第34話 やはりフィジカル。フィジカルは全てを解決する。

「ちょっと待って、マサキ。

 隠しボスって、まさか”スフィンクス”に挑戦するって言うの?

 あの……”王選びの災いソウル・スナッチャー”、スフィンクスに?まだD級のあなた達が?」



 朝の食卓で。

 俺の宣言に最初に反応したのはミナだった。



「ああ。

 別におかしな話じゃない。何年かに一度はあることだろう?D級冒険者のスフィンクス討伐は。

 自分で言うのも何だが、俺たちの戦闘能力はD級の中じゃずば抜けている。

 ここは挑戦のしどころじゃないか?」


「……わからない。わからないわ。

 もちろん、所詮部外者の私がマサキたちの冒険活動に口出しをするつもりはない。

 でも、せめて聞かせて。そんな危険な冒険をする理由と、勝算がもしあるというならその理由を」



 もっともな疑問だ。

 むしろ、実際にダンジョンで戦うシズクやメディナがミナより先に聞いてこないのが意外だったくらいだ。



「いくつかあるな。

 まず最初に、ミッションの都合だ。

 ほらこれ……って、見えないんだよな」


 そう言って俺はミッション・コンソールの内容を読んで伝える。



【メインミッション】


 ・隠しボスを倒そう!



【期間限定ミッション】


 ・D級ダンジョン隠しボス「スフィンクス」を倒そう!(期間:D級冒険者所属中)



「メインミッションの方はまあ焦る必要はないんだが、期間限定ミッションの方は急を要する。

 なにせ、俺達はもうD級冒険者としてやるべきことはほとんど終わりかけてるからな。

 普通だったらとっくにC級昇格試験を受験しているレベルだ。それをあえてミッション消化のためにじっくり時間をかけてる状態なんだよ」



 今は各階層の完全攻略……すべてのフロアを踏破するミッションを順にこなしているが、これも第一層から始めてもう第八層まで終わりそうなくらいだ。

 ある理由から、第十層を完全攻略してしまうとC級昇格試験受験前にスフィンクスに挑めなくなってしまうので、あとは八層の残り少しと九層を攻略するだけ。

 あといくつかの武器使用ミッションをこなすだけか。


 まあこんなのメディナの補助も受ければあと2、3日で終わる仕事だ。

 となると、D級在籍中にスフィンクスに挑戦できる時間はもう残されていないと言っていい。



「今はデイリーミッションのリワードもだいぶ渋くなってきたからな。

 鍛錬、回復、栄養の全部をこなしてようやく1ジュエルって感じじゃないか。

 レベルもスキルもそろそろ1つ上げるのに4、5個必要な感じになってきたからちょいと成長速度がもどかしくなってきた。

 もちろん、それでも普通に努力するのに比べればずっと爆速成長なんだろうけど。


 だから、さ。

 がっつりとリワードを得るにはやっぱりメインミッションや期間限定ミッションに挑戦してかないとな。

 特に期間限定ミッションは、前のオーガ戦では身体スキルが全部レベル1つずつ上がったんだっけ?

 最近少々頭打ちしてる感のあったステータスを一気に伸ばすチャンスだろ。

 何がどれだけ上がるのかはわからないけど、身体スキルがもし上がったら生活にも冒険にもメリットがデカすぎるからな」



 体力ーー走力や持久力、ちょっとしたものを持ち上げる力、寝て起きたらすぐに行動できる回復力があると日常生活の捗りが段違いだ。


 やはりフィジカル。フィジカルは全てを解決する。



「そんでさ。

 スフィンクス討伐の本当の目的は奴のドロップアイテムなんだよな。

 あいつを倒すと確定でドロップする”スフィンクスの髭”は、C級階層の指定エリア”ファラオの試練”に挑戦するための必須装備の素材アイテムだ。

 そこのモンスターは稼ぎ効率がC級階層の通常エリアよりずっと良くて、さらにはそこでしか取得できないレア素材は常に需要があって、そこに潜れるってだけでも一生食いっぱぐれないっていうぜ。

