第24話 宝箱には冒険者を悩ませる要素が2つある。
ドガっ。ズバっ。
俺の刀が6階層のモンスター達を斬り裂く。
「……マサキ、大丈夫?」
相棒のシズクが回復魔術をかけてくれる。
元々大したダメージではなかったので、一回で無事全回復できた。
「ありがとう、シズク。今日はここまでにしておくか」
「……いいの?まだ夕方だけど」
「うーん、ちょっと疲れちまったんだよな。
やっぱ昨晩眠りが浅くてさ。枕が変わったせいかな。
あのギルドの簡易宿泊所、ベッドの質も良くないし」
「……私は特に気にならなかったけど」
そりゃお前はな。元の環境が酷すぎたから麻痺してるんだろ。
いや、俺も御大層なこと言える身分じゃないがな。
やっぱ風呂にちゃんと入れないってのも地味にメンタル削ってるところはあるな。
言うてまあ、数日の我慢だし、慣れれば大丈夫でしょ。
ミッションに「風呂に入ろう!」とか出たら考えるけどさー。
D級冒険者としてのデビュー2日目。
俺たちは、6階層でも危なげなく戦えていた。
砂漠の王族の墓地という風情のこの階層。
出現するモンスターはアンデッド系が多く、耐久性に優れる上に毒や魔術など嫌らしい攻撃が多いが、元々かなりレベルやスキルに余裕がある俺達だけあって、奴らを倒すというだけならばさほど危険はない。
まあ5階層までほどスピーディーかつセーフティーに乱獲できるわけではないが、相当の数に囲まれるとかならともかく、普通に相対する分には受けるダメージもたかが知れている。
普通ならばそれでもダメージを負いすぎると回復薬のコストが嵩むが、シズクの回復魔術があるだけにその心配もない。
「しかし、シズクの”幸運”スキルがこういう形で封じられるのは計算外だったな」
そう。
戦闘面ではあまり問題がないものの、俺たちは少しばかり厄介な状況に立っていた。
「……まさか、D級以降ではレアドロップが全て『宝箱』で出現するとは思わなかった」
「一応なー。6階層以降、
レアドロップもその対象になるってのは計算外だった。そもそもレアドロップ自体そうそう出るもんじゃないから、情報として出回ってなかったのかな」
宝箱。
読んで字の如く宝の入った箱だ。
6階層以降のドロップアイテムは基本的に宝箱の形式で出現する。
道中にポンと置かれていることもあれば、モンスターからドロップすることもあるこいつだが……これが曲者だ。
宝箱には冒険者を悩ませる要素が2つある。「鍵」と「罠」だ。
鍵は「解錠」スキルがないと宝箱を開けられないし、開けられたとしても「罠」が発動したら大変な危機となる。
矢、毒矢の発射くらいならまだマシな方で、毒ガスや睡眠ガスの噴射、酷い時には中身ごと爆発することもあるという。
さらに恐ろしいのは、大量のモンスターを発生させる「アラート」や、ダンジョン内のどこかに強制転移させられる「テレポーター」だ。
これらが発動することは、死とイコールと言っても過言ではない。
「……一応、6階層くらいならば宝箱に鍵も罠もかかっていないことが多いとは聞く。かかっていても、低レベルの鍵や殺傷力の低い罠がほとんどだと。
もしも罠に私の”幸運”スキルが通用するなら、発動しない可能性もある」
「いっやー。やめとこうぜ。そうは言っても負う必要のないリスクだ。
それに全体的な傾向として、宝箱の中身は鍵や罠のレベルに比例するっていうし、一か八かで鍵や罠のないことにかけて宝箱を開けてもリターンが期待できないよ」
なので、昨日、今日と俺たちはドロップした全ての宝箱をスルーしていた。
D級冒険者以降では、斥候職の重要性が大きく増大すると言われている。
E級では精々、敵の気配感知で奇襲の防止、あるいは罠設置などでこちらが奇襲をかけるのに活用される程度だが。
このように宝箱の解錠、罠解除は言うに及ばず、道中の罠解除や隠し扉の発見なども斥候職がいなければまず無理だ。
