血起! 凡人の英雄たち〜打倒!チート転生者!!〜

クマ田クマ尾

第1話 青年騎士……憂鬱の日々

 ────エルミア国

「997……998……999……1000……ハァ〜」


 レオニス・ガフはエルミア騎士団騎士団長アギム・ガフの息子である。

 そして、自分も騎士団に入団する為に幼い頃から父に教わっていた剣術修行が日課であった。


「……あと5セット」


「兄ちゃ〜ん」


 街の方から妹のルチルが上がって来た。


「なにかあったの? ルチルがここに来るなんて珍しいじゃないか?」


「朗報だよ兄ちゃん!」


「朗報?」


「さっきうちに騎士団テストの通達が来たんだよ! エルミア騎士団の入団テストに合格だって! 良かったね兄ちゃん!」


「……ふ〜ん、そうか」


「あれ? 兄ちゃん嬉しくないの?」


「う〜ん……どうかなハハ……」


「もう、せっかく兄ちゃんが喜ぶと思ったのに! なんでもっと嬉しそうにしないの?」


「いや〜それは……あっ! そろそろ朝ご飯の時間だほら家に帰ろう」


「あ〜んもう! 誤魔化してる〜!」


 ────


「ただいま〜」


「あぁ〜レオニスおかえり」


「母さん、朝ご飯もうできてる?」


「えぇ……じゃあ食べましょうか」


 父は騎士団長という役職柄、家には殆どいない、母と妹と食卓を囲むのがレオニスの日常なのである。

 騎士団長の家だからといって決して大きな屋敷に住んでいるという事ではなく中流家庭並みで、それは父、アギム・ガフによる質実剛健的な思想からであった。


「レオニス……騎士団への入団おめでとう」


「え!? あっ! あ……ありがとう母さん」


「……なんだか嬉しくないみたいだけど」


「そうなんだよ! せっかくルチルが報告してあげたのに!」


「い……いや……も、もちろん嬉しいよ」


「……レオニス、本当は嫌なら無理して入ることはないんだからね」


「えっ? い、いやだからそんな事は……第一父さんが……」


「いいのよ、母さんは元々反対してたんだから……自分が騎士団長だからって勝手にあの人が言ってるだけだったんだから、自分の息子を騎士団なんて危険な仕事に就かせたい親なんて」


