第15話 こいつがC級殺しと呼ばれる理由がわかった気がする
エクストラボスの控える部屋に突入する。
既に2人ともシールドの魔術は使用済み。
といっても、シズクの装甲じゃ気休めにもならないが。
今回も俺が前衛として完封する必要があるだろう。
オーガの体格は約2メートル半。
モンスターとしては超大型とは言わないが、その肉厚の重厚さは人間とは比較にならない。
深く窪んだ眼は白目がないためか一切の感情を感じさせない。
青白い硬皮は生半可な攻撃は受け付けないだろう。
暴力以外の余計な要素を取り払ったような、簡素な腰巻きと無骨な棍棒一本のみを持つ姿。
そこに存在しているというだけで、激しい圧力がここまで届いてきそうだ。
……今更ビビってんじゃない。
戦うと、勝つと、決めたはずだ。
「行くぜっ!」
愛刀を抜いて走り出す。
といっても、この動きは目くらまし。
本命は、シズクの放つ秘策にある。
「はぁっ!」
シズクが、小さな弓を目一杯に引き絞り、射撃を放つ。
彼女の視力はレベル2に上げてある。
弓術も同じくレベル2だ。
普通ならこれまでのような外し方はしないもんだがーーー今回は矢が特殊な分難易度は上がるはずだが……。
ザシュッ!
見事にオーガの顔面にヒットした。
幸運レベル3まで上げたかいがあったと言うべきか。
射撃の軌道自体は完全にオーガの眼球に向かっていたが、敵の反応が鋭かった。
咄嗟に顔を背けて眼球を守った結果、左頬に浅く突き刺さっている。
……恐るべき反応速度、そして頑丈さ。
歯や顎の骨が規格外に硬すぎるのか、シズクの細腕では顔面を撃ち抜いてさえ、大きなダメージは与えられていない。
心なしか、オーガが余裕の笑みを浮かべたような気さえした。
しかし、ここからが俺たちの秘策だ。
「やれっ!シズク!」
「ーーーファイナルストライク」
ボォンっ!!!
オーガの口の中で大爆発が生じる。
そう、これが俺たちの秘策。
ゴブリンキングを乱獲して入手した、『ゴブリンの魔剣』を用いた射撃。
さらにはそこからのファイナルストライク。
「いいぞ!さらにもう1丁!」
ヒュン!
追撃の一矢ーーと言っていいのかーーとにかくゴブリンの魔剣が、今度はオーガの右腕に突き刺さる。
今度も、クリティカル同然のピンポイントショット。
ちょうど、肘関節に滑り込むように炸裂弾が仕掛けられる。
そして当然ーー
ボォンっ!!!
2度目の爆発がオーガの肘を内部から破壊して、腕があらぬ方向に折れ曲がる。
ドサっ。
唯一の得物である大棍棒が地面に落ちて転げ回る。
よし!
出来過ぎな位の滑り出しだ!
この秘策を可能にしたのはシズクの才能によるところが大きい。
そもそも、ゴブリンキングを多少倒したところで、そう簡単にゴブリンの魔剣などを入手できるものではない。
ミッションによって睡眠時間や瞑想の時間を確保する必要があったので、狩れる数にも限りがあったしな。
だからこそ、シズクの幸運スキルが輝く場面だった。
最初の2日をかけて1本入手。
それまでのミッションで稼いだポイントを使い、幸運スキルをレベル3まで上げたおかげで、今日1日でもう1本確保できた。
ファイナルストライクの威力は俺も身をもって知っている通りだ。
しかしいくら強力な攻撃と言えど、普通は戦略に組み込めるものではない。
何しろ自爆技だ。
俺がゴブリンの魔剣で特攻を仕掛けても、1本目の反動でノックダウンだろう。
耐久性で俺に大幅に勝るオーガの目の前で無防備な姿を晒すことになる。
死とイコールと言っていい。
だが、シズクの射撃ならば?
安全圏から炸裂弾を叩き込み、巻き込まれない位置で爆撃を仕掛ける。
しかも、射撃が上手く身体に突き刺されば、内部からの爆発でさらに大きなダメージが期待できる。
賭けの部分はある。
何しろ、2本しかない貴重な魔剣。
これまでのシズクの射撃のような運任せに使うわけにはいかない。
だから、視力と弓術を2まで上げた。
本当は幸運に極振りしたいシズクのポイントだが、ここは手堅くいく必要があるからな。
もし2発とも外すようならその時点で撤退することをシズクと約束していた。
結果は完璧以上と言っていいだろう。
顔面と利き腕の内部破壊。
これだけで倒せてもいい気さえするが……。
「グォ……オオオォ……」
のそり。
緩慢な動きだが、オーガが体勢を直そうとしている。
ボタリ。ボタリ。
左下半分が消失した顔から多量の血が流れ落ちる。
奥歯に至るまで砕け散っているようだが、骨格自体は無事なのか。
ひゅるるる、と間抜けな空気音を漏らしながらも、敵意の籠った顔でこちらを睨みつけてくる。
チっ。
やはり腕力不足か。
呆れるほど頑丈な奴だ。
もう少し深く突き刺せれば即死も狙えたのだろうがーー仕方ない!