まあよほど強引な手を使うなら、重装備で耐久性を固めまくったタンクが一人で罠発動覚悟で宝箱を開け、ダメージをその身で受けてアイテム回収するという最終手段がないではないが、死亡や重症のリスクのみならず、それで回復薬の出費を超える収入となる保証もない。
ウチの場合はシズクの回復魔術があるとはいえ、俺がそれをやるってのは即死リスクが怖いしそもそも痛い思いをしたくない。
あとはまあ半ば笑い話として、「ダンジョンをうろつくモンスターに宝箱を開けさせる」なんてスゴ技があるって話は聞いたことがあるが。
混乱魔術や催眠魔術で一時的に異常行動に陥らせたモンスターを宝箱の近くに誘き寄せると、まれに宝箱を開け始めて罠にかかって死ぬとかなんとか。
そんなことマジであるのか知らんが、リアルでそれに成功したら超気持ちいいだろうな。
……200年くらい前のS級冒険者の伝説で、”
そんなスキルがあるなら、「斥候職なしで宝箱を開けられる」なんてセコいことしなくても大儲けできそうなもんだが。
ま、そんな話は置いといてだ。
では斥候職がパーティにいなければ絶対にD級ゾーンである6〜10層を突破できないかというと、そうとも言い切れない。
というのも、宝箱自体普通はそれほど頻繁に落ちているものではなく、純粋な魔石の取得のみでもそこそこの稼ぎは得られるため金銭的に不利になるとまでは言えず。
また、道中の罠についても、既に「罠を踏まずに10階層のゴール地点まで進める進出ルート」が開拓されているため、一切寄り道をせずにゴリ押しで10階層最奥の転移石にタッチしてC級昇格試験の受験資格を得てしまう冒険者もそれなりにいる。
まあC級ゾーンである11階層からは罠の設置場所もランダムとなるし、それ以外の理由でも否応なく斥候職をパーティに確保する必要が出てくるが。
俺たちの攻略方針として斥候職をいつの時点で確保するかは考えものだ。
どうせいつかは必要になるのだから今すぐ誰かを勧誘するというのも一つの考えだが、俺たちの場合”ミッション・コンソール”や”幸運”スキルという特大の隠し球を持っているのだから、誘う相手を選びたいとは思ってしまう。
というのも、こう言ってはなんだが、どうせならば俺達の能力に見合うような有能な人材を確保したいし、それ以上に俺達の秘密を共有するに足りるだけの信頼性、人間性も必要だ。
なので、あえてD級では斥候職なしで乗り越えて、C級昇格後に、「本人の力でC級に上がれた人材」から選ぶという考えはある。
仮に相手がC級でなくとも、何か光るものがあって勧誘したいと思ったら、大体そういう人は俺達以外の冒険者にも引く手数多だろうから、勧誘する側であるこちらがD級よりC級まで上がってる方が確保できる可能性が上がるってのもあるしね。
ま、今すぐ決めることでもない。
まずは地道に戦闘経験を積み、日々のミッションをこなして地力を高めて、かつ資金も着実に蓄積して、今度こそ余裕を持ってC級昇格試験を受ける準備を固めよう。
いや、それ以前にまず住居を確保しなきゃならんか。
いつまでもギルド住まいってわけにもいかんし。まあライセンスと金があればある程度何とかなるのかな?
「よし、じゃあ今日はもう上がろう。魔石の収入は今日1日で、二人で7万ゴルドってとこか?
俺の滞納家賃、月3.5万の3ヶ月分で10.5万だから、この分だとまあ数日で返済して次の住処の敷金礼金も貯められるかな。D級昇格試験の中で稼いだ金も回収できたし。
……ペッペッ。しかし砂だらけになるな、この層は。
上がったら即水浴びだな。シズクから先にやるか?
今日は何処かの業者がギルドの裏口から荷物搬入するらしいから、邪魔にならないようにしろよ」
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