「……ま、まぁでも本当に嬉しいよ、ほら俺が子供の時からの夢だったし、それに危険な仕事って言ったって今は……」


 ────ガチャ……


「お〜い! レオニスいるか?」


 レオニスの幼馴染であるミロ・フィレンチが訪ねてきた。


「あっ! ミロ兄ちゃんだ!」


「よっ! ルチル、兄ちゃんいるか?」


「今、朝ご飯食べてたの上がってよミロ兄ちゃん!」


「ヘヘッ分かった分かった、そんな引っ張んなって」


「あらミロくん、おはよう」


「おはようございます、おばさん」


「ミロ、こんな早くに珍しいじゃないか?」


「ヘヘッお前は当然騎士団の入団テスト合格したんだろ?」


「ま、まぁ一応な」


「ヘッ何が一応だよ、お前の実力なら当然じゃねぇか、それで実はよ……俺も合格したんだよ!」


「えぇ! ミロ兄ちゃんも!?」


「ミロくん、おめでとう」


「ミロ、良かったな」


「ヘヘッけど俺なんざお前とは違ってきっとギリギリだとは思うがな……」


「ミロ、そんな事は……」


「でも、本当に良かったよな!」


「う、うん……そうだな」


「ん?」


「もう! 兄ちゃんったら! どうしたの!」


「レオニス、久しぶりに釣りに行かないか?」


「釣り? 急になんだよ」


「いや、俺もお前も騎士団に入ったら、もうそんな暇なくなっちまうだろ?」


「ま、まぁ……そうだけど」


「そうだろ? なっ! そうと決まれば早く準備して行こうぜ」


 ミロは半ば強引にレオニスを釣りに連れ出した。


 ────


「よっと……」


 ────ポチャン


「レオニスよ……どうしたんだよ」


「何が?」


 二人が幼い頃から釣りに来ている池のほとりで、レオニスは釣りをしているミロの隣で物思わしげな表情で釣りをせず、横たわりながら返答する。


「何がじゃねぇよ……騎士団に入団できるって言うのに嬉しくなさそうじゃねぇか」


「……う、うん」


「言ってみろよ、家族の前じゃ言いにくいんだろ?」


「……やっぱりな」


「まぁ釣りをしたかったって言うのも本当だけどな」


「……騎士団に入団できる事は嬉しんだけどさ」


「嬉しんだけど何だよ?」


「……俺は騎士団長の息子だぜ? そんなのが入ってきたら先輩はどう思う?」


「ハーハッハハお前そんな事心配してるんかよ? お前入団テストで部隊長クラスに勝っちまったじゃねぇか? お前の実力は皆んな納得してるよ」


「そうか?」


「それになお前が入ってきた所で、あの親父さんがお前に贔屓する訳ねぇだろ」


「そ、それはそうだな……」


(確かに父さんが俺に甘くするなんて想像がつかない)


「むしろ、他の連中より厳しくされて皆んなから同情されるんじゃねぇか?」


「それはそれで怖いよ……」


「ヘッこれで気が晴れたんかよ」


「う、うん……」


「何だよ? まだなんかあるんかい?」


「……まぁね」


「……そっちの方が深刻そうだな? もうこの際全部さらけ出しちまえよ」


「……実はカセマ様の事なんだ」


「カセマ様? カセマ様がどうしたって言うんだよ」


「ミロ……お前カセマ様が来る前と来た後で騎士団に対して何も思わないのか?」


「来る前と来た後で? さぁ俺は何とも思わないけどな」


「目が違うんだよ……」


「目?」


「うん……何か無気力というか、俺達が子供の頃に憧れた、ギラギラして燃えたぎるようなあの目は……」


「……まぁ分からんでは無いがな、そりゃカセマ様が来る前は魔族や賊が来たら、国を命懸けで守ってたのに、カセマ様が来たら一瞬でそんな奴らを倒しちまう……今までの自分達は何だったんだって思っちまうのもな……」


「俺はふと思っちゃうんだ……カセマ様が来る前の方が良かったなって……騎士団なんてあっても意味あるのかなって」


「馬鹿な事言うんじゃねぇ!」


「……ミロ?」


「じゃあ何か? お前は騎士団なら死んでもいいって言うのかよ!? カセマ様に任せておけば無駄な犠牲を出さなくていいんだ! それの何が悪いってんだよ!」


「……ご、ごめん」


 ミロの父は、幼い頃に魔族からレオニスの父を守る為に盾となり戦死していた。


「それによ……カセマ様だって不死身って訳じゃないんだ……寿命で死ぬんか病気で死ぬんか分かんねぇけどよ、そうなった時の為に騎士団は存続させなきゃいけねんだよ、バトンを引き継ぐ為には俺達が騎士団に入る意味だってあるんじゃねぇか?」


「……そうだな、お前の言う通りだ」


「……ったくお前は昔っからいちいち感傷的になる奴だな……」


「あと……カセマ様の事なんだけど」


「まだあるんかよ?」


「カセマ様のは凄いよ、俺達とは次元がちがうくらいに……」


「それが、どうしたんだよ」


「能力は凄くてもあの人は聖人って訳じゃない……人間性は普通の人さ、そんな人間がチート? とか言う力で努力もしないでそんなものを身につけたんだ」


「お前……何が言いたいんだ」


「……もし何かのキッカケで、その能力を善行ではなく悪行に使ったらと思うと……俺は時々ゾッとしてしまう時が……」


 ────ドカーーーーーーーーン


「「!?」」


「な、何だ!? 今の爆発音は?」


「城の…………方からだ……」













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