 そこに挑戦するためには『呪い耐性』の装備がないとマトモに戦えないけどな」


「”スフィンクスの髭”は確かに貴重無アイテムだけど、それが目的なの?」


「いいや、確定ドロップの”スフィンクスの髭”に加えて、もう一つ狙いがある。

 レアドロップの”砂漠のルビー”だ。


 これはペンダントに加工すれば、毒半減、睡眠半減、麻痺半減、呪い耐性、魅了耐性、さらにはMP自動回復(小)の効果を持つ。

 これをシズクに装備させれば、”ファラオの試練”だけじゃなく、”蛇の試練”にも昇格直後に挑めるようになる。

 それ以前に普段の冒険で圧倒的に安定度が増すだろうしな。

 それだけ準備ができれば、C級昇格直後の滑り出しが大幅に順調になるだろう」



 シズクの今の幸運スキルはレベル4。

 ”砂漠のルビー”はかなりのレアドロップだというが、それなり以上にゲットの期待は持てる。


 もちろん一発勝負だし、幸運スキルをジュエルを注ぎ込んで6ぐらいにあげてもいいかもしれない。

 隠しボスは一度挑戦したら基本的には二度と戦えないからな。



 ま、”砂漠のルビー”に関しては絶対的な必須条件ではない。

 手に入ったらめちゃめちゃラッキーくらいの認識でもいいだろう。


 決して取り返しのつかない要素ではない。

 上のランクに上がっていけば、同等以上のアイテムを入手する機会はあるだろう。



「……それなりにリターンを期待しての話というのはわかったわ。

 私としてはそこまで焦らなくてもいいと思うけど、マサキの冒険活動に口出しはできないわね」


「いいや、近いうちにどんどん口出ししてもらうことになるぜ。

 なぜなら、俺はC級昇格後、すぐにでもスポンサー契約を申請するつもりだからな」



 C級冒険者ともなると、個人として自由に冒険するばかりじゃない。

 一定以上の稼ぎを得るためには、どこかの商店や工房とスポンサー契約を結ぶのが一般的だ。



 というのも、説明が遅れたがダンジョンのC級階層からはD級までとはかなり異なるルールが適用されるからだ。


 ダンジョンのC級階層は、”試練場”というモチーフだ。

 第十層以下と同様に誰でも探索できる通常エリア—石造りの回廊にオーガなどが徘徊する”鬼の試練”を基本としつつも、各種条件を満たすことで他の”試練場”への挑戦が可能になる。



 ”鬼の試練”はオーガという身も蓋もなく強力で危険な敵と戦う割に(C級基準では)稼ぎが少ないらしい。

 取得できる魔石量は劣るものではないが、C級ならば誰でも挑戦できるだけに試練に挑む人数が最も多く、ドロップアイテムの供給が太いだけに値が上がりにくいようだ。


 一方で、多種多様な試練に挑める冒険者は儲かる。

 試練ごとに異なるドロップを入手できるので、市場の需要に応じて最も得になる取引が選択できるからな。

 特に、特定の試練から取得できるドロップを経常的に必要とするような商会や工房が、その取得を得意とする冒険者に優先的に供給を依頼する代わりに買取価格に色をつけたり冒険に必要な道具を拠出したりする。



 とはいえ、C級冒険者が皆スポンサー契約を結べるわけじゃない。

 昇格直後はなおさらだ。


 スポンサーを得るには業績を上げる必要がある。業績を上げるにはスポンサーの存在が不可欠だ。スポンサーを得るためのスポンサーがない。



 なので大概のC級冒険者は捨て値のような金額でドサ回りを続けて1-2年かけてスポンサーとの関係を構築する。

 あるいはいっそスポンサーとの関係を無視して延々とオーガ討伐という、危険度に比してあまり旨味のない代わりに特段の参入障壁のない仕事に専念する者もいる。


 前者の場合はあまりにも失われる時間や機会が大きいし、後者は発展性に乏しい。(それでもD級冒険者よりはいい稼ぎにはなるんだが)



 余談だが、オーガがC級殺しと呼ばれる要因の一つはこれだな。

 単純に強いってのもあるが、C級の中でも仕事を広げていけないタイプの人種が延々と高頻度でオーガと戦う数が増えるわけで。

 オーガにやられる事故が数的に大きくなるのもある意味自然な現象だ。



 ともあれ、C級昇格直後の地味な下積み期間を省略するバイパスを通るためなら、ある程度の冒険も合理的といえるだろう。



「俺は、C級に上がったらミナの武具店にスポンサー契約を申し出るつもりだ。

 顔見知りってことでミナや店長には色々と世話になってはいるが、真剣なビジネスってことになれば今までみたいな甘い顔はできないだろう。

 むしろケジメをつけるためにも相応の目に見えるものを持っていかないと店内の稟議も通らないんじゃないか?

 そういう意味で、スフィンクスの討伐ってのは話を通しやすくなると思う」


「私は……私はマサキでお金儲けをするつもりなんてないわ」


「これは冒険者と武具店、対等な一人前の社会人同士の話だ。

 それともミナは、俺のことを一人前の男だと見てくれないのか?」


 ん……、今のはちょっとズルい言い方だったかもしれない。

 でも、さすがのミナもそこで引き下がってくれた。



「……マサキの言い分はわかった。ミッション・コンソールの指示ならば、相応に勝算のあるかけだとも思う。オーガの時もそうだった。

 ……とはいえ、備えは必要。装備にせよレベルやスキル、作戦にせよ。

 スフィンクスの倒し方について、なにか見通しは立っているの?」


「ああ。もちろんだ。

 昨晩アラン……えっと、俺の後輩で”光の勇者”なんて大層な異名で有名なアラン・ムサシノと飯食ったんだけど、その時に色々と話を聞いたんだ。

 勿論これから情報の裏取りをするけど、どうも俺達の持つスキルがかなり噛み合う相手っぽいんだよな。

 いくつか調達すべき装備品はあるが、余裕を持って倒せる相手だと思う」



 スフィンクスのもつ3つの形態。“朝の四本足”、“昼の二本足”、“夜の三本足”。

 これらそれぞれの特徴や攻撃パターンを聞いたところ、俺、シズク、メディナの戦闘スタイルを考慮し、攻略できる可能性が高いと踏んだんだ。


 この辺は順に説明すればシズクは納得してくれた。

 元々上昇志向の強いやつだ。

 危険に備えることはあれど、リスクテイクに躊躇するタイプじゃない。



「メディナはどうだ?

 今説明した作戦に基けば、十分以上の勝算はある。

 俺たちの中でも一番レベルの低いお前としては不安もあるだろうけど、スライムも考慮した戦闘力なら決してお前は俺たちに引けを取らないと思うけど……」



 言葉の途中で言い淀んでしまった。

 メディナが頭を抱えているのに気付いたから。



 少々の沈黙を経て、メディナは重苦しい口調で切り出した。



「……そもそも、昇格する必要なんてあるんスかね?」


 ーーーー

 話が進まない!説明ばっかり増える!

 こんなに書いてもスフィンクス戦い始めないとはね。

 作者が一番驚いてます。

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