「うおおおおっ!!!」
今度こそ本気で突進する。
狙いはオーガの正面ーーではなく!
「おらぁっ!」
オーガの取り落とした棍棒を思い切り蹴り飛ばす。
ガラン!ゴロン!と音を立てながら、棍棒は部屋の隅まで吹っ飛んで行った。
折角武器を落とさせたんだからな。
拾わせねえよ。削げる戦力は削いでやる。
多少は不意を突けたのか、やや遅れた反応でオーガがこちらに向き直る。
ーーこのタイミングならばいける!
「せいっ!!!」
愛刀を全力で振りぬく。
渾身の横薙ぎ。オーガの強固な外皮を貫くのは容易ではないが……。
ズバァっ!!!
「グオォっ!?」
深く、深く斬りこんでやった。
予想外のダメージに、オーガの動揺が見て取れる。
その隙にもう一発、さらに一発有効打撃を叩き込む。
我ながら素晴らしい威力だ。
今の俺のレベルは16。ジュエルを10消費して3つレベルを上げている。
さらに、ジュエルをつぎ込んで筋力をレベル4、剣刀術をレベル3に上げてある。
合計11ジュエルを消費しただけあって、攻撃力だけならC級でも並以上の水準に辿り着けているだろう。
「グオオオオっ!!!」
オーガの強烈な左フック。
速さも激しさも凄まじいーーだが!
「ハっ!!!」
紙一重で躱してカウンター気味に胴体を斬り抜ける。
よし!いい。今のは上手く斬れた。
やはり初手で右腕を奪えたのが大きい。
攻撃手段が左腕に限定されているとわかれば、読める分こちらの反応が早くなる。
しかし、本当に頑丈な奴だ。
これだけ斬っても、まるで動きが衰えない。
事前に用意した策は完璧に上手くいった。
自分にできる最高の攻撃を叩き込んでいる感覚はある。
それでも、倒れてくれない。
硬い皮は斬れる。分厚い筋肉もある程度は断ち切れる。
しかし、骨に届かない。
関節を狙って斬り付けても、あまりに太い骨に弾き返されてしまう。
内臓を狙おうにも、太く分厚いあばら骨が胴体のほとんどをカバーしており、それを抜くのは容易ではない。
……このままじゃジリ貧だ。
スタミナは当然向こうが上だろう。
持久戦は不利。
幸い、敵の動きがつかめてきた。
もう半歩。半歩だけ間合いを詰めてみるか。
大丈夫なはずだ。
身躱しスキルだって、ジュエルを3消費してレベル3に上げてある。
最悪一発や二発食らっても、体力もレベル4まで上げたんだ。そう簡単にはやられないはず。
多少のダメージを受けてもシズクの回復魔術もある。
さあ、ここで少し踏み込んでーー
「ダメっ!マサキ!」
シズクの叫び声が耳に届いた時。
目の前には大きく開かれたオーガの顎があった。
ーー噛みつき!
全く予想していなかった。
攻撃手段が左腕だけなど、なんて都合のいい勘違いだ。
このタイミングーー躱せない!
オーガの万力のような咬合力で咬みちぎられたら、俺の体など一撃で真っ二つだろう。
死——圧倒的な暗闇と終わりを予感したその瞬間。
ヒュン!
シズクの放った矢がオーガの顔面に飛び込んできた。
ガジャっ!
奇怪な音を立ててオーガが首をふるうと、空中で矢が消失する。
一瞬遅れて、オーガが飛来する矢を咬みちぎったことに気付く。
「う、うおおっ!」
その隙に全力でバックステップし、オーガとの間合いを空ける。
あ、あぶねえ!
シズクのサポートがなかったら、死んでいた!
そもそも何故俺は安易に間合いを詰めてしまったんだ?
奢り。油断。増長。
オーガの動きを掴んだと。パターンを覚えたと。
自分を過信して取ってはならないリスクを取ってしまった。
そこを偶然狙われた?
いや、違う!誘導されたんだ!オーガに!
あえて単調な攻撃を繰り返して、俺が無造作に仕掛けてくるのを待っていたんだ!
シズクもそれに気づいていた!
……してやられた。モンスター風情に。
なるほど、こいつがC級殺しと呼ばれる理由がわかった気がする。
だが、そうと分かれば二度と油断はしない!
気を取り直して刀を構える。
さあ、仕切り直しだ。
オーガの左ストレート。
余裕を持って大きく躱す。
迂闊に攻めるな。蹴りも頭突きも噛みつきもあるぞ。
間合いを取って、躱す、躱す、躱してーーここだ!
