人で暮らしていくやり方とか、幸せになる方法とか、それとか、絶え間なく注ぐ愛の名を永遠と呼べるのか、とか。
「気にするよ。そう歌うとJASRACが来るんだったら、わたしはそれ以上に気にすることなんて無いよ」
ヒトミは言った。もう笑わなかった。アイポッドもどきを停止したのか、音楽はいつまでも聴こえてこなかった。まるで永遠みたいに。
やっぱり俺たちはどうあるべきなのか、俺には分かってねえし、ヒトミにも分かってねえんだと思う。でも今は、少なくとも黙るのが正しいんだって気がした。だって黙ってても気持ちは伝わる。俺たちの在り方は分かんなくても、それだけは確かなんだ。
もう何も言わなかったし、言わなくてよかった。俺たちは身体を寄せ合ったまま眠った。今までの疲れを全部癒すかのように、深く、ふかく眠った。
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