第45話 五人そろって、ブゲイジャー!
「みんな、はやく逃げて」
桃李は大声を張り上げる。
地上につながるトンネルをのぼって、団地に住むみんなを外に誘導する桃李を、イエローの戦士がフォローしてくれる。外に出てみると、トンネルはなんと公園のすみの林の中につながっていた。
外はすっかり夜。ちょっと肌寒い。でも、外の空気はほっとする。
桃李についていてくれたイエローの戦士は背が低いので、もしかしたら中の人は女の子かもれしない。戦闘スーツもすこしスカートっぽくなってるし。でも、小さいくせに腰にすっごい長い刀を差していて、それがすっごく格好いい。
「みなさん、早く家に帰って、今日は寝てくださーい」
イエローの戦士が指示すると、ふらふらと外に逃げてきたみんなが黙って自分の家の方へ歩き出す。どうやら妖怪の催眠効果がまだ消えていないらしい。
隣の柴田のおばさんも、桃李のお母さんも、ぼうっとした寝ぼけ顔のまま、ふらふらと自分の家の方へ歩いて行く。
「これで安心だな、少年」
イエローの戦士に言われて、桃李はうなずく。
「危ないから少年も帰れ。もうすぐ妖怪との戦闘が始まるぞ」
女の声なのに、口調が男っぽい。でも、そこがヒーローらしい。
「え、でも、……見てちゃダメ?」
イエローの戦士がちょっと肩をすくめ、かすかに笑ったみたいだった。そして、小さい声でこう告げる。
「だったら、あそこの木の陰にいろ。絶対に出てきちゃダメだぞ。出てきたら敵の人質になっちゃうパターンだからな。顔を出さずに、こっそり覗いていろ」
言い終わるか終わらないかのタイミングで、トンネルから青の戦士とピンクの戦士が飛び出してきた。ピンクはピンクガラシャ、名護屋さんだ。
そのあとから、ブラックがジャンプで飛び出し、あとを追って逃げてきたレッドが足を絡めてすっ転ぶ。どうやら、妖怪の糸が足に巻き付いたらしい。
「ちょっと、ムサシ」
慌ててピンクが戻ろうとするが、ブラックの方が近かった。手にした刀を一閃。レッドの足の糸を切断する。慌てて立ち上がったレッドのムサシがひーひー言いながら、追いかけてくる妖怪土蜘蛛の鋭い爪から逃れて横に転がる。
「伏せて!」
ざっと一歩踏み込んだピンクガラシャが、どこからともなく取り出した巨大なライフル銃を土蜘蛛に向けて発砲する。猛烈な銃撃音と光に、桃李は思わず目をつむって耳をふさいだ。
──名護屋さん、ものすごい戦闘力だ。
そのすきに離脱したレッドムサシとブラックジュウベエが距離をとり、二人にほかの三人も合流する。
「おのれ、剣豪戦隊め」
腹に銃撃をくらったのに、妖怪・土蜘蛛は怪我もしていない様子。だが、苦しそうにその動きをとめる。
レッドムサシが前に一歩出て、しずかに告げる。
「妖怪土蜘蛛(成虫)。団地のみなさんを妖怪と入れ替えるとは、ずいぶん大胆な作戦を展開してくれたが、おまえの悪さも今夜で最後だぜ」
土蜘蛛のことをびしり!と指さすレッドムサシは、するりと腰の刀を抜き放った。
「赤い正義の炎! レッドムサシ」
すっと横に立ったブラックジュエベエが刀の柄に手を掛ける。
「黒い疾風、ブラックジュウベエ」
その隣で、イエローの戦士が腰の刀を鞘ごとずいと前に突き出す。
「黄色い閃光! イエロージンスケ」
ちょっとため息ついて、あきれたような態度の名護屋さんがほかの三人に肩を並べる。
「月夜に舞う桃色の花吹雪。ピンクガラシャ」
ちょっと戸惑うように、空いていた真ん中にたったブルーの戦士が、それでも名乗る瞬間は腹から響く太い声で叫ぶ。
「地獄の猟犬! ブルーチューイ!」
「剣豪戦隊!」
レッドムサシが叫ぶ。
全員の声が重なる。
「ブゲイジャー!」
イエローが腕を伸ばし、立てた親指を下にむける。
「成敗」
それが合図だった。
いきなり駆けだしたブルーチューイが突っ込み、妖怪に上段からの一太刀を浴びせて駆け抜ける。それに被せるように、後方から高速でホバーしたブラックジュエベエの一撃。
「剣豪奥義。一刀嵐斬!」
低い声が妙にかっこいい。女にはモテないだろうけど。
そこへ被せるようなレッドムサシのジャンプからの一撃。
「剣豪奥義! 烈火巌流崩し」
炎をまとった攻撃が、土蜘蛛の身体を焼く。
すかさず横に転がるムサシ。
入れ違うように踏み込んだイエロージンスケの抜刀。異様に長い刀が、なにかの魔法のように抜き放たれ、土蜘蛛の腹を切り裂く。
低い声でつぶやくイエロージンスケ。
「剣豪奥義……、雷速抜刀」
びゅっと血ぶるいして、そのまま横に転がる。
「ガラシャ・ガーランド! マシンガン・モード」
トドメはピンクガラシャの機銃掃射だった。連射される赤いビームの銃弾が連発で土蜘蛛の身体に命中し、そのどてっ腹に大きな穴があく。
そして、つぎの瞬間、土蜘蛛の身体が大爆発。直径十メートルくらいある火炎が広がり、ぼうんっ、とでっかいキノコ雲が噴き上がる。
ぶわっと膨らんだ炎が団地の壁をオレンジ色に染め、熱風が吹き付けてくる。
爆発によって粉々に砕け、火の粉となって吹き飛んで行く妖怪の身体。
「今週のナパーム、多くないですか?」
だれにともなくつぶやくイエロージンスケ。
妖怪が消し飛んだあとも、その場所に立ち込める紫煙。
その紫煙の中に、抜き身を引っ提げたブルーの戦士が静かに立っている。
「悪がいるなら、あたしは斬る」
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