狙いすました呼吸で斬り込む。
浅い……これでは消極的過ぎるのか。
もう一度だ。
丁寧に躱し、躱し、隙を伺うーー今!
さっきよりも、強く、激しく、深く。
渾身の一撃を放ったがーー。
プシっ。
あまりに浅い一撃は、オーガの皮膚を削るに留まる。
あれ?
今までで一番浅いぞ?というか、ほとんど届いていない。
……何故?
もっと深く踏み込んだはずだったのに。
渾身の一撃をほぼ空振りした俺の大勢は、いわゆる死に体だ。
オーガの膝蹴りが不可避のタイミングで飛んでくるーー。
ヒュン!
シズクの矢が、オーガの肋骨を縫う軌道で、心臓めがけて飛来する。
流石に無視できなかったのか、オーガは蹴りをやめて、空中の矢を左手で掴み取る。
危なかった!
またシズクに救われた!
そう思って俺はバックステップで距離を取る。
……待て。
今、俺は、何故下がった?
シズクの援護で、オーガに隙ができたというのに。
今なら深く斬りこめるチャンスだったのに。
どうして、そこで逃げてしまったんだ?
……ビビっているのか?俺は?
オーガの放つ圧力に。死の気配に。
「ガアアっ!」
オーガの左ストレートが飛んでくる。
下がりながら、躱す。
下がって、下がって、余裕をもって。
「ハアっ!ハアッ!ハアっ!」
気付けば肩で息をしている。
スタミナが、切れかけている。
原因は明白だ。
間合いの取りすぎ。
オーガの攻撃を過剰に大きく避けることで、無駄に体力を消耗してしまった。
オーガを見る。
息一つ乱していない。
空振りを連発したら疲れてくれてもよさそうなもんだが、この怪物に人間の常識など通用しないのだろう。
クソっ……!
こんなところでやられてたまるか!
「マサキ!」
シズクの声が、やけに近く聞こえた。
いや、違う!
当初は20メートル以上後ろにいたはずのシズクが、もう3-4メートル後ろに立っていた。
……こんなに下がっていたのか、俺は!
「うおおおっ!」
バツの悪さを打ち消すように気迫を込めるが、そこでオーガが妙な動きを見せる。
胸を広げて、大きく息を吸い込んで。
「ーー火炎放射だ!下がれ!シズク!」
予め対策していたオーガの特殊能力だ。
対策は単純。斜め後ろに下がること。
火炎放射の射程距離はオーガの肺活量に依存する。
広範囲を燃やそうとすれば射程距離が犠牲になるし、口をすぼめて遠くに炎を届かせようとすれば直線的で細い軌道になる。
だから斜め後ろに躱すことで、その両方に対応する。
「ガァァァッ!!!」
ゴォオオオっ!!!
オーガの叫びとともに、激しい炎が吐き出される。
当然、シズクは俺に言われるまでもなく打合せ通りの回避行動をとる。
俺も言わずもがなだ。
ようやく準備していた通りの動きができた。
ここでペースを立て直そう。
そこで、想定外の幸運が起きた。
初手のファイナルストライクでオーガの顔面の左側がはじけ飛んでいたが、そこから火炎放射が漏れ出したのだ。
集中して放つべき呼吸がそこでバラバラに分散し、火炎放射がまるで前に飛んでいかない。
どころか、左頬の大穴から漏れ出した炎がオーガ自身の身体をまんべんなく舐めまわし、火だるまになっている。
は、ははは。
間抜けな野郎だぜ。
ざ、ざまあみろってんだ。
「マサキ!」
シズクが矢を放ちながら放つ叫びで、俺は我に返る。
笑っている場合か!
こんな炎で奴が死ぬとでも思っているのか!
この千載一遇のチャンスになにを突っ立っているんだ俺は!どこまで消極的になれば気が済むんだ!
シズクの矢はまたしてもクリティカルヒットの軌道を描く。
しかし、オーガは火だるまになりながらもその矢を空中で打ち払う。
……こいつら、どっちもバケモノかよ。
「う、うおおおっ!!!」
焦りと自責のせいか、どこかちぐはぐな呼吸で飛び込んでしまったのだろうか。
火だるまのはずのオーガが、いつしか落ち着き払った態度で俺の攻撃を迎え撃つ。
ドゴォっ!
「がっ……!」
オーガの左ストレートが俺のどてっぱらに直撃する。
蒸気機関車に跳ね飛ばされた可能ような衝撃が俺の肉体を襲う。
体力レベル3など紙切れのようだ。
なすすべもなく、俺の体が後方に吹き飛ぶ。
ガンっ!
受け身さえ取れずに壁に直撃した時。
俺の意識は暗転した。
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